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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第七章「失われた三つの石」

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第四話「持ち去った者」

『石は失われたのではない』



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『誰かが持ち去った』



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その文字を見た瞬間。



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真之介の中で一つの疑問が生まれた。



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誰が。



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なぜ。



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三つの石だけを。



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八つの守り石。


第九。


第十。



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これまで関わってきた全ての出来事。



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その中心には、


いつも藤富家がいた。



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だが。



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今回だけは違う。



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藤富家の記録にも残っていない。



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つまり。



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持ち去った者は。



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藤富家の管理から外れた存在。



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「真之介!」



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後ろから咲の声。



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振り返る。



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咲が地下へ駆け込んできた。



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顔色が悪い。



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「どうした」



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「見たの」



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「何を」



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咲は息を整える。



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そして。



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震える声で言った。



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「人が死ぬ」



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空気が凍る。



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「誰だ」



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「分からない」



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「でも」



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咲は目を押さえた。



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「今夜」



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「この村で」



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「誰かが死ぬ」



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その言葉。



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真之介は否定できなかった。



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咲が見るものは、


今まで何度も現実になっている。



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「場所は?」



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「分からない」



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「顔も見えない」



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「ただ」



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咲は壁を見た。



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「黒い石」



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「それだけ覚えてる」



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黒い石。



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守り石ではない。



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真之介の頭に浮かんだ。



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昨夜の男。



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御影蓮司。



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同じ頃。



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村の外れ。



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古い神社跡。



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御影蓮司は静かに立っていた。



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周囲には誰もいない。



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手の中。



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黒い石。



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石の表面には。



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無数の文字。



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名前。



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恨み。



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後悔。



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人間の感情が刻まれている。



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「まだ足りない」



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蓮司は呟く。



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「もっと必要だ」



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石に触れる。



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すると。



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足元の影が揺れた。



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影が立ち上がる。



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人の形。



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しかし顔がない。



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それは。



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怪異。



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「行け」



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蓮司が命じる。



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怪異は音もなく消えた。



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その夜。



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村で祭りが開かれていた。



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明治になっても残る古い祭り。



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提灯。



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太鼓。



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人々の笑い声。



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真之介も来ていた。



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しかし。



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落ち着かない。



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咲の予知。



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黒い石。



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何かが起きる。



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その時。



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子供の悲鳴。



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「きゃあ!」



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人々が振り返る。



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真之介も走る。



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神社裏。



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そこに。



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一人の少年が倒れていた。



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首には黒い痣。



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まるで。



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何かに掴まれたような跡。



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「おい!」



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真之介が抱き起こす。



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息はある。



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しかし。



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意識がない。



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その時。



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少年の口が動いた。



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誰の声でもない。



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低い声。



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『返せ』



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真之介の背筋が凍る。



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『返せ』



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『返せ』



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『返せ』



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突然。



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少年が目を開く。



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真っ黒な瞳。



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人間の目ではない。



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「三つを返せ」



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その瞬間。



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祭りの灯りが。



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全て消えた。



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村が闇に沈む。



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そして。



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真之介は見た。



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闇の中。



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無数の人影。



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いや。



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人ではない。



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何百人もの怪異。



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村を囲んでいた。



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第七章 第四話

「持ち去った者」

終。

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