第三話「石が見た未来」
「未来……?」
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咲の言葉が地下室に落ちた。
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真之介はすぐには理解できなかった。
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今まで見てきたもの。
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怪異。
呪い。
記録。
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それらはすべて、
過去に残されたものだった。
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人間の感情。
後悔。
悲しみ。
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過ぎ去った時間の残骸。
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しかし。
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咲が見たものは。
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まだ起きていないもの。
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「本当に未来なのか?」
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真之介が聞く。
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咲は震えながら頷いた。
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「分からない……」
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「でも」
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「私が見た村には……」
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咲は目を閉じる。
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思い出すだけで苦しそうだった。
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「誰もいなかった」
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「建物も壊れていて」
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「でも」
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「石だけが残っていた」
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真之介は壁を見る。
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そこには、
三つの名前。
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しかし。
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その名前だけは読めない。
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削られている。
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「未来に起きることを記録する石」
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真之介は呟く。
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「そんなものが存在するなら……」
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「なぜ隠した」
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答えは。
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すぐには出なかった。
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翌日。
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藤富家の会議室。
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一族の者たちが集められていた。
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榊原清十郎。
藤富宗一郎。
綾乃。
そして真之介。
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「三つの石について」
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綾乃が資料を広げる。
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「過去の記録を調べました」
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「しかし」
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「不自然なほど情報がありません」
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「消されている?」
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真之介。
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綾乃は頷く。
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「はい」
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「まるで」
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「最初から存在しなかったことにされている」
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宗一郎が口を開いた。
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「藤富家には昔から禁則があります」
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「何だ」
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「三つの石を探すな」
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部屋が静まる。
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「理由は?」
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真之介が聞く。
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宗一郎は答えた。
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「見つけた者は」
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「必ず石を求めるからです」
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「力を?」
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「違う」
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宗一郎は苦い顔をした。
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「答えを求める」
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その言葉。
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真之介は理解した。
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人間は力だけを欲しがるわけではない。
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なぜ苦しんだのか。
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なぜ失ったのか。
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なぜ自分なのか。
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答えを知りたい。
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その欲望もまた。
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呪いになる。
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その夜。
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屋敷の外。
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一人の男が立っていた。
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黒い外套。
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古い杖。
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「やはり動いたか」
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男は屋敷を見る。
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その名は。
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御影蓮司。
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まだ若い。
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しかし。
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目には長い年月を生きたような冷たさがあった。
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「藤富はいつも同じだ」
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「恐れるだけで」
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「理解しようとしない」
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手には。
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黒い石。
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守り石ではない。
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呪いを集めるための石。
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「三つの石」
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蓮司は笑う。
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「それがあれば」
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「人間は変われる」
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同じ頃。
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真之介は地下室へ向かっていた。
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理由はない。
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ただ。
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呼ばれている気がした。
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扉の前。
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昨日と違う。
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扉には文字が浮かんでいる。
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『選ぶ者へ』
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真之介は触れる。
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瞬間。
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地下全体が揺れた。
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そして。
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壁の奥から。
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小さな音。
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カチッ。
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何かの鍵が外れる音。
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その先に。
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暗い空間。
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しかし。
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まだトンネルではない。
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ただの空洞。
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真之介は灯りを向ける。
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そこには。
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三つの石を置く台座。
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しかし。
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台座は空だった。
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そして。
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最後に残された文字。
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『石は失われたのではない』
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『誰かが持ち去った』
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真之介は息を止める。
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つまり。
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三つの石は今も。
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どこかに存在する。
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第七章 第三話
「石が見た未来」
終。




