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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第七章「失われた三つの石」

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第一話「明治の終わりに残された影」

時代:1900年(明治33年)



---


明治という時代は。


多くのものが変わっていた。


町には新しい建物が増え。


人々の服装も変わり。


昔から続いた風習は少しずつ消えていった。



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しかし。


変わらないものもあった。



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人間が抱える恐怖。



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そして。


忘れられない想い。



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藤富真之介は、古い屋敷の縁側に座っていた。


手には一冊の古い記録。



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表紙には何も書かれていない。


ただ。


内側に一文字だけ。



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「石」



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と記されていた。



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「また読んでいるのですか」



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声がした。


振り向くと、


咲が立っていた。



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「昔の記録だ」



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真之介は答える。



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「第九のこと」



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咲は少し悲しそうな顔をした。



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第九。



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かつて人間の記憶を守ろうとした存在。



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敵ではなかった。



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しかし。


人間を守ろうとするあまり、


人間から変化する力を奪おうとした。



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「もう終わったんじゃないですか?」



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咲が聞く。



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真之介は黙った。



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第十の石は止まった。



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第九も静かになった。



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長い間続いた問題は終わった。



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本来なら。



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そう思うはずだった。



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「……終わったと思いたい」



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真之介は言った。



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「でも」



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記録を見る。



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「この石の記録には」



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「八つではなく」



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「十一の名前がある」



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咲の表情が変わる。



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「十一?」



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真之介は頷く。



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八つの守り石。


第九。


第十。



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そこまでは知っている。



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しかし。



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古い記録には、


さらに三つの名前が書かれていた。



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ただし。



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その三つだけ。


名前が消されている。



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「誰が消したんですか?」



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咲が聞く。



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真之介は答えなかった。



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なぜなら。



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その答えは。



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すでに書かれていたから。



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ページの最後。



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震えた文字。



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『見つけてはいけない』



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その夜。



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藤富家の地下。



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古い保管庫。



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真之介は一人で歩いていた。



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明かりを持ち。



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過去の資料を探す。



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すると。



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奥の壁。



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以前はなかったはずの場所に。



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小さな扉があった。



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「……?」



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古い。



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しかし。



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鍵は壊れている。



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中には、


一本の石片。



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守り石の欠片。



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でも。



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普通の石ではなかった。



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触れた瞬間。



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声が聞こえた。



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『見つけた』



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真之介は手を離す。



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「誰だ」



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返事はない。



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ただ。



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石から映像が流れた。



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炎。



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泣く人々。



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そして。



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見知らぬ男。



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その男は言った。



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『八つの石は』



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『守るためではない』



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『人間が近づかないようにするためだ』



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真之介の背筋が冷える。



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「何から……」



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映像の男は、


最後に一言。



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『忘れろ』



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そこで映像は消えた。



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翌朝。



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藤富家に一人の老人が訪れた。



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名は、


榊原清十郎。



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元・守り石管理者。



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彼は真之介を見ると、


最初にこう言った。



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「あなたは見てはいけないものを見ましたな」



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「何を知っている」



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真之介が問う。



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老人は答えた。



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「三つの石」



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「失われた理由」



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「そして」



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少し間を置く。



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「石が恐れていたもの」



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真之介は息を止めた。



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「怪異か?」



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老人は首を振る。



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「違います」



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「怪異より怖いものです」



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その瞬間。



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屋敷の外で。



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石が一つ。



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音もなく割れた。



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第七章 第一話

「明治の終わりに残された影」




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