第一話「明治の終わりに残された影」
時代:1900年(明治33年)
---
明治という時代は。
多くのものが変わっていた。
町には新しい建物が増え。
人々の服装も変わり。
昔から続いた風習は少しずつ消えていった。
---
しかし。
変わらないものもあった。
---
人間が抱える恐怖。
---
そして。
忘れられない想い。
---
藤富真之介は、古い屋敷の縁側に座っていた。
手には一冊の古い記録。
---
表紙には何も書かれていない。
ただ。
内側に一文字だけ。
---
「石」
---
と記されていた。
---
「また読んでいるのですか」
---
声がした。
振り向くと、
咲が立っていた。
---
「昔の記録だ」
---
真之介は答える。
---
「第九のこと」
---
咲は少し悲しそうな顔をした。
---
第九。
---
かつて人間の記憶を守ろうとした存在。
---
敵ではなかった。
---
しかし。
人間を守ろうとするあまり、
人間から変化する力を奪おうとした。
---
「もう終わったんじゃないですか?」
---
咲が聞く。
---
真之介は黙った。
---
第十の石は止まった。
---
第九も静かになった。
---
長い間続いた問題は終わった。
---
本来なら。
---
そう思うはずだった。
---
「……終わったと思いたい」
---
真之介は言った。
---
「でも」
---
記録を見る。
---
「この石の記録には」
---
「八つではなく」
---
「十一の名前がある」
---
咲の表情が変わる。
---
「十一?」
---
真之介は頷く。
---
八つの守り石。
第九。
第十。
---
そこまでは知っている。
---
しかし。
---
古い記録には、
さらに三つの名前が書かれていた。
---
ただし。
---
その三つだけ。
名前が消されている。
---
「誰が消したんですか?」
---
咲が聞く。
---
真之介は答えなかった。
---
なぜなら。
---
その答えは。
---
すでに書かれていたから。
---
ページの最後。
---
震えた文字。
---
『見つけてはいけない』
---
---
その夜。
---
藤富家の地下。
---
古い保管庫。
---
真之介は一人で歩いていた。
---
明かりを持ち。
---
過去の資料を探す。
---
すると。
---
奥の壁。
---
以前はなかったはずの場所に。
---
小さな扉があった。
---
「……?」
---
古い。
---
しかし。
---
鍵は壊れている。
---
中には、
一本の石片。
---
守り石の欠片。
---
でも。
---
普通の石ではなかった。
---
触れた瞬間。
---
声が聞こえた。
---
『見つけた』
---
真之介は手を離す。
---
「誰だ」
---
返事はない。
---
ただ。
---
石から映像が流れた。
---
炎。
---
泣く人々。
---
そして。
---
見知らぬ男。
---
その男は言った。
---
『八つの石は』
---
『守るためではない』
---
『人間が近づかないようにするためだ』
---
---
真之介の背筋が冷える。
---
「何から……」
---
映像の男は、
最後に一言。
---
『忘れろ』
---
---
そこで映像は消えた。
---
---
翌朝。
---
藤富家に一人の老人が訪れた。
---
名は、
榊原清十郎。
---
元・守り石管理者。
---
彼は真之介を見ると、
最初にこう言った。
---
「あなたは見てはいけないものを見ましたな」
---
---
「何を知っている」
---
真之介が問う。
---
老人は答えた。
---
「三つの石」
---
「失われた理由」
---
「そして」
---
少し間を置く。
---
「石が恐れていたもの」
---
---
真之介は息を止めた。
---
「怪異か?」
---
老人は首を振る。
---
「違います」
---
「怪異より怖いものです」
---
---
その瞬間。
---
屋敷の外で。
---
石が一つ。
---
音もなく割れた。
---
---
第七章 第一話
「明治の終わりに残された影」
終




