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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第六章 九番目の神

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第四話「人間の矛盾」

『なぜ人間は忘れられることを恐れる』



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第九の声が。



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村全体に響いていた。



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真之介は答えられなかった。



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その問いは。



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怪異から投げられたものではなく。



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人間そのものへの問いだった。



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忘れたい記憶がある。



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苦しい過去。



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失敗。



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後悔。



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できれば消したい。



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なのに。



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自分という存在が。



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誰かの記憶から消えることは怖い。



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「……矛盾しているな」



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真之介は呟いた。



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第九は静かに返す。



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『矛盾?』



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「そうだ」



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「人間は忘れる」



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「でも」



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「忘れられたくない」



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「それが人間だ」



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村の中の人々。



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記憶だけで作られた存在たち。



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彼らは黙って聞いていた。



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第九は理解しようとしている。



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だが。



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まだ分からない。



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『理解不能』



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その声。



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初めて。



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迷いが混じっていた。



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その時。



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空間が歪んだ。



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村の景色が揺れる。



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家。



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道。



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人々。



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全てがノイズのように崩れる。



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「何だ!」



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真之介が叫ぶ。



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すると。



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黒い武者が現れた。



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「来たか」



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真之介は振り返る。



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「知っているのか」



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武者は答える。



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「第九の意思ではない」



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「では誰だ」



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武者は山の方を見る。



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「藤富景継」



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次の瞬間。



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白い光。



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そして。



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景継が現れた。



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「違う」



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景継は言った。



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「私は第九の一部ではない」



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「なら何だ」



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真之介は問い詰める。



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景継は自分の手を見る。



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「残された願いだ」



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「私が死んだ後も」



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「私の願いだけが残った」



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つまり。



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これもまた。



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記憶。



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景継本人ではない。



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しかし。



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本人の思想。



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執念。



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それだけが存在している。



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「第九は」



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景継は続ける。



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「人間を救う力になる」



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「永遠の世界を作れる」



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真之介は睨む。



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「この偽物の村がか」



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景継は否定しない。



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「偽物?」



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「違う」



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「ここにいる者たちは苦しんでいない」



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「死もない」



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「失うこともない」



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その言葉。



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一瞬だけ。



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魅力的だった。



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もし。



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大切な人を失わないなら。



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もし。



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死が存在しないなら。



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誰も悲しまない。



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しかし。



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真之介は知っていた。



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第四章。



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第五章。



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死者が戻った時。



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それは救いではなかった。



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終われない苦しみだった。



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「それは生きているとは言わない」



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景継を見る。



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「変わらないものは」



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「生きていない」



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景継の表情が変わった。



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怒り。



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ではない。



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悲しみ。



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「お前も」



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「いつか分かる」



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「大切なものを失えば」



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「永遠を望む」



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その言葉。



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真之介の胸に刺さる。



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なぜなら。



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自分も。



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失うことが怖いから。



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その瞬間。



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村の中央に亀裂が走った。



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地面から。



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巨大な黒い影。



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今まで見た怪異とは違う。



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記憶ではない。



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感情でもない。



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純粋な力。



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「これは……」



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武者が刀を構える。



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「第九の深部」



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真之介を見る。



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「今まで見えていたのは表面だ」



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「本当の第九が目覚める」



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黒い影が伸びる。



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村人たちが消えていく。



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「助けて!」



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「先生!」



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真之介は走った。



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記憶だけの存在。



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それでも。



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彼らには感情がある。



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恐怖がある。



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苦しみがある。



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なら。



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無視できない。



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「待て!」



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真之介が影へ向かう。



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しかし。



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触れた瞬間。



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頭の中に大量の映像が流れ込んだ。



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戦。



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災害。



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別れ。



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死。



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人間が積み重ねてきた全ての喪失。



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それは。



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第九が見てきたもの。



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何千年分の記憶。



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真之介は膝をついた。



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「これを……」



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「全部見ていたのか」



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第九の声。



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初めて。



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苦しそうだった。



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『人間は』



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『なぜ』



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『これほど苦しむ』



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真之介は震えながら立つ。



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「だからだ」



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「だから」



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「人間は生きる」



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「苦しいから」



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「大切にする」



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「失うから」



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「出会いを覚える」



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沈黙。



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第九は答えない。



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その時。



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景継が笑った。



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「甘い」



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「人間は」



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「苦しみを受け入れられない」



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そして。



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景継の姿が変化する。



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記憶ではなく。



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強い意志。



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「だから私が完成させる」



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「死なない世界を」



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真之介は気付いた。



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第九そのものより。



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危険なのは。



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第九を利用しようとする意思。



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「あなたが黒幕なのか」



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景継は答える。



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「違う」



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「私は始まりだ」



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「もっと深い場所に」



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「まだいる」



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その言葉と同時に。



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第九の奥。



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別の気配。



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目覚める。



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景継すら知らない何か。



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「……」



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武者が初めて震えた。



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「まさか」



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真之介が聞く。



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「何だ」



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武者は答えた。



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「第九を作った存在」



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(第四話・続く)

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