第四話「人間の矛盾」
『なぜ人間は忘れられることを恐れる』
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第九の声が。
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村全体に響いていた。
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真之介は答えられなかった。
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その問いは。
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怪異から投げられたものではなく。
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人間そのものへの問いだった。
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忘れたい記憶がある。
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苦しい過去。
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失敗。
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後悔。
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できれば消したい。
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なのに。
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自分という存在が。
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誰かの記憶から消えることは怖い。
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「……矛盾しているな」
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真之介は呟いた。
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第九は静かに返す。
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『矛盾?』
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「そうだ」
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「人間は忘れる」
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「でも」
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「忘れられたくない」
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「それが人間だ」
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村の中の人々。
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記憶だけで作られた存在たち。
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彼らは黙って聞いていた。
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第九は理解しようとしている。
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だが。
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まだ分からない。
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『理解不能』
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その声。
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初めて。
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迷いが混じっていた。
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その時。
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空間が歪んだ。
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村の景色が揺れる。
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家。
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道。
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人々。
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全てがノイズのように崩れる。
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「何だ!」
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真之介が叫ぶ。
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すると。
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黒い武者が現れた。
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「来たか」
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真之介は振り返る。
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「知っているのか」
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武者は答える。
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「第九の意思ではない」
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「では誰だ」
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武者は山の方を見る。
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「藤富景継」
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次の瞬間。
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白い光。
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そして。
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景継が現れた。
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「違う」
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景継は言った。
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「私は第九の一部ではない」
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「なら何だ」
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真之介は問い詰める。
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景継は自分の手を見る。
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「残された願いだ」
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「私が死んだ後も」
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「私の願いだけが残った」
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つまり。
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これもまた。
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記憶。
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景継本人ではない。
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しかし。
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本人の思想。
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執念。
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それだけが存在している。
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「第九は」
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景継は続ける。
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「人間を救う力になる」
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「永遠の世界を作れる」
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真之介は睨む。
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「この偽物の村がか」
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景継は否定しない。
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「偽物?」
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「違う」
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「ここにいる者たちは苦しんでいない」
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「死もない」
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「失うこともない」
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その言葉。
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一瞬だけ。
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魅力的だった。
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もし。
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大切な人を失わないなら。
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もし。
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死が存在しないなら。
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誰も悲しまない。
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しかし。
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真之介は知っていた。
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第四章。
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第五章。
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死者が戻った時。
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それは救いではなかった。
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終われない苦しみだった。
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「それは生きているとは言わない」
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景継を見る。
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「変わらないものは」
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「生きていない」
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景継の表情が変わった。
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怒り。
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ではない。
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悲しみ。
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「お前も」
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「いつか分かる」
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「大切なものを失えば」
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「永遠を望む」
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その言葉。
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真之介の胸に刺さる。
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なぜなら。
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自分も。
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失うことが怖いから。
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その瞬間。
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村の中央に亀裂が走った。
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地面から。
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巨大な黒い影。
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今まで見た怪異とは違う。
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記憶ではない。
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感情でもない。
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純粋な力。
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「これは……」
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武者が刀を構える。
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「第九の深部」
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真之介を見る。
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「今まで見えていたのは表面だ」
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「本当の第九が目覚める」
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黒い影が伸びる。
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村人たちが消えていく。
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「助けて!」
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「先生!」
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真之介は走った。
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記憶だけの存在。
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それでも。
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彼らには感情がある。
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恐怖がある。
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苦しみがある。
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なら。
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無視できない。
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「待て!」
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真之介が影へ向かう。
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しかし。
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触れた瞬間。
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頭の中に大量の映像が流れ込んだ。
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戦。
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災害。
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別れ。
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死。
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人間が積み重ねてきた全ての喪失。
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それは。
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第九が見てきたもの。
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何千年分の記憶。
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真之介は膝をついた。
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「これを……」
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「全部見ていたのか」
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第九の声。
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初めて。
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苦しそうだった。
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『人間は』
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『なぜ』
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『これほど苦しむ』
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真之介は震えながら立つ。
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「だからだ」
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「だから」
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「人間は生きる」
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「苦しいから」
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「大切にする」
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「失うから」
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「出会いを覚える」
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沈黙。
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第九は答えない。
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その時。
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景継が笑った。
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「甘い」
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「人間は」
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「苦しみを受け入れられない」
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そして。
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景継の姿が変化する。
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記憶ではなく。
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強い意志。
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「だから私が完成させる」
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「死なない世界を」
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真之介は気付いた。
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第九そのものより。
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危険なのは。
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第九を利用しようとする意思。
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「あなたが黒幕なのか」
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景継は答える。
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「違う」
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「私は始まりだ」
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「もっと深い場所に」
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「まだいる」
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その言葉と同時に。
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第九の奥。
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別の気配。
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目覚める。
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景継すら知らない何か。
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「……」
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武者が初めて震えた。
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「まさか」
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真之介が聞く。
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「何だ」
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武者は答えた。
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「第九を作った存在」
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(第四話・続く)




