第一話「写真に写る未来」
明治二十三年。
---
日本はさらに変わっていた。
---
街には新しい建物が増え。
---
人々の服装も変わり。
---
馬車の音が響く。
---
新聞。
---
電灯。
---
写真。
---
人間は今まで以上に、
「記録する時代」
へ入っていた。
---
藤富真之介は、
学校の校庭に立っていた。
---
教師として。
---
そして。
---
もう一つの役目を持つ者として。
---
見える者。
---
以前の彼なら、
怪異を否定していた。
---
しかし今は違う。
---
見えてしまう。
---
死者。
---
記憶。
---
残された感情。
---
それらが存在することを。
---
認めざるを得なかった。
---
「先生」
---
声をかけたのは、
写真師の早川透だった。
---
三十歳。
---
新しい技術に夢中な男。
---
「これを見てください」
---
手にしていたのは一枚の写真。
---
真之介は受け取る。
---
学校の集合写真。
---
生徒。
---
教師。
---
全員が写っている。
---
普通の写真。
---
……のはずだった。
---
「何か問題が?」
---
早川は黙って写真の端を指した。
---
そこには。
---
誰もいない場所。
---
校舎の影。
---
そこに。
---
人影が写っていた。
---
真之介の顔が固まる。
---
黒い影。
---
子供のような姿。
---
しかし。
---
顔がない。
---
「これ」
---
早川が言う。
---
「撮影した時には誰もいませんでした」
---
真之介は写真を見る。
---
影は。
---
こちらを向いている。
---
まるで。
---
撮影者を見ている。
---
「いつ撮った」
---
「昨日です」
---
昨日。
---
つまり。
---
第五の石の暴走後。
---
記憶の流れが変化した後。
---
真之介は嫌な予感がした。
---
「この写真」
---
「他にもあるか」
---
早川は頷く。
---
「あります」
---
机の上に数枚置く。
---
村。
---
山。
---
人。
---
全て普通。
---
しかし。
---
よく見ると。
---
どこかに。
---
必ず影がいる。
---
そして。
---
共通点。
---
全て。
---
山の方向を向いている。
---
真之介は立ち上がった。
---
「山へ行く」
---
---
その夜。
---
真之介は藤富家の蔵へ戻った。
---
第九の記録。
---
初代藤富家。
---
藤富景継。
---
まだ見つかっていない記録。
---
それを探すため。
---
しかし。
---
蔵の扉を開けた瞬間。
---
違和感があった。
---
昨日まで無かったもの。
---
机の上。
---
古い写真。
---
一枚。
---
誰かが置いた。
---
真之介は近づく。
---
そこに写っていた。
---
八つの石。
---
そして。
---
その中央。
---
人間。
---
いや。
---
人間ではない。
---
白い影。
---
写真の裏。
---
文字。
---
古い筆跡。
---
『第九は神ではない』
---
真之介は息を止めた。
---
続き。
---
『神になろうとした人間である』
---
その瞬間。
---
蔵の灯りが消えた。
---
暗闇。
---
そして。
---
背後。
---
誰かが立っている気配。
---
真之介は振り返る。
---
そこに。
---
一人の男がいた。
---
古い時代の着物。
---
長い髪。
---
落ち着いた表情。
---
しかし。
---
目だけが異常だった。
---
何百年も生きている目。
---
「初めまして」
---
男は言った。
---
「私は藤富景継」
---
真之介は身構える。
---
「初代……」
---
景継は微笑む。
---
「ようやく」
---
「私の続きをする者が現れた」
---
「続きを?」
---
景継は窓の外を見る。
---
山。
---
第九の光。
---
「人間から死を奪う」
---
「そのための続きを」
---
真之介の表情が変わる。
---
「あなたが」
---
「全ての始まりなのか」
---
景継は否定しなかった。
---
「そうだ」
---
「八つの石も」
---
「第九も」
---
「全て私が作った」
---
沈黙。
---
真之介は問いかける。
---
「なぜ」
---
景継は静かに答えた。
---
「愛する者を失ったからだ」
---
その言葉は。
---
かつて聞いたものと同じだった。
---
源次も。
---
咲も。
---
みんな。
---
失うことから始まっていた。
---
景継は続ける。
---
「私は間違っていない」
---
「人は死ぬ」
---
「だから苦しむ」
---
「なら」
---
「死を管理すればいい」
---
真之介は拳を握る。
---
「その結果がこれか」
---
「死者が戻り」
---
「記憶が壊れ」
---
「人間が自分を失う世界か」
---
景継は悲しそうに笑った。
---
「違う」
---
「それは失敗だ」
---
「本当の完成形は」
---
一歩近づく。
---
「死そのものを消すこと」
---
その瞬間。
---
山の奥で。
---
九つ目の光が大きくなった。
---
そして。
---
初めて。
---
真之介にも聞こえた。
---
声。
---
巨大な存在の声。
---
「……思い出した」
---
景継が笑う。
---
「始まる」
---
「九番目の記憶が」
---
真之介は山を見る。
---
そして理解した。
---
これから戦う相手は。
---
怪異ではない。
---
人間が作り出した。
---
「永遠への願い」
---
そのものだった。
---
(第六章 第一話・続く)




