第五話 供物帳の名
山の空気が変わっていた。
庄吉が谷へ下るにつれ、鳥の声が消えていく。
獣の気配もない。
風さえ吹かない。
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生き物がいない。
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その事実が何より異様だった。
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山は本来、音に満ちている。
葉擦れ。
鳥の鳴き声。
虫の羽音。
遠くを走る獣。
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だが今の亀の瀬には何もない。
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まるで山そのものが息を潜めている。
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庄吉は足を止めた。
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目の前に谷が広がる。
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昨日訪れた祠が見えた。
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だが。
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様子が違う。
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祠の周囲に霧が集まっている。
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いや。
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霧ではない。
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人だった。
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庄吉の背筋が凍る。
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何十人もの人影が祠を囲んでいる。
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男。
女。
老人。
子供。
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全員が地面に膝をついている。
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頭を垂れ。
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祈っている。
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庄吉は目を凝らした。
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その瞬間。
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人影の一人が顔を上げる。
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権蔵だった。
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昨日死んだ猟師。
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間違いない。
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その隣には見知らぬ老人。
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さらに子供。
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その全員の目が庄吉を見ている。
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庄吉は刀を抜いた。
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しかし次の瞬間。
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全て消えた。
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谷には誰もいない。
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祠だけが残っている。
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幻覚だったのか。
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だが。
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足元には無数の足跡が残っていた。
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庄吉は慎重に石段を下りる。
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昨日と同じ場所。
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だが昨日より明らかに冷たい。
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夏が近い季節にも関わらず。
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吐く息が白くなる。
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祠の前へ到着する。
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そこで庄吉は気付いた。
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石壁に新しい傷がある。
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誰かが何度も何度も爪で引っ掻いたような跡。
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しかも。
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内側から。
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庄吉は息を呑む。
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まるで中に閉じ込められた何かが外へ出ようとしたかのようだった。
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その時。
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背後から声が聞こえた。
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「見つけた」
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庄吉は即座に振り返る。
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誰もいない。
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しかし声は続く。
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「見つけた」
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今度は右。
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「見つけた」
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左。
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「見つけた」
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頭上。
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無数の声。
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男。
女。
老人。
子供。
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様々な声が重なっている。
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庄吉は叫ぶ。
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「何者だ!」
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返事は無い。
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だが。
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祠の奥から音が響く。
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ゴン。
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ゴン。
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ゴン。
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昨日より大きい。
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確実に近づいている。
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庄吉は決断した。
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奥へ進む。
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刀を構えながら祠の中へ足を踏み入れた。
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中は予想以上に広かった。
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外から見える大きさの何倍もある。
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異常だった。
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あり得ない。
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庄吉は振り返る。
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入口が遠い。
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数歩しか進んでいないはずなのに。
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何十間も離れて見える。
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「……何だこれは」
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汗が滲む。
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祠の内部は石造りだった。
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壁一面に手形が刻まれている。
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しかも全て血のような赤色。
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古いもの。
新しいもの。
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何百年分も重なっている。
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庄吉は壁に触れた。
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その瞬間。
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映像が流れ込む。
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見知らぬ時代。
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松明の灯り。
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泣き叫ぶ少女。
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縄で縛られている。
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周囲には白装束の人々。
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そして。
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一人の男。
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豪華な衣をまとった男。
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顔は見えない。
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だが人々はその男へ頭を下げている。
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男が言う。
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> 「神は飢えておられる」
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少女が泣き叫ぶ。
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> 「嫌だ!」
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> 「帰りたい!」
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男は続ける。
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> 「捧げよ」
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次の瞬間。
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少女は石段の奥へ連れて行かれる。
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叫び声。
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泣き声。
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そして。
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闇。
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庄吉は現実へ引き戻された。
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呼吸が荒い。
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膝をつく。
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今のは記憶だった。
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幻覚ではない。
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この場所に刻まれた記憶。
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そして理解する。
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供物帳。
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生贄。
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少女。
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全部繋がっている。
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仏生堂では本当に人が捧げられていた。
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その時だった。
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ゴン。
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すぐ近くで音が鳴る。
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庄吉は顔を上げる。
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石壁の向こうだった。
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何かがいる。
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そして。
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壁が少し膨らんだ。
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内側から押されたように。
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庄吉は刀を構える。
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ゴン。
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再び。
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今度はもっと強い。
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壁に亀裂が入る。
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庄吉の全身に悪寒が走る。
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次の瞬間。
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亀裂の隙間から。
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一本の指が現れた。
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人間の指。
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しかし異様に長い。
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骨と皮だけのような細さ。
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ゆっくりと。
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ゆっくりと。
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こちらへ伸びてくる。
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そして。
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指の先が庄吉を指した。
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その瞬間。
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無数の声が重なる。
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> 「見つけた」
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庄吉は刀を振るった。
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銀色の刃が指を切り裂く。
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悲鳴が響く。
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だがそれは一人の声ではない。
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何百。
何千。
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数え切れない叫び。
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祠全体が震え始める。
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壁の向こうで何かが目覚めていた。
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そして庄吉はまだ知らない。
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自分の名前が供物帳に記されたことで。
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既に呪いの輪の中へ踏み込んでしまったことを。
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第六話へ続く。




