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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第五章 文明開化の怪異録

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第六話「百年前の記憶」

「私を思い出して」



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無数の声が重なった。



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男。


女。


老人。


子供。



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全て違う声。



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しかし。



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言葉だけは同じだった。



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「私を思い出して」



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真之介は後ずさる。



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目の前にいるもの。



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それは幽霊ではない。



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少なくとも。



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今まで見てきたものとは違う。



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死者の魂ではない。



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忘れられた記憶。



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消されるはずだった残り。



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人間の人生の切れ端。



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それが形を持っている。



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「……これは」



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真之介は呟く。



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黒い武者が答えた。



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「記憶の亡骸だ」



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その言葉が胸に刺さる。



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亡骸。



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身体だけではない。



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思い出にも死がある。



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そして。



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死んだ記憶もまた。



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行き場を失えば。



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怪異になる。



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一人の少女が前へ出た。



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白い着物。



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長い髪。



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顔はぼんやりしている。



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「お兄ちゃん」



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真之介の足が止まった。



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知らない少女。



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なのに。



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声に聞き覚えがある。



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「……誰だ」



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少女は首を傾げる。



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「忘れたの?」



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「私だよ」



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真之介の頭に痛みが走った。



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何かが浮かぶ。



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幼い頃。



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誰かと遊んでいた。



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川。



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山道。



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夕焼け。



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しかし。



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顔だけが見えない。



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「違う」



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真之介は目を閉じる。



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「俺に妹はいない」



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そう言った。



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少女の動きが止まる。



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そして。



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悲しそうに笑った。



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「そうだね」



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「消されたから」



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その言葉。



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真之介は息を呑む。



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「消された?」



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少女は頷く。



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「みんな」



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「大事なものから消された」



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「名前」



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「顔」



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「声」



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「最後には存在したことまで」



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白い石。



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忘却石。



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その役割。



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本来は循環のため。



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しかし暴走すれば。



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存在そのものを薄くする。



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真之介は拳を握った。



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「なぜ藤富家は」



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「こんなことを」



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武者は答えなかった。



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代わりに。



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地下深くから音が響く。



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ゴォォォ……



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守り石全体が反応している。



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第一。


第二。


第三。


第四。



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そして第五。



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全てが連動している。



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真之介は理解する。



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一つが壊れると。



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他も影響を受ける。



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だから第四章で第四の石が弱った時。



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第五も狂った。



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「止める方法は」



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武者を見る。



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長い沈黙。



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そして。



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「ある」



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初めて。



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希望の言葉。



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真之介は顔を上げる。



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「何だ」



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武者は白い石を見る。



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「忘れるべきものを忘れさせる」



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「逆だ」



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真之介は理解した。



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石を止めるのではない。



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暴走している流れを戻す。



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必要なのは。



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消すことではなく。



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整理。



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「だから源次は破壊しなかった」



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武者は頷く。



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「気付いていた」



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その時。



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少女の姿が揺れた。



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「お願い」



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真之介を見る。



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「私を消して」



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予想外の言葉だった。



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真之介は黙る。



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「嫌じゃないのか」



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少女は笑った。



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「ずっとここにいるのは苦しい」



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「思い出されないのに」



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「忘れられない」



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その言葉。



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真之介は理解した。



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怪異とは。



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憎しみだけではない。



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残り続ける苦しみ。



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終われないこと。



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それ自体が恐怖なのだ。



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その時。



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突然。



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地下全体が揺れた。



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壁が崩れる。



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石の表面が黒く染まる。



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白い石の奥。



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何かが目覚めている。



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武者が刀を構えた。



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「来る」



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「何が」



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答えの代わりに。



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暗闇から現れた。



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巨大な影。



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人の形。



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しかし。



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人ではない。



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顔はない。



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身体は無数の記憶でできている。



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忘れられた全て。



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それが集まった存在。



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武者が言った。



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「忘却石の守護者」



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真之介は息を呑む。



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「守護者?」



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武者は静かに答える。



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「違う」



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「元は人間だ」



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影が口を開く。



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無数の声で。



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「思い出せ」



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「思い出せ」



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「思い出せ」



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その瞬間。



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真之介の記憶が一気に抜け落ち始めた。



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名前。



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年齢。



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自分が教師だったこと。



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全て。



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薄れていく。



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最後に残ったもの。



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ただ一つ。



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教壇に立った時の感覚。



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誰かに何かを伝えたい。



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その気持ちだけ。



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真之介は必死に掴む。



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「俺は……」



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声を絞り出す。



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「俺は……」



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だが。



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名前が出ない。



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その時。



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黒い武者が叫んだ。



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「名を言え!」



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真之介は震える。



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名前。



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自分の名前。



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思い出せ。



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思い出せ。



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そして。



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最後の力で叫ぶ。



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「藤富……」



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そこで止まる。



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続きが出ない。



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(第六話・続く)

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