第六話「百年前の記憶」
「私を思い出して」
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無数の声が重なった。
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男。
女。
老人。
子供。
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全て違う声。
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しかし。
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言葉だけは同じだった。
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「私を思い出して」
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真之介は後ずさる。
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目の前にいるもの。
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それは幽霊ではない。
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少なくとも。
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今まで見てきたものとは違う。
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死者の魂ではない。
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忘れられた記憶。
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消されるはずだった残り。
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人間の人生の切れ端。
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それが形を持っている。
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「……これは」
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真之介は呟く。
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黒い武者が答えた。
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「記憶の亡骸だ」
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その言葉が胸に刺さる。
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亡骸。
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身体だけではない。
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思い出にも死がある。
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そして。
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死んだ記憶もまた。
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行き場を失えば。
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怪異になる。
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一人の少女が前へ出た。
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白い着物。
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長い髪。
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顔はぼんやりしている。
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「お兄ちゃん」
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真之介の足が止まった。
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知らない少女。
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なのに。
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声に聞き覚えがある。
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「……誰だ」
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少女は首を傾げる。
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「忘れたの?」
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「私だよ」
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真之介の頭に痛みが走った。
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何かが浮かぶ。
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幼い頃。
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誰かと遊んでいた。
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川。
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山道。
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夕焼け。
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しかし。
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顔だけが見えない。
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「違う」
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真之介は目を閉じる。
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「俺に妹はいない」
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そう言った。
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少女の動きが止まる。
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そして。
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悲しそうに笑った。
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「そうだね」
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「消されたから」
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その言葉。
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真之介は息を呑む。
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「消された?」
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少女は頷く。
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「みんな」
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「大事なものから消された」
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「名前」
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「顔」
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「声」
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「最後には存在したことまで」
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白い石。
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忘却石。
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その役割。
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本来は循環のため。
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しかし暴走すれば。
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存在そのものを薄くする。
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真之介は拳を握った。
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「なぜ藤富家は」
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「こんなことを」
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武者は答えなかった。
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代わりに。
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地下深くから音が響く。
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ゴォォォ……
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守り石全体が反応している。
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第一。
第二。
第三。
第四。
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そして第五。
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全てが連動している。
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真之介は理解する。
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一つが壊れると。
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他も影響を受ける。
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だから第四章で第四の石が弱った時。
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第五も狂った。
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「止める方法は」
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武者を見る。
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長い沈黙。
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そして。
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「ある」
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初めて。
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希望の言葉。
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真之介は顔を上げる。
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「何だ」
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武者は白い石を見る。
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「忘れるべきものを忘れさせる」
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「逆だ」
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真之介は理解した。
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石を止めるのではない。
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暴走している流れを戻す。
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必要なのは。
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消すことではなく。
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整理。
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「だから源次は破壊しなかった」
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武者は頷く。
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「気付いていた」
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その時。
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少女の姿が揺れた。
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「お願い」
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真之介を見る。
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「私を消して」
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予想外の言葉だった。
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真之介は黙る。
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「嫌じゃないのか」
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少女は笑った。
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「ずっとここにいるのは苦しい」
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「思い出されないのに」
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「忘れられない」
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その言葉。
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真之介は理解した。
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怪異とは。
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憎しみだけではない。
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残り続ける苦しみ。
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終われないこと。
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それ自体が恐怖なのだ。
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その時。
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突然。
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地下全体が揺れた。
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壁が崩れる。
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石の表面が黒く染まる。
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白い石の奥。
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何かが目覚めている。
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武者が刀を構えた。
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「来る」
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「何が」
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答えの代わりに。
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暗闇から現れた。
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巨大な影。
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人の形。
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しかし。
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人ではない。
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顔はない。
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身体は無数の記憶でできている。
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忘れられた全て。
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それが集まった存在。
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武者が言った。
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「忘却石の守護者」
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真之介は息を呑む。
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「守護者?」
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武者は静かに答える。
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「違う」
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「元は人間だ」
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影が口を開く。
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無数の声で。
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「思い出せ」
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「思い出せ」
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「思い出せ」
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その瞬間。
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真之介の記憶が一気に抜け落ち始めた。
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名前。
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年齢。
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自分が教師だったこと。
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全て。
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薄れていく。
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最後に残ったもの。
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ただ一つ。
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教壇に立った時の感覚。
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誰かに何かを伝えたい。
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その気持ちだけ。
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真之介は必死に掴む。
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「俺は……」
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声を絞り出す。
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「俺は……」
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だが。
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名前が出ない。
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その時。
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黒い武者が叫んだ。
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「名を言え!」
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真之介は震える。
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名前。
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自分の名前。
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思い出せ。
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思い出せ。
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そして。
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最後の力で叫ぶ。
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「藤富……」
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そこで止まる。
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続きが出ない。
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(第六話・続く)




