第五話「近代科学」
白い石。
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その表面から。
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自分の名前が消えた。
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藤富真之介。
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確かに書かれていたはずの文字。
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それが。
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ゆっくり薄れていく。
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まるで。
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最初から存在しなかったように。
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真之介は反射的に石へ手を伸ばした。
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「待て」
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指先が触れる。
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冷たい。
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しかし。
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ただの石ではなかった。
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触れた瞬間。
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頭の奥に映像が流れ込んできた。
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幼い頃。
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母親に抱かれていた記憶。
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父親と歩いた道。
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初めて学校へ行った日。
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教師になった日。
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全て。
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自分を作った時間。
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それが。
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一本ずつ切れていく。
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「やめろ……」
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声が震える。
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怖い。
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怪物を見るより。
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死者を見るより。
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自分が消えることの方が。
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何倍も恐ろしい。
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その時。
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背後から声がした。
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「触れるな」
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黒い武者。
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源次の時代から存在する者。
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真之介は振り返る。
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「もっと早く言え」
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珍しく怒りを見せる。
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武者は動じない。
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「人間はいつも遅い」
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「失ってから気付く」
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その言葉に。
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真之介は黙った。
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否定できなかった。
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忘却石。
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恐ろしい存在。
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しかし。
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本来は必要だった。
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忘れること。
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過去を手放すこと。
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人間はそれで前へ進んできた。
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だが。
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今は違う。
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石が勝手に奪っている。
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真之介は石を観察する。
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教師として。
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そして理屈を求める人間として。
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恐怖より先に。
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疑問が出た。
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「なぜ名前を消す」
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武者を見る。
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「なぜ記憶を奪う」
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武者は答えない。
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真之介は周囲を見る。
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白い石。
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地下へ続く構造。
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そして。
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他の守り石との位置関係。
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頭の中で繋げる。
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第一。
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記録。
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第二。
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循環。
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第三。
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混合。
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第四。
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固定。
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第五。
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忘却。
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なら。
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これは破壊装置ではない。
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処理装置だ。
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真之介は気付いた。
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「これは……」
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「消しているんじゃない」
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武者を見る。
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「流している」
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黒い武者が少しだけ顔を上げた。
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「続けろ」
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真之介は地面に枝で図を書く。
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円。
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流れ。
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中心。
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「人間の記憶は溜まる」
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「死者の記憶も溜まる」
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「それを循環させる」
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「だから忘却が必要」
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武者は静かに言う。
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「正しい」
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真之介は驚く。
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初めて認められた。
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しかし。
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武者の次の言葉で表情が変わった。
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「だが」
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「人間はそれを利用した」
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風が止まる。
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「誰が」
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武者は山の奥を見る。
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「藤富家」
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真之介は息を止める。
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先祖。
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管理者。
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守ってきた一族。
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その一族が。
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「利用?」
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武者は続ける。
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「忘れることを拒んだ」
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「大切な者を失った者達は」
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「死者を残そうとした」
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真之介の顔が曇る。
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愛する人を忘れたくない。
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その気持ちは理解できる。
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だが。
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その結果。
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死者は留まり。
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記憶は腐り。
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怪異になった。
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「人間が原因か」
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武者は答えない。
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代わりに。
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白い石を見る。
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「第五の石は怒っている」
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その瞬間。
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石の表面に異変が起きた。
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大量の名前が浮かび上がる。
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村人。
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先祖。
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知らない人々。
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そして。
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最後に。
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真之介の名前。
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また消える。
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しかし。
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今度は違った。
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名前だけではない。
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記憶そのものが。
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薄れていく。
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母の顔。
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父の声。
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学校の景色。
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「……忘れるな」
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真之介は必死に呟く。
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「俺は……」
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「藤富真之介だ」
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何度も言う。
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自分へ言い聞かせる。
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その時。
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武者が刀を抜いた。
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「下がれ」
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「何が来る」
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武者は答える。
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「忘れたもの」
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白い石の奥。
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空洞が開く。
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そこから。
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人影が出てくる。
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一人。
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二人。
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十人。
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百人。
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全員。
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顔がない。
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しかし。
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服装は分かる。
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昔の村人。
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侍。
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子供。
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そして。
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全員が同じ言葉を言った。
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「私を思い出して」
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真之介は凍りついた。
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忘れられた者たち。
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忘却石が消した記憶。
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それが。
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形になって現れた。
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(第五話・続く)




