表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亀の瀬異聞録  作者: こうた
第五章 文明開化の怪異録

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
44/174

第二話「死者の授業」

翌朝。



---


藤富真之介は、いつも通り学校へ向かった。



---


昨日の蔵で起きたこと。



---


二冊の帳面。



---


誰もいない場所から聞こえた足音。



---


全て。



---


考えれば考えるほど不可解だった。



---


しかし真之介は、それを怪異とは考えなかった。



---


「古い建物だ」



---


そう結論づけた。



---


木材が軋んだ。



---


風が隙間から入った。



---


帳面は誰かが置き忘れた。



---


それだけ。



---


教師として必要なのは。



---


恐怖ではなく。



---


確認すること。



---


そう思っていた。



---


学校へ着く。



---


明治になり新しく建てられた校舎。



---


畳ではなく板張り。



---


黒板。



---


洋式の机。



---


以前とは違う時代の象徴。



---


真之介は教壇に立つ。



---


今日の授業は算術。



---


「数字というものは、感情に左右されない」



---


黒板に式を書く。



---


「人が忘れても、数字は残る」



---


その言葉を書いた瞬間。



---


手が止まった。



---


昨夜の帳面。



---


「記録」



---


という言葉が頭をよぎった。



---


死者を残すもの。



---


記憶を残すもの。



---


真之介は首を振る。



---


授業に戻る。



---


その時。



---


後ろの席の少年が手を挙げた。



---


「先生」



---


「どうした」



---


少年は不思議そうな顔をしていた。



---


「昨日、母さんが帰ってきました」



---


教室が静まる。



---


他の子供たちは少年を見る。



---


真之介は優しく尋ねた。



---


「お母さんは?」



---


少年は答えた。



---


「去年亡くなりました」



---


一瞬。



---


言葉が出なかった。



---


だが真之介は冷静に続ける。



---


「夢を見たのかもしれないな」



---


少年は首を振る。



---


「違います」



---


「家の前にいました」



---


「昔と同じ服で」



---


教室の空気が重くなる。



---


真之介は話を変えた。



---


しかし。



---


その日の授業後。



---


同じ話を何人もの子供から聞いた。



---


祖父がいた。



---


姉がいた。



---


亡くなった友人がいた。



---


最初は子供の想像だと思った。



---


だが。



---


大人たちも同じことを言い始めた。



---


村の診療所。



---


店。



---


農家。



---


至るところで。



---


「死んだ人間を見た」



---


という話。



---


真之介は調査を始めた。



---


教師として。



---


迷信を否定するために。



---


紙を広げる。



---


目撃場所。



---


時間。



---


人物。



---


全て記録する。



---


すると。



---


奇妙な規則性が見えた。



---


死者が現れる場所。



---


全て。



---


仏生堂の山を中心にしている。



---


真之介は地図を見る。



---


円。



---


また円。



---


第4章で見つかった構造図。



---


源次の記録。



---


そして現在の目撃地点。



---


重なる。



---


完全に。



---


真之介は黙った。



---


「偶然……じゃない」



---


その夜。



---


もう一度蔵へ向かった。



---


源次の帳面を調べる。



---


今度は最初から読む。



---


すると。



---


途中のページに新しい記述を見つけた。



---


昨日は気付かなかった。



---


『第四の石が弱った時』



---


『死者は帰る』



---


真之介の表情が変わる。



---


『しかし』



---


『帰ってくるものは本人ではない』



---


その下。



---


文字が滲んでいる。



---


続きを読む。



---


『記憶の形をした残りである』



---


真之介は息を止めた。



---


理屈で説明しようとする。



---


幻覚。



---


集団心理。



---


噂。



---


しかし。



---


全てを否定するには。



---


記録が正確すぎる。



---


その時。



---


蔵の外から声がした。



---


「先生」



---


子供の声。



---


真之介は振り返る。



---


扉の向こう。



---


小さな影。



---


「誰だ」



---


返事はない。



---


ただ。



---


もう一度。



---


「先生」



---


声がした。



---


真之介は扉を開ける。



---


そこにいたのは。



---


昨日学校にいた少年。



---


しかし。



---


様子がおかしい。



---


顔色が白い。



---


そして。



---


その後ろ。



---


暗闇の中に。



---


誰かが立っている。



---


真之介は目を細める。



---


大人の女性。



---


少年の母親だろうか。



---


そう思った。



---


しかし。



---


少年が震えながら言った。



---


「先生」



---


「あれ」



---


「僕のお母さんじゃありません」



---


真之介の背中に冷たい感覚が走る。



---


女性の影は。



---


ゆっくり顔を上げた。



---


そして。



---


笑った。



---


しかし。



---


その顔には。



---


目がなかった。



---


(第二話・続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ