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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第四章:黒船の年、亡霊の山(1853)

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最終話「崩落と記録」

夜明け前だった。



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空は鉛色。



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鳥は鳴かない。



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風も吹かない。



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村全体が静止していた。



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いや。



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正しくは違う。



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村は動いていた。



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死者だけが。



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何百。



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何千。



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無数の人影が山へ向かって歩いている。



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子供。


老人。


武士。


農民。



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時代も身分も関係ない。



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何百年にも渡る死者たち。



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全員が同じ場所を目指していた。



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仏生堂神殿の地下。



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八つの守り石の中心。



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源次は山道に立っていた。



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その光景を見つめながら。



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宗景が隣にいる。



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そして黒い武者。



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三人は同じ方向を見ていた。



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地下。



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世界の傷口。



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そこへ。



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「壊せばどうなる」



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源次が尋ねる。



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宗景は即答した。



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「終わる」



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短い返答。



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だがその意味は重い。



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「死者は解放される」



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「成仏するのか」



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宗景は首を振る。



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「分からん」



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「誰も試したことがない」



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源次は黙る。



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試せば終わる。



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試さなければ続く。



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その時。



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黒い武者が初めて口を開いた。



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「壊すな」



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源次は振り返る。



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武者の顔は見えない。



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それでも。



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その声には確かな感情があった。



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恐怖。



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何百年も抱え続けた恐怖。



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「なぜだ」



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武者は地下を見つめる。



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「石は蓋ではない」



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源次は息を呑む。



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これまで何度も聞いた言葉。



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封印ではない。



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維持である。



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そして今。



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その意味がようやく分かる。



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八つの守り石。



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それは牢獄ではない。



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巨大な歯車。



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死を処理するための機構。



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止めれば。



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全てが溢れる。



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その瞬間。



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地面が大きく揺れた。



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ドォォォン!!



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山全体が震える。



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木々が倒れる。



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岩が崩れる。



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死者の群れが一斉に立ち止まる。



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そして。



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地下から声が聞こえた。



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無数の声。



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何万。



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何十万。



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積み重なった死。



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積み重なった記録。



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積み重なった後悔。



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それら全てが唸っている。



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宗景の顔が青ざめる。



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「限界だ……」



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源次は決断する。



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石を壊すことはできない。



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だが。



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圧力を逃がすことはできる。



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石工として。



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崩落の仕組みなら理解している。



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地下構造を潰す。



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石室を落とす。



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荷重を分散させる。



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完全な解決ではない。



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だが時間は稼げる。



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源次は槌を握った。



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「宗景」



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「なんだ」



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「記録を残せ」



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宗景は理解した。



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源次の覚悟を。



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「やめろ」



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宗景が言う。



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「戻れなくなる」



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源次は笑った。



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「最初から戻れる話じゃない」



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そう言って歩き出す。



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武者が見ている。



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宗景が見ている。



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死者たちも見ている。



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源次は地下へ向かった。



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石室。



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留魂石。



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その奥。



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崩落させるべき支柱がある。



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石工にしか分からない場所。



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そこへ辿り着く。



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周囲では壁が軋んでいた。



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時間はない。



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源次は最後の帳面を開く。



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そして書く。



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『これは封印ではない』



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槌を振る。



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ガン!



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支柱に亀裂が入る。



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『維持である』



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ガン!



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岩盤が揺れる。



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『壊すことは終わりではない』



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ガン!



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天井に裂け目が走る。



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『始まりである』



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その瞬間。



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巨大な轟音が響いた。



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崩落。



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石室全体が沈み始める。



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源次は逃げない。



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逃げても間に合わない。



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だから最後まで書く。



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『後に続く者へ』



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『決して急ぐな』



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『石は敵ではない』



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『敵は――』



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そこで筆が止まる。



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地面が崩れる。



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天井が落ちる。



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そして。



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源次は最後に見た。



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地下の深淵。



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無数の目。



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その中心にある。



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巨大な影。



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人の形にも見える。



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山にも見える。



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世界そのものにも見える。



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だが理解できない。



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理解できないまま。



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崩落が全てを飲み込んだ。



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轟音。



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暗闇。



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沈黙。



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やがて朝が来る。



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村は残った。



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死者たちは消えていた。



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完全ではない。



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だが流れは止まった。



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一時的に。



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宗景は崩落跡に立つ。



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手には帳面。



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源次の最後の記録。



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彼はそれを藤富家の蔵へ運ぶ。



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次の時代のために。



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次の継承者のために。



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次の犠牲者のために。



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黒い武者は山を見上げる。



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そして静かに呟いた。



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「また先送りか」



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風が吹く。



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その姿は少しだけ薄くなっていた。



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しかし消えない。



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まだ終わっていないからだ。



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第一の石は傷ついた。



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第四の石は弱った。



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均衡は崩れ始めている。



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だが八つの守り石はまだ残っている。



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そして藤富家の蔵には。



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源次の記録が眠る。



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未来の誰かが読む日を待ちながら。



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第四章 完


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