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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第四章:黒船の年、亡霊の山(1853)

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第九話「墓場化する村」

パキン――



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乾いた音だった。



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それは大きな崩壊音ではない。


雷鳴でもない。


地震でもない。



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しかし源次は理解した。



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今の音は。



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何百年も続いてきた均衡が崩れる音だった。



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留魂石の表面。



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一本だった亀裂が広がっていく。



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二本。



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三本。



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四本。



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無数に。



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まるで氷が割れるように。



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宗景の顔色は完全に失われていた。



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「まずい……」



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武者は祭壇の前に立ったまま動かない。



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だがその姿が少しずつ薄くなっていた。



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留魂石が不安定になるほど。



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武者もまた不安定になる。



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源次は気付く。



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彼も第四の石によって維持されている。



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留魂石の一部なのだ。



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再び悲鳴が聞こえる。



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今度は近い。



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石室の外。



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源次は走り出した。



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宗景も後を追う。



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谷を登る。



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山道を駆ける。



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そして村へ戻った時。



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二人は言葉を失った。



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村が変わっていた。



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いや。



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正確には。



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“重なっていた”。



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家の前に老人が立っている。



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しかしその老人は十年前に死んでいる。



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井戸のそばに若い娘がいる。



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しかしその娘は三年前に病で亡くなった。



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畑の中には子供たちがいる。



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だが誰も喋らない。



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誰も動かない。



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ただ立っている。



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そこに。



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存在している。



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源次の全身が震えた。



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「なんだ……これは」



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宗景が答える。



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「固定だ」



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源次は振り返る。



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宗景の目には絶望しかなかった。



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「第四の石は魂を留める」



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「だから死者が消えなくなる」



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「だが今は違う」



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宗景は周囲を見回す。



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村全体を。



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「留める力が暴走している」



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源次は息を呑む。



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つまり。



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本来なら地下へ流れるはずの死。



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循環するはずの記録。



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それらが全て。



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現世に留まっている。



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死者の渋滞。



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死の滞留。



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それが今の村だった。



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その時。



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一人の女が現れた。



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源次は凍りつく。



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母だった。



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十年前に亡くなった母。



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間違いない。



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顔も。


声も。


姿も。



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母そのもの。



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女はゆっくり歩いてくる。



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源次の前で止まる。



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そして。



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微笑んだ。



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「源次」



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声が出ない。



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心が揺れる。



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目の前にいる。



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会いたかった人が。



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だが。



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何かがおかしい。



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母は源次を見ていない。



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正確には。



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認識していない。



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ただ。



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記録された動作を再生している。



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書物を読むように。



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決められた言葉を話している。



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源次は理解する。



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これは母ではない。



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母の記録だ。



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母だった情報だ。



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それでも。



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涙が出た。



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宗景が肩を掴む。



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「見るな」



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源次は目を閉じる。



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そして気付く。



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周囲の村人たちも同じだった。



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死者に呼ばれている。



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妻は亡き夫へ。



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親は亡き子へ。



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子は亡き親へ。



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誰もが動けなくなっている。



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それは攻撃ではない。



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誘惑だった。



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最も危険な形の。



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その時。



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山が鳴った。



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ドン。



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ドン。



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ドン。



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今までで最も大きい。



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地面が揺れる。



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家々が軋む。



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そして。



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源次は見た。



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山の斜面。



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無数の人影。



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何百。



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いや。



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何千。



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死者たち。



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全員が同じ方向を向いている。



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仏生堂神殿。



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地下の中心。



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そこへ向かって歩き始めた。



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ゆっくりと。



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静かに。



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音もなく。



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宗景が呟く。



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「流れが逆転している……」



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本来。



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死者は地下へ送られる。



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循環する。



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記録される。



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だが今は違う。



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地下から溢れている。



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そして集まっている。



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まるで。



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何かを迎えるために。



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その瞬間。



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黒い武者が現れた。



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村の中心。



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死者の群れの前。



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彼は初めて刀を抜く。



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錆びた長刀。



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何百年も使われていないはずの武器。



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そして静かに言った。



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「もう時間がない」



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源次は理解した。



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最終的な選択の時が来ている。



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石を放置するか。



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危険を承知で封じるか。



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どちらにしても。



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犠牲は避けられない。



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夜空には月がなかった。



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村全体が巨大な墓場となり。



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生者と死者の境界は失われつつあった。



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そして地下では。



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あの無数の目が。



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ゆっくりと開き続けていた。



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(第九話・続く)

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