第十話「薬草採取人の最期」
黒い腕が空へ伸びる。
それは山よりも大きかった。
あり得ない大きさ。
あり得ない存在。
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しかし。
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そこにあった。
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現実として。
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仏生堂の上空を覆うように。
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村人たちは恐怖で動けなかった。
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誰もが空を見上げている。
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誰も理解できない。
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何が起きているのか。
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なぜ起きているのか。
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ただ一人。
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高橋咲だけが。
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その理由の一端を知っていた。
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最初の生贄。
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契約。
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八つの守り石。
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そして。
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神殿の地下に眠る存在。
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咲は震える足で立ち上がった。
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宗景が肩を掴む。
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「行くな」
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咲は首を振る。
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「行かなきゃ」
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「駄目だ」
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宗景の声は本気だった。
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「見られた人間は帰れない」
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咲は苦笑した。
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不思議と恐怖は薄れていた。
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代わりに。
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理解があった。
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あの存在は自分を見た。
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そして。
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自分もあれを見た。
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繋がってしまった。
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完全に。
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「先生」
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咲は静かに言う。
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「徳蔵さんの書物を持っています」
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宗景が息を呑む。
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第二章主人公。
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西村徳蔵。
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命を賭して残した記録。
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咲は続けた。
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「庄吉さんの記録も」
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第一章主人公。
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西村庄吉。
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二十年前に死んだ男。
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「だから分かります」
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咲は神殿を見る。
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「ここで終わらせなきゃいけない」
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宗景は何も言えなかった。
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なぜなら。
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彼も分かっていた。
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咲はもう助からない。
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あの存在に認識された。
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歴代の犠牲者と同じように。
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その時だった。
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頭の中に声が響く。
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「来い」
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あの声。
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地下の存在。
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咲はふらりと歩き出した。
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神殿へ。
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宗景が止めようとする。
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だが触れられない。
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咲の身体の周囲を黒い霧が覆っている。
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触れた瞬間。
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宗景の手が焼けた。
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「ぐっ!」
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咲は振り返る。
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悲しそうに微笑む。
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「ありがとうございます」
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それが最後だった。
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咲は山を登り始めた。
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神殿へ。
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一人で。
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黒い腕の下を。
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黒い柱の下を。
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数千の亡霊たちの視線を浴びながら。
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歩く。
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歩く。
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歩く。
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そして。
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神殿跡へ辿り着いた。
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崩壊した石造りの建物。
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その中央。
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巨大な裂け目。
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地下へ続く穴。
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底が見えない。
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闇。
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永遠の闇。
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咲は穴を覗き込む。
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そこに。
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無数の目があった。
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何万。
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何十万。
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数えることすら不可能。
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そして。
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その中央。
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一つだけ。
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異様に大きな目。
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それが咲を見ていた。
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「記録者」
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声が響く。
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「お前は見た」
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咲は答えない。
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「お前は知った」
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沈黙。
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「ならば残せ」
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咲の胸が痛む。
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理解してしまった。
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歴代主人公たち。
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彼らは偶然記録を残したのではない。
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選ばれていた。
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見てしまった者たちだった。
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だから書いた。
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だから残した。
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だから死んだ。
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咲は涙を流した。
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怖かった。
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生きたかった。
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もっと薬草を採りたかった。
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もっと笑いたかった。
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もっと村人たちと暮らしたかった。
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だが。
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終わりは来る。
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誰にでも。
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咲は懐から帳面を取り出した。
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薬草採取用の記録帳。
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そこへ最後の文章を書く。
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震える手で。
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必死に。
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一文字ずつ。
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『地下にいる』
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『怨霊ではない』
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『守り石は封印ではなく機構』
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『第一の石は記録』
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『第二の石は循環』
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『第三の石は人格の混合』
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『八つ全てが揃えば何かが完成する』
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涙が紙に落ちる。
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それでも書く。
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『藤富家は敵ではない』
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『契約の管理者』
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『本当の敵は地下』
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風が吹く。
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いや。
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息だった。
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地下の存在の。
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巨大な吸気。
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咲の身体が浮く。
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ゆっくりと。
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裂け目へ。
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吸い寄せられる。
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咲は抵抗しなかった。
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もう分かっていたから。
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自分の役目が。
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最後に。
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最後に一つだけ書く。
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『次の人へ』
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『必ず続きを見つけて』
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『八つの石を終わらせて』
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そこで。
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帳面は閉じられた。
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次の瞬間。
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咲の身体は闇へ落ちた。
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悲鳴はない。
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叫びもない。
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ただ。
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深い闇に呑まれていく。
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そして。
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完全に消えた。
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高橋咲。
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二十二歳。
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薬草採取人。
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第三章主人公。
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死亡。
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亡霊にはならない。
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記録だけを残して。
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その夜。
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黒い腕は再び地下へ沈んだ。
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黒い柱も消えた。
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しかし。
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何も終わっていない。
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むしろ始まった。
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第一の守り石。
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その表面には。
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誰の目にも分かるほど大きな亀裂が刻まれていた。
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封印の崩壊が。
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初めて形になった夜だった。
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そして数年後。
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天保の大飢饉がさらに深刻化する中。
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新たな記録を手にする男が現れる。
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石工。
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木村源次。
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第四章の主人公である。
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第三章 完




