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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第三章:仏生堂起動(1840・天保の飢え)

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第十話「薬草採取人の最期」

黒い腕が空へ伸びる。


それは山よりも大きかった。


あり得ない大きさ。


あり得ない存在。



---


しかし。



---


そこにあった。



---


現実として。



---


仏生堂の上空を覆うように。



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村人たちは恐怖で動けなかった。



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誰もが空を見上げている。



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誰も理解できない。



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何が起きているのか。



---


なぜ起きているのか。



---


ただ一人。



---


高橋咲だけが。



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その理由の一端を知っていた。



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最初の生贄。



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契約。



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八つの守り石。



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そして。



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神殿の地下に眠る存在。



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咲は震える足で立ち上がった。



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宗景が肩を掴む。



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「行くな」



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咲は首を振る。



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「行かなきゃ」



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「駄目だ」



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宗景の声は本気だった。



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「見られた人間は帰れない」



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咲は苦笑した。



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不思議と恐怖は薄れていた。



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代わりに。



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理解があった。



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あの存在は自分を見た。



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そして。



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自分もあれを見た。



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繋がってしまった。



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完全に。



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「先生」



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咲は静かに言う。



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「徳蔵さんの書物を持っています」



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宗景が息を呑む。



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第二章主人公。



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西村徳蔵。



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命を賭して残した記録。



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咲は続けた。



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「庄吉さんの記録も」



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第一章主人公。



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西村庄吉。



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二十年前に死んだ男。



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「だから分かります」



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咲は神殿を見る。



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「ここで終わらせなきゃいけない」



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宗景は何も言えなかった。



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なぜなら。



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彼も分かっていた。



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咲はもう助からない。



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あの存在に認識された。



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歴代の犠牲者と同じように。



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その時だった。



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頭の中に声が響く。



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「来い」



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あの声。



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地下の存在。



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咲はふらりと歩き出した。



---


神殿へ。



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宗景が止めようとする。



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だが触れられない。



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咲の身体の周囲を黒い霧が覆っている。



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触れた瞬間。



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宗景の手が焼けた。



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「ぐっ!」



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咲は振り返る。



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悲しそうに微笑む。



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「ありがとうございます」



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それが最後だった。



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咲は山を登り始めた。



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神殿へ。



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一人で。



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黒い腕の下を。



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黒い柱の下を。



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数千の亡霊たちの視線を浴びながら。



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歩く。



---


歩く。



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歩く。



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そして。



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神殿跡へ辿り着いた。



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崩壊した石造りの建物。



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その中央。



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巨大な裂け目。



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地下へ続く穴。



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底が見えない。



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闇。



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永遠の闇。



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咲は穴を覗き込む。



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そこに。



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無数の目があった。



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何万。



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何十万。



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数えることすら不可能。



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そして。



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その中央。



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一つだけ。



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異様に大きな目。



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それが咲を見ていた。



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「記録者」



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声が響く。



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「お前は見た」



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咲は答えない。



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「お前は知った」



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沈黙。



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「ならば残せ」



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咲の胸が痛む。



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理解してしまった。



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歴代主人公たち。



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彼らは偶然記録を残したのではない。



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選ばれていた。



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見てしまった者たちだった。



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だから書いた。



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だから残した。



---


だから死んだ。



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咲は涙を流した。



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怖かった。



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生きたかった。



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もっと薬草を採りたかった。



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もっと笑いたかった。



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もっと村人たちと暮らしたかった。



---


だが。



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終わりは来る。



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誰にでも。



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咲は懐から帳面を取り出した。



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薬草採取用の記録帳。



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そこへ最後の文章を書く。



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震える手で。



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必死に。



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一文字ずつ。



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『地下にいる』



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『怨霊ではない』



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『守り石は封印ではなく機構』



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『第一の石は記録』



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『第二の石は循環』



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『第三の石は人格の混合』



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『八つ全てが揃えば何かが完成する』



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涙が紙に落ちる。



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それでも書く。



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『藤富家は敵ではない』



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『契約の管理者』



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『本当の敵は地下』



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風が吹く。



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いや。



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息だった。



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地下の存在の。



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巨大な吸気。



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咲の身体が浮く。



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ゆっくりと。



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裂け目へ。



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吸い寄せられる。



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咲は抵抗しなかった。



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もう分かっていたから。



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自分の役目が。



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最後に。



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最後に一つだけ書く。



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『次の人へ』



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『必ず続きを見つけて』



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『八つの石を終わらせて』



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そこで。



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帳面は閉じられた。



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次の瞬間。



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咲の身体は闇へ落ちた。



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悲鳴はない。



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叫びもない。



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ただ。



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深い闇に呑まれていく。



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そして。



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完全に消えた。



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高橋咲。



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二十二歳。



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薬草採取人。



---


第三章主人公。



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死亡。



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亡霊にはならない。



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記録だけを残して。



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その夜。



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黒い腕は再び地下へ沈んだ。



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黒い柱も消えた。



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しかし。



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何も終わっていない。



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むしろ始まった。



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第一の守り石。



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その表面には。



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誰の目にも分かるほど大きな亀裂が刻まれていた。



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封印の崩壊が。



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初めて形になった夜だった。



---


そして数年後。



---


天保の大飢饉がさらに深刻化する中。



---


新たな記録を手にする男が現れる。



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石工。



---


木村源次。



---


第四章の主人公である。



---


第三章 完

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