第九話「見られた者」
それは闇の中にいた。
神殿の地下深く。
裂けた山肌の奥。
人間が決して踏み込めない場所。
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無数の目。
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大きさも形も違う。
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子供の目。
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老人の目。
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獣の目。
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魚の目。
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人ではない何かの目。
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それらが暗闇の中に浮かんでいる。
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咲は息を止めた。
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距離は遠い。
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何百歩。
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いやもっとだ。
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それなのに。
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分かった。
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目が合った。
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確実に。
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その瞬間。
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世界から音が消えた。
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風。
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人の声。
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鐘の音。
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何も聞こえない。
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静寂。
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完全な静寂。
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咲だけが取り残されていた。
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広場も。
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村人も。
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宗景も。
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全てが止まっている。
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まるで時間そのものが凍結したようだった。
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咲は恐る恐る振り返る。
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誰も動いていない。
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瞬きすらしていない。
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世界が止まっている。
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そして。
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足音がした。
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コツ。
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コツ。
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コツ。
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誰かが歩いてくる。
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咲は振り返った。
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そこには。
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少女が立っていた。
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年齢は十歳ほど。
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白い着物。
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長い黒髪。
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裸足。
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しかし顔がない。
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正確には。
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顔がぼやけている。
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見ようとすると霞む。
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咲は一歩後退る。
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「誰……」
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少女は答えない。
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ただ立っている。
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そして。
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ゆっくり手を伸ばした。
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咲へ。
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その指先が額に触れる。
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冷たい。
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氷のようだった。
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その瞬間。
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咲の視界が反転した。
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世界が崩れる。
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空と地面が逆になる。
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光と闇が混ざる。
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そして。
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見えた。
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知らない景色。
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平安時代。
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まだ仏生堂と呼ばれていなかった土地。
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山は今より深く。
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森は濃い。
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そして。
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人々がいた。
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何十人もの村人。
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恐怖に震えている。
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中央には少女。
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咲と同じ年頃。
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両手を縛られている。
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泣いている。
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叫んでいる。
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しかし誰も助けない。
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老人が言う。
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「山が怒っておる」
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村人たちが頭を下げる。
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「捧げねばならぬ」
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少女が叫ぶ。
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「いやだ!」
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誰も見ない。
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そして。
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山奥の洞窟へ連れて行かれる。
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その時。
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咲は見た。
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洞窟の奥。
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暗闇の中に。
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目がある。
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一つではない。
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無数。
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今見ている存在と同じ。
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咲は理解する。
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始まりだ。
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全ての始まり。
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少女は生贄だった。
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最初の。
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少女は洞窟の前で振り返る。
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その顔が。
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一瞬だけ見えた。
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咲は息を呑む。
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自分だった。
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いや違う。
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似ている。
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だが同じではない。
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それでも。
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何かが繋がっている。
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少女は涙を流しながら呟く。
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「見つけて」
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そして洞窟へ消える。
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闇の中へ。
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無数の目の中へ。
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次の瞬間。
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景色が変わる。
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鎌倉。
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室町。
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戦国。
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江戸。
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時代が流れる。
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何百年も。
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何百人も。
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生贄が捧げられる。
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男。
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女。
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老人。
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子供。
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数え切れない。
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全員が洞窟へ消える。
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全員が食われる。
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咲は震えた。
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怨霊ではない。
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封印でもない。
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もっと単純だった。
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餌だ。
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人間そのものが。
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ずっと。
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何百年も。
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そして。
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最後の景色。
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そこには藤富家の祖先がいた。
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若い男。
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刀を持っている。
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彼は洞窟を見ている。
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そして。
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何かを決意する。
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その時。
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咲の頭に声が響く。
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男の声ではない。
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あの存在の声。
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「契約」
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低い。
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重い。
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地響きのような声。
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「八つの石を作れ」
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景色が揺れる。
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「我を眠らせよ」
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咲は凍り付く。
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眠らせる?
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では。
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藤富家は。
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封印したのか。
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しかし次の言葉で。
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その希望は砕けた。
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「その代わり」
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無数の目が開く。
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「死を捧げ続けろ」
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咲は理解した。
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契約だった。
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生贄は儀式ではない。
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契約の代償。
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藤富家は始めたのではない。
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終わらせられなかった。
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代々。
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続けるしかなかった。
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その瞬間。
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世界が元に戻る。
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音が帰ってくる。
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風。
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悲鳴。
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鐘。
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全てが一斉に。
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咲は膝をついた。
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息ができない。
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宗景が駆け寄る。
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「咲!」
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しかし咲は宗景を見ることができなかった。
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なぜなら。
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まだ聞こえるからだ。
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あの声が。
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「見たな」
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咲は震える。
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「お前は見た」
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頭の中に響く。
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「だから記録できる」
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嫌な予感がした。
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これまで歴代主人公たちは書物を残してきた。
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庄吉。
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徳蔵。
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彼らの記録。
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偶然ではない。
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選ばれていた。
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ずっと。
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その時。
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山が裂けた。
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今までで最大の崩落音。
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神殿の地下から。
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巨大な黒い腕が現れた。
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そして。
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仏生堂全体を覆うように。
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空へ向かって伸び始めた。
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宗景が絶望した顔で呟く。
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「第八の石が……反応している……」
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第三章最大の災厄が。
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ついに始まろうとしていた。
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(第九話・続く)




