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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第三章:仏生堂起動(1840・天保の飢え)

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第九話「見られた者」

それは闇の中にいた。


神殿の地下深く。


裂けた山肌の奥。


人間が決して踏み込めない場所。



---


無数の目。



---


大きさも形も違う。



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子供の目。



---


老人の目。



---


獣の目。



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魚の目。



---


人ではない何かの目。



---


それらが暗闇の中に浮かんでいる。



---


咲は息を止めた。



---


距離は遠い。



---


何百歩。



---


いやもっとだ。



---


それなのに。



---


分かった。



---


目が合った。



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確実に。



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その瞬間。



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世界から音が消えた。



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風。



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人の声。



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鐘の音。



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何も聞こえない。



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静寂。



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完全な静寂。



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咲だけが取り残されていた。



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広場も。



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村人も。



---


宗景も。



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全てが止まっている。



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まるで時間そのものが凍結したようだった。



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咲は恐る恐る振り返る。



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誰も動いていない。



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瞬きすらしていない。



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世界が止まっている。



---


そして。



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足音がした。



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コツ。



---


コツ。



---


コツ。



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誰かが歩いてくる。



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咲は振り返った。



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そこには。



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少女が立っていた。



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年齢は十歳ほど。



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白い着物。



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長い黒髪。



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裸足。



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しかし顔がない。



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正確には。



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顔がぼやけている。



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見ようとすると霞む。



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咲は一歩後退る。



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「誰……」



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少女は答えない。



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ただ立っている。



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そして。



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ゆっくり手を伸ばした。



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咲へ。



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その指先が額に触れる。



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冷たい。



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氷のようだった。



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その瞬間。



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咲の視界が反転した。



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世界が崩れる。



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空と地面が逆になる。



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光と闇が混ざる。



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そして。



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見えた。



---


知らない景色。



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平安時代。



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まだ仏生堂と呼ばれていなかった土地。



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山は今より深く。



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森は濃い。



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そして。



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人々がいた。



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何十人もの村人。



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恐怖に震えている。



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中央には少女。



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咲と同じ年頃。



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両手を縛られている。



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泣いている。



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叫んでいる。



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しかし誰も助けない。



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老人が言う。



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「山が怒っておる」



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村人たちが頭を下げる。



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「捧げねばならぬ」



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少女が叫ぶ。



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「いやだ!」



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誰も見ない。



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そして。



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山奥の洞窟へ連れて行かれる。



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その時。



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咲は見た。



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洞窟の奥。



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暗闇の中に。



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目がある。



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一つではない。



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無数。



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今見ている存在と同じ。



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咲は理解する。



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始まりだ。



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全ての始まり。



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少女は生贄だった。



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最初の。



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少女は洞窟の前で振り返る。



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その顔が。



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一瞬だけ見えた。



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咲は息を呑む。



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自分だった。



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いや違う。



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似ている。



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だが同じではない。



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それでも。



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何かが繋がっている。



---


少女は涙を流しながら呟く。



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「見つけて」



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そして洞窟へ消える。



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闇の中へ。



---


無数の目の中へ。



---


次の瞬間。



---


景色が変わる。



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鎌倉。



---


室町。



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戦国。



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江戸。



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時代が流れる。



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何百年も。



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何百人も。



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生贄が捧げられる。



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男。



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女。



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老人。



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子供。



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数え切れない。



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全員が洞窟へ消える。



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全員が食われる。



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咲は震えた。



---


怨霊ではない。



---


封印でもない。



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もっと単純だった。



---


餌だ。



---


人間そのものが。



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ずっと。



---


何百年も。



---


そして。



---


最後の景色。



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そこには藤富家の祖先がいた。



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若い男。



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刀を持っている。



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彼は洞窟を見ている。



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そして。



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何かを決意する。



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その時。



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咲の頭に声が響く。



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男の声ではない。



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あの存在の声。



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「契約」



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低い。



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重い。



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地響きのような声。



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「八つの石を作れ」



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景色が揺れる。



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「我を眠らせよ」



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咲は凍り付く。



---


眠らせる?



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では。



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藤富家は。



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封印したのか。



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しかし次の言葉で。



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その希望は砕けた。



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「その代わり」



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無数の目が開く。



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「死を捧げ続けろ」



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咲は理解した。



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契約だった。



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生贄は儀式ではない。



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契約の代償。



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藤富家は始めたのではない。



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終わらせられなかった。



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代々。



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続けるしかなかった。



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その瞬間。



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世界が元に戻る。



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音が帰ってくる。



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風。



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悲鳴。



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鐘。



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全てが一斉に。



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咲は膝をついた。



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息ができない。



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宗景が駆け寄る。



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「咲!」



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しかし咲は宗景を見ることができなかった。



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なぜなら。



---


まだ聞こえるからだ。



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あの声が。



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「見たな」



---


咲は震える。



---


「お前は見た」



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頭の中に響く。



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「だから記録できる」



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嫌な予感がした。



---


これまで歴代主人公たちは書物を残してきた。



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庄吉。



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徳蔵。



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彼らの記録。



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偶然ではない。



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選ばれていた。



---


ずっと。



---


その時。



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山が裂けた。



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今までで最大の崩落音。



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神殿の地下から。



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巨大な黒い腕が現れた。



---


そして。



---


仏生堂全体を覆うように。



---


空へ向かって伸び始めた。



---


宗景が絶望した顔で呟く。



---


「第八の石が……反応している……」



---


第三章最大の災厄が。



---


ついに始まろうとしていた。



---


(第九話・続く)

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