第三話 藤富家の古文書
権蔵の葬儀は、その日のうちに行われた。
村人たちは口数少なく、誰も権蔵の死について語ろうとしなかった。
いや、語れなかったのだろう。
庄吉は感じていた。
この村の者たちは何かを知っている。
だが、知りすぎているからこそ口を閉ざしている。
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夕暮れ。
庄吉は再び藤富宗兵衛の屋敷を訪ねた。
屋敷は村の中でもひときわ大きく、古いながらも威厳を感じさせる造りだった。
門をくぐると、宗兵衛は縁側に座り、庭を眺めていた。
まるで庄吉が来ることを分かっていたかのように。
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「権蔵の件について聞きたい」
庄吉は単刀直入に切り出した。
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宗兵衛は静かに目を閉じた。
「そうでしょうな」
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「何が起きた」
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「分かりませぬ」
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「嘘だ」
庄吉の声は鋭かった。
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宗兵衛の肩がわずかに震える。
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「何代も前から続いております」
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「何が」
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「山へ入った者が帰ってくることです」
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庄吉は眉をひそめた。
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「帰ってくる?」
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「生きてはおりません」
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宗兵衛は苦しそうに言葉を絞り出した。
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「死んだ者が帰ってくるのです」
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沈黙が落ちた。
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風が吹く。
庭木が揺れる。
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だが庄吉は笑わなかった。
昨夜の出来事。
権蔵の姿。
あれを見た後では、そんな話も荒唐無稽とは思えなかった。
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「何故だ」
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宗兵衛は首を振る。
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「分かりませぬ」
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だがその目は違った。
何かを隠している。
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庄吉は立ち上がった。
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「藤富家の蔵を見せてもらう」
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宗兵衛の表情が固まった。
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初めて明確な動揺が見えた。
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「それは……」
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「断る理由があるのか」
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宗兵衛はしばらく黙り込む。
やがて諦めたように立ち上がった。
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「ついてきてくだされ」
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屋敷の裏手。
古びた土蔵があった。
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錠前は重く、長年開けられていないようだった。
宗兵衛が鍵を回す。
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ぎい、と不快な音が響いた。
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中には古文書が積み上げられていた。
巻物。
帳面。
木箱。
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数百年分はあるだろう。
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「これは藤富家の記録です」
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庄吉は近くの巻物を開いた。
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天明。
安永。
宝暦。
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古い記録が続く。
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そして一冊の帳面に目が止まった。
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表紙にはこう書かれていた。
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『仏生堂供物帳』
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庄吉は眉をひそめた。
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「供物帳?」
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宗兵衛の顔色が変わる。
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庄吉は帳面を開いた。
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最初のページ。
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年月日。
名前。
年齢。
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その下に一文字。
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「奉納」
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次のページも。
その次も。
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同じだった。
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名前。
年齢。
奉納。
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何十人。
何百人。
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延々と続いている。
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庄吉の背筋に冷たいものが走った。
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「これは何だ」
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宗兵衛は答えない。
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「答えろ」
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庄吉の声が低くなる。
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宗兵衛は観念したように口を開いた。
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「昔の話です」
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「昔ではない」
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帳面は比較的新しい。
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百年も経っていない記録もある。
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宗兵衛は震える声で言った。
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「仏生堂では……人を捧げておりました」
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空気が止まった。
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庄吉は耳を疑った。
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「何だと」
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「山を鎮めるためです」
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「馬鹿な」
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「代々そう伝えられてきたのです」
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宗兵衛は俯いた。
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「山が荒れる時」
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「崩落が起きる時」
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「生贄を捧げれば静まると」
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庄吉は帳面を握り締める。
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怒りだった。
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武士として。
人として。
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そんなものが許されるはずがない。
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「いつまで続いた」
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宗兵衛は答える。
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「私の祖父の代まで」
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庄吉は絶句した。
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遠い昔ではない。
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ほんの数十年前の話だ。
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宗兵衛は続けた。
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「だが、ある日」
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「神殿が崩れました」
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庄吉の目が細くなる。
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昨夜見た祠。
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あれのことだ。
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「崩れた後からです」
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「死人が帰るようになったのは」
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沈黙。
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庄吉は帳面を閉じた。
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その時だった。
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蔵の奥から音がした。
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コツ。
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庄吉が振り向く。
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誰もいない。
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だが確かに聞こえた。
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コツ。
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また鳴る。
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今度は木箱の向こう側。
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庄吉は刀に手をかける。
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「誰だ」
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返事はない。
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宗兵衛も青ざめている。
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そして。
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コツ。
コツ。
コツ。
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音が近づいてくる。
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まるで誰かが蔵の中を歩いている。
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だが姿は見えない。
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庄吉はゆっくり刀を抜いた。
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その瞬間。
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木箱の陰から。
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白い指が現れた。
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人間の指だった。
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だが異様に長い。
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骨のように細い。
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一本。
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二本。
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三本。
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ゆっくりと床を掴む。
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宗兵衛が悲鳴を上げた。
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次の瞬間。
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指は消えた。
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まるで最初から存在しなかったかのように。
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静寂。
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庄吉は刀を握ったまま動かない。
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嫌な予感がしていた。
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昨夜から続く異変。
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権蔵の死。
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供物帳。
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そして今の怪異。
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全てが一つの場所を指している。
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仏生堂の神殿。
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あそこに何かがいる。
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そしてそれは。
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少しずつ目を覚まし始めている。
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庄吉は供物帳を懐へ入れた。
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「明日、神殿へ行く」
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宗兵衛の顔から血の気が引いた。
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「行ってはなりませぬ」
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「理由は」
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宗兵衛は震える唇で答えた。
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「帰ってこられなくなります」
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庄吉は静かに言った。
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「既に多くの者が帰ってこられなかった」
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「ならば誰かが行かねばならん」
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宗兵衛は何も言えなかった。
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夜の風が吹く。
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蔵の奥から。
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誰かが笑った気がした。
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第四話へ続く。




