第七話「神殿の下のもの」
黒い霧。
それは石の亀裂から静かに漏れ出していた。
煙のようにも見える。
だが違う。
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それは形を持っていた。
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人の指。
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人の腕。
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人の顔。
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無数の死者が溶け合ったような存在。
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咲は思わず後退した。
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その霧に触れた草が枯れる。
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地面が黒く変色する。
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しかし最も異様だったのは。
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音がすることだった。
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囁き声。
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何百。
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何千。
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何万。
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数え切れない声。
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「帰りたい」
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「寒い」
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「助けて」
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「許さない」
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「見つけた」
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「まだ足りない」
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咲は耳を塞ぐ。
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だが聞こえる。
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頭の中に直接響いてくる。
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宗景は木札を取り出した。
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しかし。
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その手が止まる。
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木札が黒ずんでいる。
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触れてもいないのに。
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まるで何年も風雨に晒されたように朽ちている。
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宗景が顔を歪めた。
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「侵食されている」
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「何が」
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咲は尋ねる。
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宗景は答える。
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「封印だ」
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風が吹く。
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冷たい。
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いや。
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冷たすぎる。
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真冬の山よりも冷たい。
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死体のような冷たさ。
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宗景は神殿の方向を見る。
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「来るぞ」
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その言葉と同時に。
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遠くで鐘が鳴った。
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ゴーン……
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今までより大きい。
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重い。
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そして近い。
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咲は気づく。
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音が近づいている。
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神殿から聞こえていたはずなのに。
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今は村のすぐ外から聞こえる。
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まるで。
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鐘そのものが移動しているように。
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その時。
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広場の端で誰かが叫んだ。
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「人がいる!」
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全員が振り向く。
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そこに立っていたのは。
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僧だった。
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古い法衣。
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泥だらけの足。
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髪は長く伸びている。
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顔色は死人のように白い。
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誰も知らない男。
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しかし。
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宗景だけが息を呑んだ。
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「そんな馬鹿な……」
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男はゆっくり歩いてくる。
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足音はない。
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呼吸音もない。
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ただ近づいてくる。
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咲は本能で分かった。
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生者ではない。
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男は広場の中央で止まる。
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そして。
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宗景を見た。
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「久しいな」
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低い声。
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乾いた声。
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まるで長い間使われていなかった喉で喋っているようだった。
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宗景は固まる。
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「お前は……」
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男は笑った。
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「忘れたか」
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空気が重くなる。
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「いや」
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宗景は首を振った。
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「忘れるはずがない」
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咲には意味が分からない。
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男は空を見上げる。
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黒い柱。
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うごめく死者。
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そして静かに言った。
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「起動したな」
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その一言で。
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咲の背筋に悪寒が走る。
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まただ。
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起動。
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宗景も同じ反応だった。
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男は続ける。
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「予想より百年早い」
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宗景が目を見開く。
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「何を知っている」
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男は答えた。
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「知っているのではない」
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笑う。
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「作ったからだ」
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沈黙。
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広場にいた全員が凍り付く。
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作った。
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何を。
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宗景の顔色が変わる。
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「まさか」
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男は頷く。
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「最初の管理者だ」
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風が止まる。
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咲は理解した。
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この男は。
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普通の亡霊ではない。
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藤富家が守ってきた秘密。
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その始まりにいた存在。
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男は神殿を見た。
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「封印は失敗だった」
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宗景が低く唸る。
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「黙れ」
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「失敗だった」
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男は繰り返す。
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「お前たちは勘違いしている」
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鐘が鳴る。
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ゴーン……
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男の声と重なる。
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「封じていると思っている」
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黒い霧が広がる。
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「違う」
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石の顔が笑う。
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「育てている」
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咲の心臓が大きく脈打つ。
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育てている。
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何を。
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男はゆっくり指を上げた。
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神殿の地下を指す。
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「下にいるものを」
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その瞬間。
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地面が震えた。
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いや。
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震えたのではない。
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脈打った。
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ドクン。
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巨大な心臓のように。
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ドクン。
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もう一度。
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咲は息を呑む。
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広場の全員が感じている。
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足元から伝わる鼓動。
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宗景の顔から血の気が消える。
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「目覚め始めている」
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男は静かに言う。
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「まだ完全ではない」
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ドクン。
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鼓動。
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ドクン。
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また。
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そして。
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仏生堂神殿の方角から。
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聞こえてきた。
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巨大な何かが。
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息を吸う音が。
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山ひとつ分の肺を持つような。
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人間ではあり得ない呼吸音。
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咲は震える。
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それは確信だった。
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神殿の地下には。
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何かがいる。
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怨霊ではない。
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亡霊でもない。
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八つの守り石が封じている存在。
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藤富家が二百年守ってきた秘密。
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そして。
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すべての呪いの中心。
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その存在が。
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今。
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目を覚まし始めていた。
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(第七話・続く)




