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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第三章:仏生堂起動(1840・天保の飢え)

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第六話「第三の石」

広場の中央に走った亀裂。


その奥から覗く巨大な石。


そして石の表面を埋め尽くす無数の顔。



---


咲は息をすることすら忘れていた。



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顔は動いていた。



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生きている。



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いや。



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死んでいる。



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そのどちらでもない。



---


石の表面に埋め込まれた人々は目を開き、口を動かしている。


しかし声は出ない。



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まるで何かを伝えようとしている。



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その光景を見た瞬間。



---


広場にいた村人たちが悲鳴を上げた。



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「石が出た!」



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「逃げろ!」



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「見るな!」



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老人たちの反応は異常だった。



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若者たちは恐怖している。



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しかし老人たちは知っている。



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昔から。



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何かを。



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宗景が叫ぶ。



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「全員離れろ!」



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村人たちが散る。



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しかし遅かった。



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石の表面に浮かぶ顔の一つが。



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目を開いた。



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その瞬間。



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近くにいた老婆が立ち止まる。



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まるで糸で引かれたように。



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動きが止まる。



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宗景が振り返る。



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「まずい!」



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老婆はゆっくりと石へ近づく。



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咲が叫ぶ。



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「危ない!」



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しかし届かない。



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老婆は石の前に膝をつく。



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そして。



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泣き始めた。



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「母さん……」



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誰もいない。



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だが老婆には見えている。



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石の中に。



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亡くなった母親が。



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「母さん……」



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涙を流しながら石に手を伸ばす。



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その指先が石に触れた瞬間。



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石の中の顔が笑った。



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バキ。



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嫌な音がした。



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老婆の身体ではない。



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石の中からだった。



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何かが。



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割れた。



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そして。



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老婆の顔が変わった。



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咲は目を見開く。



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顔立ちは同じ。



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だが。



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表情が違う。



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目つきが違う。



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まるで別人。



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宗景が駆け寄る。



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「離れろ!」



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老婆の肩を掴む。



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すると老婆は振り返った。



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そして。



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宗景を見て言った。



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「宗景」



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宗景の顔色が変わる。



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「……誰だ」



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老婆は笑った。



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「久しぶりだな」



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咲には意味が分からなかった。



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しかし宗景は理解していた。



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血の気が引いている。



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老婆は続ける。



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「百年ぶりか」



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宗景が後退る。



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あり得ない。



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百年前の人間などいるはずがない。



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だが。



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老婆の口から出ている声は。



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老人ではなかった。



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男の声。



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宗景が震える声で呟く。



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「先祖……」



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咲は凍り付く。



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その瞬間。



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全てを理解する。



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第三の石。



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人格の混線。



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死者の記憶。



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死者の人格。



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それらが人間へ流れ込んでいる。



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老婆の身体は生きている。



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だが中身は違う。



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宗景の先祖。



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何十年。



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あるいは百年以上前の人格。



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それが今。



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目の前にいる。



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老婆の姿で。



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「ようやく起動したか」



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先祖は笑う。



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「長かった」



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宗景は剣の柄に手をかける。



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「何を知っている」



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先祖は笑みを深くした。



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「全部だ」



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風が吹く。



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石の表面に浮かぶ顔たちも笑う。



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何百もの顔が。



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一斉に。



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「全部だ」



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同じ言葉を繰り返す。



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咲は吐き気を覚えた。



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何かがおかしい。



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あまりにも。



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宗景も気づいていた。



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「違う」



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先祖は首を傾げる。



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「何がだ」



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「お前は違う」



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宗景は睨む。



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「先祖ではない」



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その瞬間。



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老婆の身体が笑った。



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腹を抱えて。



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狂ったように。



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「やはり気づくか」



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その声は。



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男。



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女。



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子供。



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老人。



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何十人もの声が重なっていた。



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「第三の石は混ぜる」



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咲の全身が震える。



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「人格を」



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石の顔たちが笑う。



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「記憶を」



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「死を」



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「魂を」



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「全部」



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宗景の表情が険しくなる。



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「誰だ」



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沈黙。



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そして。



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老婆の身体がゆっくり指を上げる。



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神殿の方角を指した。



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「我らは集める者」



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黒い柱が揺れる。



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「藤富が集めた」



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地面が震える。



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「二百年」



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宗景の顔色が変わった。



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二百年。



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それは。



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藤富家が知らないはずの年月。



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「何者だ」



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老婆の口が裂けるように笑った。



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「まだ足りない」



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その言葉と同時に。



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石の表面に亀裂が走った。



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一本。



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小さな亀裂。



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しかし。



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宗景の顔から血の気が消える。



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咲は初めて見た。



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この男が本気で怯える姿を。



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「まさか……」



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宗景が呟く。



---


「第一の石が……」



---


咲は振り返る。



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石の表面。



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無数の顔。



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その中央。



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ほんの小さな欠け。



---


だが。



---


そこから。



---


黒い霧が漏れ始めていた。



---


そして。



---


遠く。



---


仏生堂神殿の地下で。



---


何か巨大なものが。



---


ゆっくりと目を開いた。



---


(第六話・続く)

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