第六話「第三の石」
広場の中央に走った亀裂。
その奥から覗く巨大な石。
そして石の表面を埋め尽くす無数の顔。
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咲は息をすることすら忘れていた。
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顔は動いていた。
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生きている。
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いや。
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死んでいる。
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そのどちらでもない。
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石の表面に埋め込まれた人々は目を開き、口を動かしている。
しかし声は出ない。
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まるで何かを伝えようとしている。
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その光景を見た瞬間。
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広場にいた村人たちが悲鳴を上げた。
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「石が出た!」
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「逃げろ!」
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「見るな!」
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老人たちの反応は異常だった。
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若者たちは恐怖している。
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しかし老人たちは知っている。
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昔から。
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何かを。
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宗景が叫ぶ。
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「全員離れろ!」
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村人たちが散る。
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しかし遅かった。
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石の表面に浮かぶ顔の一つが。
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目を開いた。
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その瞬間。
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近くにいた老婆が立ち止まる。
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まるで糸で引かれたように。
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動きが止まる。
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宗景が振り返る。
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「まずい!」
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老婆はゆっくりと石へ近づく。
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咲が叫ぶ。
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「危ない!」
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しかし届かない。
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老婆は石の前に膝をつく。
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そして。
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泣き始めた。
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「母さん……」
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誰もいない。
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だが老婆には見えている。
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石の中に。
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亡くなった母親が。
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「母さん……」
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涙を流しながら石に手を伸ばす。
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その指先が石に触れた瞬間。
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石の中の顔が笑った。
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バキ。
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嫌な音がした。
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老婆の身体ではない。
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石の中からだった。
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何かが。
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割れた。
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そして。
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老婆の顔が変わった。
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咲は目を見開く。
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顔立ちは同じ。
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だが。
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表情が違う。
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目つきが違う。
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まるで別人。
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宗景が駆け寄る。
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「離れろ!」
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老婆の肩を掴む。
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すると老婆は振り返った。
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そして。
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宗景を見て言った。
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「宗景」
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宗景の顔色が変わる。
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「……誰だ」
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老婆は笑った。
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「久しぶりだな」
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咲には意味が分からなかった。
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しかし宗景は理解していた。
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血の気が引いている。
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老婆は続ける。
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「百年ぶりか」
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宗景が後退る。
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あり得ない。
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百年前の人間などいるはずがない。
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だが。
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老婆の口から出ている声は。
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老人ではなかった。
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男の声。
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宗景が震える声で呟く。
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「先祖……」
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咲は凍り付く。
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その瞬間。
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全てを理解する。
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第三の石。
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人格の混線。
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死者の記憶。
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死者の人格。
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それらが人間へ流れ込んでいる。
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老婆の身体は生きている。
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だが中身は違う。
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宗景の先祖。
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何十年。
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あるいは百年以上前の人格。
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それが今。
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目の前にいる。
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老婆の姿で。
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「ようやく起動したか」
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先祖は笑う。
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「長かった」
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宗景は剣の柄に手をかける。
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「何を知っている」
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先祖は笑みを深くした。
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「全部だ」
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風が吹く。
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石の表面に浮かぶ顔たちも笑う。
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何百もの顔が。
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一斉に。
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「全部だ」
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同じ言葉を繰り返す。
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咲は吐き気を覚えた。
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何かがおかしい。
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あまりにも。
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宗景も気づいていた。
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「違う」
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先祖は首を傾げる。
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「何がだ」
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「お前は違う」
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宗景は睨む。
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「先祖ではない」
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その瞬間。
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老婆の身体が笑った。
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腹を抱えて。
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狂ったように。
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「やはり気づくか」
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その声は。
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男。
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女。
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子供。
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老人。
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何十人もの声が重なっていた。
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「第三の石は混ぜる」
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咲の全身が震える。
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「人格を」
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石の顔たちが笑う。
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「記憶を」
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「死を」
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「魂を」
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「全部」
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宗景の表情が険しくなる。
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「誰だ」
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沈黙。
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そして。
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老婆の身体がゆっくり指を上げる。
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神殿の方角を指した。
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「我らは集める者」
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黒い柱が揺れる。
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「藤富が集めた」
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地面が震える。
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「二百年」
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宗景の顔色が変わった。
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二百年。
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それは。
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藤富家が知らないはずの年月。
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「何者だ」
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老婆の口が裂けるように笑った。
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「まだ足りない」
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その言葉と同時に。
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石の表面に亀裂が走った。
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一本。
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小さな亀裂。
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しかし。
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宗景の顔から血の気が消える。
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咲は初めて見た。
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この男が本気で怯える姿を。
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「まさか……」
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宗景が呟く。
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「第一の石が……」
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咲は振り返る。
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石の表面。
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無数の顔。
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その中央。
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ほんの小さな欠け。
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だが。
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そこから。
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黒い霧が漏れ始めていた。
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そして。
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遠く。
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仏生堂神殿の地下で。
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何か巨大なものが。
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ゆっくりと目を開いた。
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(第六話・続く)




