第五話「仏生堂の鐘」
黒い柱は空へ伸び続けていた。
無数の人影が絡み合い、ねじれ、うごめいている。
遠目には煙のようにも見える。
だが違う。
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あれは人間だ。
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咲には分かってしまった。
顔がある。
腕がある。
指がある。
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何百。
何千。
あるいはそれ以上。
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死者たちが一つに固まっている。
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ゴーン……
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再び鐘が鳴った。
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その音が響いた瞬間。
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村全体が静かになった。
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不自然なほど静かだった。
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犬が吠えない。
鳥も鳴かない。
風の音すら弱くなる。
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まるで世界そのものが耳を澄ませている。
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咲は息を呑む。
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その沈黙の中。
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一人の女が道端で立ち止まった。
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村人だった。
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四十代ほど。
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痩せ細った農家の女。
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彼女は鐘の方向を見ている。
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そして。
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ゆっくり歩き始めた。
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神殿の方向へ。
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「おい!」
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近くの男が呼び止める。
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女は止まらない。
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「待て!」
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肩を掴む。
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その瞬間。
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女が振り返った。
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咲は悲鳴を飲み込んだ。
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目がない。
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正確には。
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目が開いているのに。
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何も映っていない。
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空っぽだった。
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男が後退る。
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女はそのまま歩く。
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神殿の方へ。
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また一人。
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また一人。
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今度は老人。
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若者。
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子供。
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次々に歩き始める。
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誰も喋らない。
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誰も迷わない。
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ただ神殿へ向かう。
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「始まったか……」
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宗景の声は重かった。
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「何が始まったんです!」
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咲は叫ぶ。
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宗景は答えない。
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いや。
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答えたくないのだ。
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その顔を見れば分かった。
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宗景自身も恐れている。
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だが。
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やがて口を開く。
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「呼ばれている」
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「誰に」
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宗景は黒い柱を見た。
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「仏生堂に」
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咲の背筋に寒気が走る。
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仏生堂。
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集落の名前。
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そして。
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最奥部にある禁忌の神殿。
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誰も近寄らない場所。
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昔から生贄が捧げられていた場所。
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宗景は低く言う。
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「鐘は合図だ」
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「何の」
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「収集の」
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その言葉を聞いた瞬間。
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咲の頭に昨日の言葉が浮かぶ。
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登録完了。
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そして。
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まだ足りない。
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すべてが繋がる。
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集めている。
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何かを。
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死者を。
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記憶を。
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魂を。
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何もかも。
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宗景は続ける。
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「第一の石が記録する」
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「……」
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「第二の石が循環させる」
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そして。
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「仏生堂が集める」
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咲は理解した。
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今まで見ていたものは現象ではない。
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工程なのだ。
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何か巨大な目的のための。
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手順。
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その時だった。
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遠くで悲鳴が上がる。
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村の中央。
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人が集まっている。
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宗景と咲は駆け出した。
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広場に着く。
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そこには二十人ほどの村人がいた。
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全員が神殿の方向を見ている。
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そして。
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その中心に少年がいた。
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十五歳ほど。
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農家の息子だ。
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身体を震わせている。
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口から泡を吹いている。
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「離れろ!」
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宗景が叫ぶ。
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村人たちが下がる。
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次の瞬間。
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少年が叫んだ。
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「寒い!」
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その声は少年のものではなかった。
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老人の声。
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続いて。
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「助けて!」
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女の声。
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「痛い!」
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子供の声。
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「帰りたい!」
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男の声。
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次々と変わる。
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何十人もの声。
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一つの身体から。
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咲は凍り付いた。
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第三の石。
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まだ名前は知らない。
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だが本能が告げている。
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これも石の仕業だ。
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少年は泣きながら笑った。
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笑いながら怒った。
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怒りながら助けを求めた。
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人格が入れ替わっている。
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宗景の顔色が変わる。
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「早すぎる」
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その言葉を咲は聞き逃さなかった。
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まただ。
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また。
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早すぎる。
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予定より。
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何かが。
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早く進んでいる。
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少年は突然静かになった。
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そして。
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ゆっくりと顔を上げる。
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目が合った。
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咲と。
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その瞬間。
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少年の口が動く。
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しかし。
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声は少年ではない。
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何百人もの声だった。
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「見つけた」
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咲の心臓が止まりそうになる。
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「お前は見える」
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周囲の村人には聞こえていない。
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咲だけに聞こえている。
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「お前は記録できる」
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頭痛が走る。
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視界が揺れる。
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「だから必要だ」
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必要。
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何に。
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何のために。
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少年の首がゆっくり傾く。
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骨が鳴る。
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あり得ない角度。
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そして。
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笑った。
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「次はお前だ」
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その瞬間。
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少年の身体が崩れ落ちた。
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意識を失っただけではない。
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何かが抜けた。
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空っぽになった。
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宗景が駆け寄る。
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脈を確認する。
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そして。
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ゆっくり立ち上がる。
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「生きている」
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だが。
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宗景の表情は暗い。
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「中身がない」
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咲は言葉を失う。
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その時。
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再び鐘が鳴った。
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ゴーン……
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ゴーン……
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ゴーン……
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今度は近い。
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あまりにも近い。
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まるで。
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神殿ではなく。
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地下から鳴っているようだった。
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そして。
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広場の地面が割れた。
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ピシッ。
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一本の亀裂。
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そこから。
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黒い何かが覗いていた。
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石だった。
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表面に無数の傷が刻まれた。
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祠で見たものと同じ。
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しかし。
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もっと大きい。
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もっと古い。
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そして。
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その石の表面には。
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人の顔が浮かび上がっていた。
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何十。
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何百。
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何千。
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数え切れない顔。
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その全てが。
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咲を見ていた。
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(第五話・続く)




