第三話「山に立つ者たち」
山肌を埋め尽くす人影。
その数は異常だった。
木々の間。
岩の上。
崩れた斜面。
ありとあらゆる場所に人が立っている。
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しかし動かない。
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ただ見ている。
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高橋咲は息を呑んだ。
冷たい汗が背中を流れる。
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「あれは……」
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言葉が続かない。
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藤富宗景も山を見ていた。
だが彼の顔に浮かんでいるのは恐怖ではない。
焦りだった。
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「数が多すぎる」
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「何なんです、あれは!」
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咲は思わず叫んだ。
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宗景はしばらく黙っていた。
だがやがて諦めたように口を開く。
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「あれは死者だ」
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咲は絶句した。
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「死者……?」
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「正確には違う」
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宗景の目は山から離れない。
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「死者の残滓だ」
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「残滓……」
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「人が死ねば終わると思うか?」
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咲は答えられない。
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宗景は続けた。
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「終わらない」
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低い声だった。
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「この土地では終われない」
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風が吹く。
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山肌の人影たちの衣が揺れた。
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しかし身体は動かない。
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まるで木のように。
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あるいは墓標のように。
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立ち尽くしている。
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宗景は静かに言った。
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「人は死ぬ」
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「……」
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「だが、この土地は死を返さない」
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咲は理解できなかった。
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しかし宗景の表情だけは真実を語っている。
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嘘をついている顔ではない。
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「返さないとは?」
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宗景は答えない。
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代わりに山を指差した。
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「あの中に」
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「?」
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「三十年前の人間がいる」
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咲は凍り付く。
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「四十年前の人間もいる」
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宗景の声は淡々としている。
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「百年前の人間もいる」
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咲は言葉を失った。
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そんなことはありえない。
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だが。
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あの数。
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あの異様さ。
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否定する材料がなかった。
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宗景は呟く。
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「積もっている」
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「……」
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「死が積もっているんだ」
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その言葉を聞いた瞬間。
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山の奥で何かが動いた。
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ざわり。
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人影の群れが揺れた。
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咲は目を見開く。
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一体が動く。
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また一体。
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さらに一体。
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数百の影の中から。
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三つの影だけが歩き始めた。
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ゆっくりと。
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こちらへ向かって。
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宗景の顔色が変わる。
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「まずい」
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咲は振り返る。
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「何ですか」
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「来る」
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宗景が言った瞬間。
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山全体が鳴った。
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ゴォォォォォ……
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昨日までとは比較にならない。
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大地の奥深く。
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何か巨大なものが軋んでいる。
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咲は耳を塞いだ。
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頭が痛い。
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音ではない。
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感情が流れ込んでくる。
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怒り。
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絶望。
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飢え。
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憎悪。
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数え切れない人間の感情。
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何百。
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何千。
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いや。
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もっとだ。
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咲は膝をつく。
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頭の中に映像が流れ込む。
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餓死した母親。
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崩落に飲まれた男。
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生贄として消えた少女。
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首を吊った老人。
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川に身を投げた子供。
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知らない。
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誰も知らないはずの死。
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それが次々に流れ込む。
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「やめ……」
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吐き気が込み上げる。
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そのときだった。
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宗景が何かを取り出した。
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木札。
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古びた護符。
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それを地面へ叩き付ける。
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瞬間。
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風が吹いた。
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強烈な風だった。
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山から吹き下ろす風。
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その風に触れた途端。
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咲の頭の中の映像が消えた。
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静寂。
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咲は荒い呼吸を繰り返す。
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宗景は護符を見つめていた。
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その表情は険しい。
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「効きが悪い……」
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「何が起きてるんです」
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宗景は答える。
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「第一の石だ」
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咲の心臓が跳ねる。
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祠で見た石。
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あれだ。
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「あれが動き始めた」
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「動く?」
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宗景は頷く。
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「本来ならまだ先だった」
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「何が」
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「記録の蓄積だ」
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咲は意味が分からない。
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しかし宗景は続けた。
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「死者は消える」
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「……」
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「それが自然だ」
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風が止む。
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宗景は山を睨む。
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「だが、この土地では消えない」
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咲は昨日の言葉を思い出した。
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登録完了。
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あの声。
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あの文字。
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宗景は静かに言う。
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「第一の石は死を記録する」
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咲の背筋が冷える。
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「記録……」
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「だから死者は消えない」
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その瞬間。
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山から降りてくる三つの影が。
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はっきり見えた。
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男。
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女。
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子供。
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だが。
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顔がない。
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いや。
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顔が削れている。
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まるで誰かが存在を削り取ったように。
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宗景が呟く。
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「記録不全だ」
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咲は理解できない。
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だが本能だけが叫んでいる。
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逃げろ。
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逃げろ。
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逃げろ。
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三つの影が。
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ゆっくり。
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確実に。
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こちらへ歩いてくる。
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そして。
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その後ろで。
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山を埋め尽くす数千の影が。
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一斉に動き始めた。
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宗景の顔から血の気が引く。
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「第二の石まで動いている……」
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咲は振り返る。
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「第二の石?」
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宗景は低く答えた。
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「死者を循環させる石だ」
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そして。
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初めて恐怖を滲ませた声で言う。
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「まだ完成していないはずなんだ」
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その言葉と同時に。
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数千の影が。
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一歩。
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前へ出た。
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(第三話・続く)




