最終話 藤富の選択
夜が深くなるにつれ、山はさらに不気味さを増していた。
---
死人の行列はすでに見えない。
---
だが確かに“そこにいる気配”だけが残っている。
---
徳蔵は第一の石の前に立ち続けていた。
---
空円は何かを測るように石を見ている。
---
宗胤は地面に座り込み、息を整えていた。
---
そして。
---
少し離れた場所から、ゆっくりと足音が近づく。
---
徳蔵は振り向く。
---
宗景だった。
---
藤富宗景。
---
利用派の男。
---
相変わらず落ち着いた顔をしている。
---
まるで散歩に来たかのようだった。
---
宗胤の顔が険しくなる。
---
「来ると思っていた」
---
宗景は笑う。
---
「当然でしょう」
---
そして石を見る。
---
「……もう触れましたか」
---
空円が答える。
---
「触れてはいない」
---
「だが“反応”は起きた」
---
宗景は満足そうに頷く。
---
「十分です」
---
徳蔵は睨む。
---
「何が十分だ」
---
宗景は徳蔵を見る。
---
そして静かに言った。
---
「第一の扉は開きかけている」
---
沈黙。
---
空円が低く言う。
---
「扉ではありません」
---
宗景は軽く笑う。
---
「呼び方の違いですよ」
---
徳蔵は一歩前に出る。
---
「貴様は何をするつもりだ」
---
宗景は迷わず答えた。
---
「救済です」
---
その言葉に宗胤が強く反応する。
---
「救済だと?」
---
宗景は頷く。
---
「苦しみ続ける魂を終わらせる」
---
「それだけです」
---
徳蔵は怒りを抑えきれない。
---
「それが貴様の目的か」
---
宗景は首を振る。
---
「目的ではありません」
---
「結果です」
---
空円が静かに言う。
---
「あなたは危険だ」
---
宗景は空円を見る。
---
「僧の方ですね」
---
「あなたは理解しているはずだ」
---
空円は答えない。
---
だが表情が硬い。
---
宗景は続ける。
---
「守り石は“苦しみの保存装置”です」
---
「ならば」
---
「壊すのが救いでしょう」
---
徳蔵は言い返す。
---
「その後に何が起きる」
---
宗景は微笑む。
---
「誰にも分かりません」
---
「だから面白い」
---
その瞬間。
---
空円が低く言う。
---
「やはりあなたは危険だ」
---
宗景は否定しない。
---
むしろ楽しそうだった。
---
その時だった。
---
山の奥で再び光が走る。
---
今度は一筋ではない。
---
複数。
---
空を裂くように伸びる。
---
宗胤が立ち上がる。
---
「第二の石の位置だ……」
---
空円が目を細める。
---
「移動しています」
---
徳蔵は振り返る。
---
「移動?」
---
空円は答える。
---
「石そのものではありません」
---
「“中心”が動いています」
---
宗景が小さく笑う。
---
「始まった」
---
徳蔵が睨む。
---
「何がだ」
---
宗景はゆっくり言う。
---
「再配置です」
---
沈黙。
---
風が止まる。
---
宗胤が震える声で言う。
---
「そんな記録はない」
---
宗景は肩をすくめる。
---
「ないでしょうね」
---
「消しましたから」
---
徳蔵の拳が震える。
---
空円が一歩前に出る。
---
「あなたは何を知っている」
---
宗景は少し黙る。
---
そして答えた。
---
「守り石は“固定装置”ではありません」
---
「循環装置です」
---
徳蔵は理解できない。
---
宗景は続ける。
---
「怨霊は増え続ける」
---
「ならば」
---
「流れを作る必要がある」
---
宗胤が叫ぶ。
---
「だから生贄か!」
---
宗景は否定しない。
---
「そうです」
---
「流すための仕組みです」
---
空円が低く言う。
---
「それが間違っている」
---
宗景は静かに笑う。
---
「では代案は?」
---
誰も答えられない。
---
その沈黙が答えだった。
---
徳蔵は理解する。
---
この問題に正解はない。
---
宗景は静かに言う。
---
「私は壊す」
---
「そして見届ける」
---
「その先を」
---
宗胤が叫ぶ。
---
「それでは全てが崩れる!」
---
宗景は振り返る。
---
「もう崩れ始めています」
---
山の奥。
---
第二の石の位置。
---
光がさらに強くなる。
---
空円が呟く。
---
「遅い……」
---
徳蔵は刀を握る。
---
父の死。
---
死人の行列。
---
藤富家の分裂。
---
すべてが繋がっている。
---
そして今。
---
選択が迫られている。
---
守るのか。
---
壊すのか。
---
救うのか。
---
それとも。
---
すべてを失うのか。
---
宗胤が徳蔵を見る。
---
「西村殿」
---
「あなたはどうする」
---
沈黙。
---
徳蔵は山を見上げる。
---
そこには光があった。
---
そしてその奥に。
---
何かが“目覚めようとしている気配”があった。
---
徳蔵は静かに言う。
---
「俺はまだ何も知らない」
---
「だが」
---
刀を握る。
---
「父の答えは見つける」
---
その瞬間。
---
山が鳴った。
---
第二章は終わりを迎える。
---
しかしこれは終わりではない。
---
むしろ。
---
始まりだった。
---
第二章 終幕
「藤富の選択」終
-




