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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第二章 飢饉と帰る死人― 八つの守り石 ―

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第六話 利用派の男

その日の夕方。


徳蔵は藤富家の客間へ通されていた。



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目の前には茶が置かれている。



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だが。



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手を付ける気にはなれなかった。



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頭の中が整理できない。



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八つの守り石。



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怨霊。



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奉納記録。



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そして。



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「魂は解放されぬ」


という一文。



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父が命を懸けて追ったものは。



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単なる怪談ではなかった。



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徳蔵は確信していた。



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その時だった。



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廊下から足音が聞こえる。



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ゆっくり。



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迷いなく。



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近づいてくる。



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襖が開いた。



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入ってきた男を見て。



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宗胤の表情がわずかに曇った。



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四十代半ば。



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背は高い。



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痩せている。



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鋭い目。



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整った顔立ち。



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どこか蛇を思わせる男だった。



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男は徳蔵を見る。



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そして微笑んだ。



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「初めまして」



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「西村徳蔵殿」



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徳蔵は立ち上がる。



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宗胤が静かに言う。



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「藤富宗景です」



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徳蔵の目が細くなる。



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昨夜。



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死人の群れの中で名前だけ聞いた男。



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利用派。



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宗胤と対立する人物。



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宗景は座る。



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まるで自分の家のように。



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いや。



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実際に自分の家だった。



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「話は聞いています」



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「庄吉殿のご子息だとか」



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徳蔵は答えない。



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宗景は気にしない。



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むしろ楽しそうだった。



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「父上は優秀な方でした」



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徳蔵の眉が動く。



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「知っているのか」



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「もちろん」



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宗景は即答した。



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「ここ百年で最も真実に近づいた人でした」



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宗胤の顔が曇る。



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宗景は続ける。



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「惜しい人を亡くしました」



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その言い方に。



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徳蔵は怒りを覚える。



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まるで他人事だ。



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宗景は茶を飲む。



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そして。



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さらりと言った。



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「ところで」



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「八つの守り石の話は聞きましたか」



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宗胤が睨む。



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「宗景」



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「黙っていても意味がありません」



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宗景は笑う。



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「どうせ知ることになる」



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徳蔵は黙って聞く。



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宗景は楽しそうだった。



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まるで講義を始める教師のように。



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「西村殿」



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「人は死ねば終わりだと思いますか」



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徳蔵は答える。



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「普通はそうだ」



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「ですが」



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宗景は指を立てる。



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「亀の瀬では違う」



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沈黙。



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「死者は消えない」



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「集まるのです」



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徳蔵は昨夜の行列を思い出す。



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宗景は続ける。



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「悲しみ」



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「憎しみ」



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「絶望」



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「恐怖」



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「後悔」



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「未練」



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「それらは残る」



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「残ったものが積み重なり」



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「やがて一つの流れになる」



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徳蔵は聞いていた。



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理解できない。



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だが。



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嘘ではない気がする。



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宗景の話には妙な説得力があった。



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宗景はさらに続ける。



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「我々の先祖は気付きました」



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「この流れを利用できると」



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宗胤が拳を握る。



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宗景は気にしない。



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「力です」



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「莫大な力」



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「戦も」



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「飢饉も」



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「災害も」



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「人の心も」



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「少しだけですが干渉できる」



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徳蔵は顔をしかめる。



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「貴様は何を言っている」



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宗景は微笑んだ。



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「真実です」



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「そして」



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「それこそが藤富家が犯してきた罪」



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宗胤は低く言う。



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「だから私は反対している」



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宗景は肩をすくめる。



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「反対したところで消えませんよ」



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二人の間に緊張が走る。



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徳蔵はようやく理解した。



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この二人は。



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同じ藤富家でありながら。



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全く違う方向を見ている。



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宗胤は封印維持派。



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宗景は利用派。



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どちらも正しいと思っている。



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だからこそ危険だった。



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その時。



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宗景が懐から紙を取り出した。



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古びた紙。



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折り畳まれている。



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「これは先月見つかりました」



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徳蔵は受け取る。



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そこには古い図が描かれていた。



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円。



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その周囲に八つの点。



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そして中央。



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黒く塗り潰された場所。



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宗景は指差した。



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「八つの守り石です」



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徳蔵の心臓が高鳴る。



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初めて見る図。



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守り石の配置。



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宗景は続ける。



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「しかし場所は書かれていない」



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「何故だ」



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「消されたからです」



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まただ。



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記録が消されている。



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誰かが。



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何世代にも渡って。



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真実を隠している。



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宗景は静かに言う。



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「ですが」



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「一つだけ分かっています」



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徳蔵は顔を上げる。



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宗景は笑った。



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「守り石は壊せる」



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客間の空気が凍る。



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宗胤の表情が変わる。



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徳蔵も息を呑む。



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宗景は続ける。



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「壊せば」



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「怨霊は解放される」



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「成仏できる」



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徳蔵の胸がざわつく。



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それは救済だ。



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苦しみ続ける魂を救う方法。



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だが。



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宗景はそこで笑った。



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少しだけ。



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不気味に。



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「ただし」



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「何が起きるかは誰も知りません」



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静寂。



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誰も喋らない。



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宗景は最後にこう言った。



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「だから私は見てみたい」



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「その先を」



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徳蔵は初めて理解する。



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この男は危険だ。



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善悪ではない。



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好奇心だ。



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真実を知りたい。



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そのためなら。



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何を失っても構わない。



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その夜。



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徳蔵は一つの事実を知る。



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藤富家の敵は外にいるのではない。



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藤富家そのものが。



---


二つに割れているのだと。



---


第二章 第六話


「利用派の男」終


第七話「異端の僧」へ続く。

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