第二話 忘れられた読者
昭和十一年。
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東京。
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朝。
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新聞社。
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しかし空気が妙だった。
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人がいる。
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机もある。
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紙もある。
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だが。
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「昨日の記事」が存在しない。
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朝倉は歩く。
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机を確認する。
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自分の机。
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そこには何もない。
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原稿も。
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メモも。
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写真も。
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全部消えていた。
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「……またか。」
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彼は拳を握る。
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その時。
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編集長が声をかける。
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「朝倉くん。」
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「昨日の件だが。」
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朝倉は顔を上げる。
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「はい。」
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編集長は不思議そうに首をかしげる。
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「君、昨日休みだっただろう?」
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朝倉は固まる。
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「……は?」
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編集長は笑う。
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「何を言ってるんだ。」
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「黒い雪の記事なんて、最初からない。」
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その言葉。
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朝倉の背中に冷たいものが走る。
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「……ふざけるな。」
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彼は机を叩く。
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「俺は書いた!」
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しかし。
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誰も反応しない。
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まるで。
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最初から存在しない人間のように。
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その夜。
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朝倉は一人で歩いていた。
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東京の街。
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人は多い。
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しかし。
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誰も新聞を持っていない。
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誰も記事を読んでいない。
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「記録されていない世界……」
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朝倉は呟く。
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その時だった。
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路地裏。
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黒い影。
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少女。
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白い着物。
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あの存在。
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蒼士の隣にいた少女。
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彼女が立っていた。
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朝倉は足を止める。
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「お前……」
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少女はゆっくり首を振る。
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「書いちゃだめ。」
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朝倉は眉をひそめる。
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「何の話だ。」
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少女は少し悲しそうに笑う。
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「書くほど。」
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「世界は壊れる。」
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朝倉は一歩踏み出す。
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「壊れているのは最初からだ。」
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少女は沈黙する。
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そして。
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静かに言った。
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「あなたはもう。」
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「一度“見てしまった人”。」
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朝倉は息をのむ。
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「見た?」
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少女は頷く。
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「第三記録庫を。」
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その瞬間。
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朝倉の頭に痛み。
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ズキッ。
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映像が流れる。
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黒い帳面。
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落ちる文字。
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消える原稿。
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そして。
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“主”。
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朝倉は膝をつく。
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「これは……記憶か?」
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少女は首を横に振る。
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「違う。」
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「まだ書かれていない記録。」
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朝倉は顔を上げる。
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「なら俺が書く。」
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少女の目が揺れる。
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「それが危ないの。」
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その時だった。
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空が歪む。
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路地の上。
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黒い文字が浮かぶ。
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『観測対象:朝倉誠司』
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少女の顔が強張る。
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「来る。」
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朝倉は空を見る。
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そこには。
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“ページ”のような裂け目。
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空そのものが。
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めくれていた。
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そこから。
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黒い雪が一粒。
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落ちる。
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朝倉の手のひらに触れた瞬間。
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記憶が消えかける。
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「……っ!!」
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少女が叫ぶ。
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「触らないで!」
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しかし遅い。
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朝倉の中から。
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一つの記憶が消える。
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何か大事なもの。
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だが思い出せない。
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少女は涙を浮かべる。
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「もう始まってる。」
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朝倉は立ち上がる。
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「何がだ。」
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少女は空を指す。
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「記録の修正。」
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その瞬間。
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空から“声”が響く。
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> 「未記録者を確認。」
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> 「再構築開始。」
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朝倉の体が揺れる。
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周囲の人々が。
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一斉に止まる。
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動かない。
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瞬きもしない。
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世界が。
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一瞬止まっている。
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少女が叫ぶ。
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「逃げて!」
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「これは“書き換え”!」
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朝倉は少女を見る。
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「お前は誰だ。」
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少女は一瞬黙る。
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そして小さく答える。
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「まだ。」
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「名前がない。」
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朝倉は理解する。
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名前のない存在。
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記録されていない者。
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その時。
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空の裂け目が開く。
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黒い文字が降りてくる。
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『削除対象:記録者』
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朝倉は笑う。
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「なら俺は。」
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「もっと書く。」
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その瞬間。
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少女が叫ぶ。
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「やめて!」
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しかし朝倉はタイプライターを取り出す。
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なぜか持っていた。
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打つ。
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カタ……
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一文字目。
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世界が揺れる。
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カタ……
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二文字目。
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空が歪む。
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カタ……
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三文字目。
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裂け目が広がる。
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少女が叫ぶ。
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「それ以上は……!」
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しかし朝倉は止めない。
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カタ……
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そして。
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四文字目を打った瞬間。
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世界が。
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一度“白”になる。
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そして次の瞬間。
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朝倉は気づく。
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路地裏には。
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誰もいない。
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少女も。
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黒い雪も。
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裂け目も。
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全部消えていた。
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ただ。
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タイプライターの紙だけが残る。
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そこには一行。
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「記録者はまだ存在していない」
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朝倉はそれを見つめる。
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「……またか。」
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しかし。
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ポケットの中。
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真之介の紙が熱い。
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そこに新しい文字。
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誰も書いていないはずの言葉。
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> 「次は蒼士が動く」
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朝倉は空を見上げる。
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第三記録庫は。
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まだ。
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開ききっていない。
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第三話「黒い通信」へ続く。




