第一話 消える記事
昭和十一年。
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東京。
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朝はまだ暗い。
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印刷所の煙が街に薄く漂っている。
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その一室。
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朝倉誠司は机に向かっていた。
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タイプライターの音。
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カタカタ……
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カタカタ……
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紙に文字が落ちていく。
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タイトル。
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「亀の瀬で発生した“黒い雪”の正体」
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朝倉は息を吐く。
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「これで……終わるはずだ。」
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そう呟いた瞬間だった。
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カタ……
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タイプライターが止まる。
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紙が白くなる。
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「……え?」
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もう一度打つ。
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黒い雪
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その文字が。
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ゆっくり消える。
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インクが乾く前に消える。
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朝倉は立ち上がる。
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机の紙束を掴む。
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すべて同じ。
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書いたはずの原稿が。
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すべて白紙になっていた。
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「……ふざけるな。」
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彼は外へ飛び出す。
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新聞社。
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編集室。
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誰も気づいていない。
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「黒い雪」の記事など最初から存在しないように。
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朝倉は机を叩く。
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「俺は書いたんだ!」
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しかし誰も振り向かない。
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その瞬間。
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ポケットの中の紙が熱を持つ。
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真之介の手記の一部。
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そこに文字が浮かぶ。
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> 「書くな」
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朝倉は固まる。
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「……誰だ。」
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誰もいない。
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だが“何か”が見ている。
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その夜。
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亀の瀬。
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朝倉は一人で山へ向かう。
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黒い雪の噂。
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消えた記事。
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藤富蒼士という男。
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すべてが繋がっている。
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山道。
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風が止まる。
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音が消える。
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そこに。
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“入口”があった。
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何もない空間。
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しかし。
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そこだけ“存在している違和感”。
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朝倉はカメラを構える。
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シャッターを切る。
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カシャッ。
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瞬間。
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フィルムが真っ黒になる。
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「……やっぱりな。」
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その時。
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地面が割れた。
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ゴゴゴ……
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裂け目。
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地下へ続く穴。
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朝倉は迷わない。
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降りる。
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光が消える。
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音が消える。
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時間が消える。
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落下。
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どれくらい落ちたか分からない。
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そして。
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着地。
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石の床。
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冷たい。
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目の前。
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巨大な空間。
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見上げても天井がない。
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壁一面。
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黒い帳面。
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無数。
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無限。
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そのすべてが微かに震えている。
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ポタ……
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ポタ……
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黒い涙が落ちている。
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朝倉は息をのむ。
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「……これが。」
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「第二記録庫……。」
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しかし直感が告げる。
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違う。
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ここはもっと深い。
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その時。
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背後で声。
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「遅い。」
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朝倉は振り向く。
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そこに立っていたのは。
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白髪の老人。
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いや。
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“人”ではない。
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輪郭が揺れている。
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「お前が……朝倉誠司か。」
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朝倉はカメラを向ける。
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しかし。
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レンズが映さない。
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「お前は誰だ。」
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存在は答える。
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「ここではまだ名はない。」
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「名を付ける前の存在だ。」
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朝倉は息をのむ。
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その時。
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空間が歪む。
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黒帳が一斉に開く。
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ページが勝手にめくられる。
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カタカタカタ……
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文字が浮かぶ。
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『観測開始』
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朝倉の足元に線が引かれる。
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境界。
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そこから先は“未確定”。
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声が響く。
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どこからでもない声。
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> 「これは何を書く?」
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朝倉は震える手で答える。
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「真実だ。」
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沈黙。
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次の瞬間。
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空間が“止まる”。
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黒帳のページが止まる。
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音が消える。
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そして。
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目の前に。
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“それ”が現れた。
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形はない。
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だが確かに“見られている”。
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朝倉は理解する。
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これが。
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記録庫の主。
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主はゆっくり言う。
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> 「真実はまだ書かれていない。」
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朝倉は叫ぶ。
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「なら俺が書く!」
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その瞬間。
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紙が燃える。
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いや。
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燃えているのではない。
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“存在が消えている”。
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朝倉の原稿が。
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世界から削除されていく。
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「……っ!!」
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朝倉は膝をつく。
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記憶だけが残る。
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書いたという記憶だけ。
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しかし文章はない。
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主は見下ろすように言う。
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> 「書くという行為は危険だ。」
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> 「世界はまだ準備できていない。」
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その時だった。
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ポケットの中の紙。
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真之介の断片。
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それが光る。
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主が反応する。
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一瞬。
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“迷い”が生まれる。
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朝倉はそれを見逃さない。
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「お前も……知ってるんだろ。」
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「書かれることの痛みを。」
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沈黙。
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主は何も言わない。
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ただ。
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空間が揺れる。
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そして。
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ゆっくりと消えていく。
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最後に。
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声だけが残る。
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> 「次は……藤富を連れて来い。」
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世界が戻る。
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朝倉は地上へ吐き出される。
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亀の瀬の山道。
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朝。
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何もなかったように。
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しかし。
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手の中には一枚の紙。
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そこには。
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誰かが書いた文字。
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たった一行。
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「第三記録庫はまだ開いていない」
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朝倉は空を見上げる。
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黒い雪は降っていない。
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しかし確かに。
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世界はもう書き換わっていた。
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第二話「忘れられた読者」へ続く。




