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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第十一章 呪われた時代

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第九話 記録庫の主

コツ……



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コツ……



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コツ……



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足音だけが響く。



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第二記録庫。



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巨大な地下空間。



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無数の黒帳。



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そのすべてが震えていた。



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老人は蒼士の前へ立つ。



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「下がれ。」



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蒼士は木札を握る。



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「この人は……。」



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老人は小さく首を振る。



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「人ではない。」



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闇の奥。



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ゆっくりと。



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黒い影が姿を現した。



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長い外套。



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黒い手袋。



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帽子を深くかぶり。



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顔は見えない。



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ただ。



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足元だけが見えた。



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歩くたびに。



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床へ黒い文字が浮かぶ。



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『記』



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『録』



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『名』



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『死』



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文字はすぐ消える。



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影は止まった。



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蒼士を見る。



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「藤富。」



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「久しいな。」



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その声は。



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老人にも。



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若者にも聞こえる。



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男とも。



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女とも分からない。



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不思議な声だった。



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蒼士は問い掛ける。



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「お前が……。」



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「記録庫の主か。」



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影は少し笑う。



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「人はそう呼ぶ。」



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「私は。」



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「記録を守る者。」



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老人が怒鳴る。



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「嘘をつくな!」



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「お前は!」



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「記録を喰らう怪異だ!」



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地下が震える。



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影は静かに老人を見る。



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「……。」



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「お前は。」



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「まだ私を怪異と呼ぶのか。」



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その瞬間。



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老人の体が揺らぐ。



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蒼士は目を見開く。



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老人の腕が。



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少しずつ透け始めていた。



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「どういうことだ!」



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老人は苦しそうに笑う。



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「私は……。」



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「もう。」



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「長くここに居すぎた。」



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「名前も。」



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「顔も。」



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「全部。」



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「記録庫へ食われた。」



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蒼士は息をのむ。



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影が一歩前へ出る。



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「ここへ来る者は。」



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「皆。」



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「最後は同じになる。」



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「忘れられ。」



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「名前を失い。」



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「記録だけになる。」



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蒼士は叫ぶ。



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「そんなもの!」



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「間違ってる!」



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影は首を傾げる。



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「では聞こう。」



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「人は。」



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「忘れられたら。」



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「本当に死ぬのか?」



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蒼士は答えられない。



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父の顔。



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もう思い出せない。



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それでも。



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父は生きた証を残している。



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影は静かに続ける。



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「黒帳は。」



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「忘れられた者を。」



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「残すために作られた。」



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「人間が。」



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「自分たちで。」



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「私を生んだ。」



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地下に沈黙が流れる。



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その言葉には。



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怒りも。



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悲しみもなかった。



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ただ。



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事実だけがあった。



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老人が膝をつく。



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「聞くな……。」



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「騙されるな……。」



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影は老人へ近付く。



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「まだ苦しいか。」



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「なら。」



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「眠れ。」



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影が指を伸ばす。



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老人の額へ触れた。



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次の瞬間。



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老人の体が。



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黒い紙片になって崩れ始める。



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「やめろ!!」



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蒼士が飛び出す。



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木札が光る。



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白い閃光。



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影は初めて後退した。



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「……真之介の護符。」



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影はその名を知っていた。



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「なるほど。」



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「まだ残っていたか。」



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蒼士は老人を抱き起こす。



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老人は笑っていた。



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「よかった……。」



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「まだ。」



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「効くんだな。」



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「聞け。」



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「藤富の若者。」



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老人は蒼士の耳元で囁く。



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「第二記録庫は。」



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「封印ではない。」



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「入口だ。」



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蒼士は目を見開く。



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「入口?」



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老人は最後の力で頷く。



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「もっと。」



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「深い場所がある。」



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「黒帳は。」



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「その扉を閉じる鍵にすぎん。」



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言葉が終わる。



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老人の体は。



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静かに黒い灰となった。



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風もない地下で。



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灰だけが舞う。



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蒼士は拳を握り締める。



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影はその様子を見つめる。



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「泣くな。」



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「記録は。」



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「終わっていない。」



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そして。



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影は蒼士へ一冊の黒帳を投げた。



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表紙には。



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『藤富 蒼士』



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まだ何も書かれていない。



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真っ白だった。



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影は静かに言う。



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「お前の物語も。」



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「ここから始まる。」



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その瞬間。



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第二記録庫全体に。



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鐘の音が鳴り響いた。



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ゴォォォン……



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ゴォォォン……



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影はゆっくり闇へ消えていく。



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最後に。



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一言だけ残した。



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「次は。」



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「記者を連れて来い。」



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蒼士はその意味を理解できなかった。



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しかし。



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一人だけ思い浮かぶ人物がいた。



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朝倉誠司。



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最終話「記録は未来へ」へ続く。

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