第八話 黒帳の涙
闇。
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蒼士は再び落ちていた。
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風を切る音。
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耳鳴り。
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体は宙へ投げ出されたまま。
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どこまでも。
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どこまでも落ちていく。
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やがて。
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ドサッ。
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背中に衝撃が走った。
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石畳。
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冷たい床だった。
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蒼士はゆっくりと起き上がる。
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辺りを見回す。
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巨大な地下空間。
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天井は見えない。
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湿った空気。
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水滴が一定の間隔で落ちている。
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ポタ……
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ポタ……
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壁一面に並ぶ棚。
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そこには。
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黒い帳面。
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無数の黒帳。
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蒼士は息をのむ。
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「これが……。」
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「第二記録庫……。」
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足音が響く。
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コツ……
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コツ……
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誰かが歩いている。
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蒼士は木札を握る。
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暗闇から。
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一人の老人が現れた。
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白髪。
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黒い和服。
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背筋は真っ直ぐ。
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その瞳だけが異様に若い。
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老人は蒼士を見る。
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「藤富の者か。」
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「はい。」
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「藤富蒼士です。」
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老人は静かに頷いた。
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「遅かったな。」
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「百年ほど。」
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蒼士は眉をひそめる。
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「百年?」
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老人は笑わない。
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「ここでは時間は意味を持たん。」
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「昨日来る者も。」
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「百年後に来る者も。」
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「同じ場所へ辿り着く。」
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蒼士は理解できなかった。
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「あなたは誰ですか。」
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老人は少しだけ考えた。
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そして。
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「名前は忘れた。」
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「もう。」
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「必要ない。」
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その一言が。
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蒼士の胸を締め付けた。
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まただ。
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名前。
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名前を失った者。
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老人は棚へ歩く。
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一冊の黒帳を取り出した。
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表紙には。
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『藤富真之介』
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蒼士は驚く。
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「真之介さんの……。」
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老人は静かに開く。
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ページは白紙。
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何も書かれていない。
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「どうして……。」
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老人は答える。
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「泣いたからだ。」
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「え?」
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その瞬間。
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本の中央から。
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一滴。
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黒い雫が落ちた。
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ポタ……
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床に染み込む。
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もう一滴。
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そして。
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また一滴。
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蒼士は目を見開く。
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「本が……。」
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「泣いている。」
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老人は小さく頷いた。
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「これを。」
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「黒帳の涙という。」
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地下空間全体に。
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静かな音が響く。
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ポタ……
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ポタ……
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ポタ……
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蒼士は周囲を見る。
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すべての黒帳。
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その全てから。
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黒い涙が流れていた。
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何百冊。
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いや。
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何千冊。
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すべて。
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泣いている。
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老人が呟く。
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「忘れられた者。」
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「記録された者。」
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「救われなかった者。」
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「その涙だ。」
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蒼士は声を失う。
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「黒帳は。」
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「呪いじゃないのか。」
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老人は首を横に振る。
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「違う。」
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「願いだ。」
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「誰かを忘れたくない。」
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「その願いが。」
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「人を縛る呪いへ変わった。」
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蒼士は真之介の黒帳を見る。
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その黒い涙が。
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自分の手へ落ちる。
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触れた瞬間。
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景色が変わる。
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蒼士の視界に。
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一人の青年。
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真之介だった。
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彼は誰かへ向かって叫んでいる。
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「封印しろ!」
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「黒帳を守れ!」
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「未来に託すんだ!」
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その映像は。
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一瞬で終わる。
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蒼士は膝をついた。
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「これは……。」
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老人が言う。
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「涙は。」
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「記録ではない。」
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「記憶そのものだ。」
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「だから。」
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「嘘をつかない。」
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その時。
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地下全体が揺れた。
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ゴゴゴ……
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棚が震える。
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黒帳が一斉に落ち始める。
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老人の表情が初めて変わる。
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「来たか……。」
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蒼士が振り向く。
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地下の最も奥。
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巨大な扉。
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ゆっくりと開き始めていた。
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扉の向こうは。
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闇。
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何も見えない。
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だが。
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足音だけが聞こえる。
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コツ……
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コツ……
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コツ……
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老人が低く呟く。
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「記録庫の主だ。」
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蒼士は息をのむ。
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「主……?」
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老人は護符を蒼士へ押し返す。
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「逃げろ。」
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「まだお前は。」
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「会ってはいけない。」
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しかし。
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足音は止まらない。
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そして。
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闇の中から。
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一つの声が響いた。
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「ようやく。」
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「藤富が来たか。」
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第九話「記録庫の主」へ続く。




