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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第十一章 呪われた時代

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第八話 黒帳の涙

闇。



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蒼士は再び落ちていた。



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風を切る音。



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耳鳴り。



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体は宙へ投げ出されたまま。



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どこまでも。



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どこまでも落ちていく。



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やがて。



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ドサッ。



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背中に衝撃が走った。



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石畳。



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冷たい床だった。



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蒼士はゆっくりと起き上がる。



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辺りを見回す。



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巨大な地下空間。



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天井は見えない。



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湿った空気。



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水滴が一定の間隔で落ちている。



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ポタ……



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ポタ……



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壁一面に並ぶ棚。



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そこには。



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黒い帳面。



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無数の黒帳。



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蒼士は息をのむ。



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「これが……。」



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「第二記録庫……。」



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足音が響く。



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コツ……



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コツ……



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誰かが歩いている。



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蒼士は木札を握る。



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暗闇から。



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一人の老人が現れた。



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白髪。



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黒い和服。



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背筋は真っ直ぐ。



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その瞳だけが異様に若い。



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老人は蒼士を見る。



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「藤富の者か。」



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「はい。」



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「藤富蒼士です。」



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老人は静かに頷いた。



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「遅かったな。」



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「百年ほど。」



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蒼士は眉をひそめる。



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「百年?」



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老人は笑わない。



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「ここでは時間は意味を持たん。」



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「昨日来る者も。」



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「百年後に来る者も。」



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「同じ場所へ辿り着く。」



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蒼士は理解できなかった。



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「あなたは誰ですか。」



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老人は少しだけ考えた。



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そして。



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「名前は忘れた。」



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「もう。」



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「必要ない。」



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その一言が。



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蒼士の胸を締め付けた。



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まただ。



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名前。



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名前を失った者。



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老人は棚へ歩く。



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一冊の黒帳を取り出した。



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表紙には。



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『藤富真之介』



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蒼士は驚く。



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「真之介さんの……。」



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老人は静かに開く。



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ページは白紙。



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何も書かれていない。



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「どうして……。」



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老人は答える。



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「泣いたからだ。」



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「え?」



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その瞬間。



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本の中央から。



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一滴。



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黒い雫が落ちた。



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ポタ……



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床に染み込む。



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もう一滴。



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そして。



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また一滴。



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蒼士は目を見開く。



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「本が……。」



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「泣いている。」



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老人は小さく頷いた。



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「これを。」



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「黒帳の涙という。」



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地下空間全体に。



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静かな音が響く。



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ポタ……



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ポタ……



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ポタ……



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蒼士は周囲を見る。



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すべての黒帳。



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その全てから。



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黒い涙が流れていた。



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何百冊。



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いや。



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何千冊。



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すべて。



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泣いている。



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老人が呟く。



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「忘れられた者。」



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「記録された者。」



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「救われなかった者。」



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「その涙だ。」



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蒼士は声を失う。



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「黒帳は。」



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「呪いじゃないのか。」



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老人は首を横に振る。



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「違う。」



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「願いだ。」



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「誰かを忘れたくない。」



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「その願いが。」



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「人を縛る呪いへ変わった。」



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蒼士は真之介の黒帳を見る。



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その黒い涙が。



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自分の手へ落ちる。



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触れた瞬間。



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景色が変わる。



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蒼士の視界に。



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一人の青年。



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真之介だった。



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彼は誰かへ向かって叫んでいる。



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「封印しろ!」



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「黒帳を守れ!」



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「未来に託すんだ!」



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その映像は。



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一瞬で終わる。



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蒼士は膝をついた。



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「これは……。」



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老人が言う。



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「涙は。」



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「記録ではない。」



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「記憶そのものだ。」



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「だから。」



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「嘘をつかない。」



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その時。



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地下全体が揺れた。



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ゴゴゴ……



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棚が震える。



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黒帳が一斉に落ち始める。



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老人の表情が初めて変わる。



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「来たか……。」



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蒼士が振り向く。



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地下の最も奥。



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巨大な扉。



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ゆっくりと開き始めていた。



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扉の向こうは。



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闇。



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何も見えない。



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だが。



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足音だけが聞こえる。



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コツ……



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コツ……



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コツ……



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老人が低く呟く。



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「記録庫の主だ。」



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蒼士は息をのむ。



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「主……?」



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老人は護符を蒼士へ押し返す。



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「逃げろ。」



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「まだお前は。」



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「会ってはいけない。」



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しかし。



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足音は止まらない。



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そして。



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闇の中から。



---


一つの声が響いた。



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「ようやく。」



---


「藤富が来たか。」



---


第九話「記録庫の主」へ続く。

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