第六話 記憶を喰う怪異
闇の中。
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蒼士は一歩ずつ進む。
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蔵の奥。
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床は冷たい石に変わっていた。
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木造のはずの藤富家の蔵。
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だが。
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途中から構造が変わっている。
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まるで。
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別の場所へ繋がっているように。
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蒼士は立ち止まる。
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暗闇の先に。
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微かな光。
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白い。
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揺れている。
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「……誰だ。」
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返事はない。
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代わりに。
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ザリ……
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何かが床を這う音。
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蒼士は木札を握る。
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祖母の護符が。
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熱を帯びている。
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まるで警告するように。
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その瞬間。
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光の中から“それ”が現れた。
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人の形。
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しかし。
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顔がない。
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いや。
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顔はあるが。
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ぼやけている。
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記憶が抜け落ちたように。
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輪郭だけの存在。
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「……記憶……。」
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かすれた声。
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蒼士は後ずさる。
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「お前は何だ。」
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それは答えない。
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ただ。
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ゆっくりと近づく。
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そして。
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手を伸ばした瞬間。
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蒼士の頭に激痛。
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ズキッ!!
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視界が揺れる。
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父の顔。
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一瞬だけ浮かぶ。
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しかし。
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すぐに消える。
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「……っ!」
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蒼士は膝をついた。
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怪異は動きを止める。
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まるで。
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食事を味わうように。
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ゆっくりと首を傾ける。
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その時。
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遠くから声。
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少女の声。
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「逃げて!!」
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白い影。
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再びあの少女が現れた。
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怪異の前に立つ。
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しかし。
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少女は震えている。
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「こいつは……」
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「記憶を食べる。」
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「思い出ごと……消すの。」
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蒼士は立ち上がる。
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「どうすれば倒せる!」
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少女は首を振る。
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「倒せない。」
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「これは……黒帳の失敗作。」
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「“記録されなかった記憶”が形になったもの。」
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蒼士の心臓が跳ねる。
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記録されなかった記憶。
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その瞬間。
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怪異が動く。
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蒼士へ手を伸ばす。
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少女が叫ぶ。
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「見ないで!」
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だが遅い。
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蒼士は目を合わせてしまう。
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その瞬間。
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世界が崩れる。
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音が消える。
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光が消える。
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蒼士は“思い出す”。
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しかしそれは記憶ではない。
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消えたはずの何かの断片。
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誰かの笑顔。
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誰かの名前。
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誰かの死。
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その全てが。
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一瞬だけ押し寄せる。
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そして。
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消える。
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蒼士は叫ぶ。
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「やめろ……!」
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木札が光る。
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強烈な光。
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怪異が一歩下がる。
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少女が蒼士を見る。
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「それ……!」
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「真之介の護符……!」
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怪異は初めて動きを止める。
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苦しむように。
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歪む。
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蒼士は理解する。
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「これは……封印用の光か。」
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少女が頷く。
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「でも長くはもたない!」
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怪異が再び迫る。
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その時だった。
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蒼士の足元。
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床に文字が浮かぶ。
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黒い文字。
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自然に滲み出る。
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> 『第二記録庫への入口』
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床が割れる。
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下へ。
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深い闇。
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怪異の動きが止まる。
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少女が叫ぶ。
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「今!」
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「飛び込んで!!」
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蒼士は迷わなかった。
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一歩。
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そして落ちる。
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暗闇へ。
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その瞬間。
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怪異の叫びが響く。
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「キエルナ……」
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「オモイダセ……」
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蒼士は落下する。
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下へ。
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下へ。
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終わりの見えない闇。
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そして。
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光が消える直前。
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彼は見た。
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巨大な空間。
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無数の黒い帳面。
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その中央に。
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扉。
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そしてその上に刻まれた文字。
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第二記録庫
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蒼士は落ちていく。
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そこへ向かって。
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まるで。
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呼ばれているかのように。
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第七話「朝倉誠司」へ続く。




