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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第十一章 呪われた時代

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第六話 記憶を喰う怪異

闇の中。



---


蒼士は一歩ずつ進む。



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蔵の奥。



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床は冷たい石に変わっていた。



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木造のはずの藤富家の蔵。



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だが。



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途中から構造が変わっている。



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まるで。



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別の場所へ繋がっているように。



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蒼士は立ち止まる。



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暗闇の先に。



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微かな光。



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白い。



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揺れている。



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「……誰だ。」



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返事はない。



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代わりに。



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ザリ……



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何かが床を這う音。



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蒼士は木札を握る。



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祖母の護符が。



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熱を帯びている。



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まるで警告するように。



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その瞬間。



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光の中から“それ”が現れた。



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人の形。



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しかし。



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顔がない。



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いや。



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顔はあるが。



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ぼやけている。



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記憶が抜け落ちたように。



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輪郭だけの存在。



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「……記憶……。」



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かすれた声。



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蒼士は後ずさる。



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「お前は何だ。」



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それは答えない。



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ただ。



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ゆっくりと近づく。



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そして。



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手を伸ばした瞬間。



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蒼士の頭に激痛。



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ズキッ!!



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視界が揺れる。



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父の顔。



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一瞬だけ浮かぶ。



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しかし。



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すぐに消える。



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「……っ!」



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蒼士は膝をついた。



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怪異は動きを止める。



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まるで。



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食事を味わうように。



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ゆっくりと首を傾ける。



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その時。



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遠くから声。



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少女の声。



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「逃げて!!」



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白い影。



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再びあの少女が現れた。



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怪異の前に立つ。



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しかし。



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少女は震えている。



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「こいつは……」



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「記憶を食べる。」



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「思い出ごと……消すの。」



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蒼士は立ち上がる。



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「どうすれば倒せる!」



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少女は首を振る。



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「倒せない。」



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「これは……黒帳の失敗作。」



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「“記録されなかった記憶”が形になったもの。」



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蒼士の心臓が跳ねる。



---


記録されなかった記憶。



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その瞬間。



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怪異が動く。



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蒼士へ手を伸ばす。



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少女が叫ぶ。



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「見ないで!」



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だが遅い。



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蒼士は目を合わせてしまう。



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その瞬間。



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世界が崩れる。



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音が消える。



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光が消える。



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蒼士は“思い出す”。



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しかしそれは記憶ではない。



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消えたはずの何かの断片。



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誰かの笑顔。



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誰かの名前。



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誰かの死。



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その全てが。



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一瞬だけ押し寄せる。



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そして。



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消える。



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蒼士は叫ぶ。



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「やめろ……!」



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木札が光る。



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強烈な光。



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怪異が一歩下がる。



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少女が蒼士を見る。



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「それ……!」



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「真之介の護符……!」



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怪異は初めて動きを止める。



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苦しむように。



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歪む。



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蒼士は理解する。



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「これは……封印用の光か。」



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少女が頷く。



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「でも長くはもたない!」



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怪異が再び迫る。



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その時だった。



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蒼士の足元。



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床に文字が浮かぶ。



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黒い文字。



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自然に滲み出る。



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> 『第二記録庫への入口』





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床が割れる。



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下へ。



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深い闇。



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怪異の動きが止まる。



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少女が叫ぶ。



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「今!」



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「飛び込んで!!」



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蒼士は迷わなかった。



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一歩。



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そして落ちる。



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暗闇へ。



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その瞬間。



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怪異の叫びが響く。



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「キエルナ……」



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「オモイダセ……」



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蒼士は落下する。



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下へ。



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下へ。



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終わりの見えない闇。



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そして。



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光が消える直前。



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彼は見た。



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巨大な空間。



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無数の黒い帳面。



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その中央に。



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扉。



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そしてその上に刻まれた文字。



---


第二記録庫



---


蒼士は落ちていく。



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そこへ向かって。



---


まるで。



---


呼ばれているかのように。



---


第七話「朝倉誠司」へ続く。

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