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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第十一章 呪われた時代

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第四話 真之介の手記

眩い光。



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祖母から渡された木札が。



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白く輝いていた。



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「うっ……!」



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蒼士は思わず目を閉じる。



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祠の中にいた白い装束の女は。



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苦しそうに後ずさる。



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「ぁ……。」



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「いや……。」



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黒い雪が渦を巻く。



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村人たちも。



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一歩。



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また一歩。



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蒼士から離れていく。



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その隙だった。



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白い少女が蒼士の手を掴む。



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「走って!」



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蒼士は少女に引かれるまま。



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祠を飛び出した。



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山道を駆ける。



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木々の間を抜ける。



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後ろから。



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無数の足音。



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ザッ……



---


ザッ……



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ザッ……



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村人たちが追ってくる。



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しかし。



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誰も声を出さない。



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ただ。



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黙って追い続ける。



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蒼士は息を切らせる。



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「君は……!」



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「誰なんだ!」



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少女は振り返らない。



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「今は話せない。」



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「急いで!」



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やがて。



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鳥居が見えた。



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少女は鳥居を飛び越える。



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蒼士も続く。



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その瞬間。



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追ってきた村人たちが。



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鳥居の前で止まった。



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一歩も外へ出られない。



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まるで。



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見えない壁があるようだった。



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蒼士は立ち止まり。



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振り返る。



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村人たちは。



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こちらを見つめたまま。



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ゆっくりと頭を下げた。



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そして。



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一人ずつ。



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黒い雪の中へ消えていった。



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静寂。



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風だけが吹く。



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蒼士はその場に座り込んだ。



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「助かった……。」



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少女も肩で息をしている。



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「ありがとう。」



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「助けてくれて。」



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少女は首を横に振る。



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「まだ。」



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「始まっただけ。」



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その言葉に。



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蒼士の胸がざわつく。



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少女は蒼士の持つ木札を見る。



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「その木札。」



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「真之介さんの。」



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蒼士は驚く。



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「真之介……?」



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少女は頷く。



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「あなたの。」



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「ご先祖様。」



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「知っているのか?」



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少女は少しだけ笑った。



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「知ってる。」



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「ずっと。」



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「待ってた。」



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「あなたが来るのを。」



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蒼士は問いかけようとした。



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しかし。



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少女の姿が少しずつ透け始める。



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「時間がない。」



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「蔵へ帰って。」



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「手記を読んで。」



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「全部。」



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「そこに書いてある。」



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少女の体は。



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黒い雪になって消えていく。



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最後に。



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小さな声だけが残った。



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「……お願い。」



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「私を。」



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「思い出して。」



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少女は消えた。



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蒼士だけが残る。



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夕暮れ。



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藤富家。



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蒼士は祖母にも何も話さず。



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蔵へ向かった。



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古い蔵。



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代々。



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藤富家が封印を守るための品を保管してきた場所。



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一番奥。



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昨日見つけた木箱。



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その中には。



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一冊の手記。



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表紙には。



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『藤富真之介 記録』



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蒼士は静かに開く。



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最初のページ。



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そこには。



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見覚えのある文字。



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力強く。



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そして乱れた筆跡。



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> 「もし、この手記を読んでいる者がいるなら。」





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> 「第一記録庫は崩壊した。」





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> 「私は封印に失敗した。」





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蒼士は息をのむ。



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ページをめくる。



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次のページ。



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そこには。



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地図。



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亀の瀬。



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第一記録庫。



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そして。



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赤い墨で。



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大きく丸が描かれていた。



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その場所には。



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たった四文字。



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『第二記録庫』



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蒼士の鼓動が速くなる。



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「第二……記録庫。」



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第一記録庫だけではなかった。



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まだ。



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どこかに。



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もう一つ。



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黒帳を封じた場所が存在する。



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その時。



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蔵の外から。



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コン……



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コン……



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コン……



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誰かが。



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蔵の扉を叩いていた。



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祖母ではない。



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夜の藤富家には。



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蒼士しかいないはずだった。



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音は止まらない。



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コン……



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コン……



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コン……



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蒼士は恐る恐る立ち上がる。



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扉へ近づく。



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手を掛ける。



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ゆっくりと開く。



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しかし。



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そこには。



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誰もいなかった。



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足元には。



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濡れた新聞が一部だけ置かれている。



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見出しには。



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「奈良県各地で記憶喪失者が急増」



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その新聞の余白に。



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黒い墨で。



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誰かが書き残していた。



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> 「第二記録庫へ来い。」





---


> 「待っている。」





---


第五話「黒い新聞」へ続く。

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