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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第十章「呪いの目覚め」

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第十話「呪いの戦端」

第一記録庫・最深部。



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ゆっくりと。



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巨大な石の扉が開いていく。



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ゴゴゴゴ……



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誰も息をすることを忘れていた。



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その扉の向こうには。



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光も闇もなかった。



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そこには。



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「何もない空間」



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だけが広がっていた。



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真之介は一歩踏み出そうとする。



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その瞬間。



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零が腕を掴む。



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「入るな。」



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「戻れなくなる。」



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神崎も顔色を変える。



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「あそこは現世じゃない。」



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「記録と現実の狭間だ。」



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その時。



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黒川がゆっくり歩き始めた。



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迷いはない。



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真っ直ぐ。



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何もない空間へ向かう。



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真之介が叫ぶ。



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「黒川!」



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黒川は振り返らない。



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「私は。」



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「ここまで来るために百年を費やした。」



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「もう止まれない。」



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そして。



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第二黒帳を抱き締める。



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「これで。」



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「悲しみは終わる。」



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一歩。



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また一歩。



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空間へ足を踏み入れる。



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その瞬間だった。



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ズブリ。



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黒い腕。



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闇の中から現れた無数の腕が。



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黒川の体を貫いた。



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「……え?」



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黒川は自分の胸を見る。



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黒い血が流れる。



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第二黒帳が落ちる。



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闇の中から声。



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「役目は終わった。」



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黒川は震える。



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「違う……。」



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「私は。」



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「世界を救うはず……。」



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返事はない。



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腕は黒川をゆっくり闇へ引きずる。



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「助け……。」



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真之介は駆け出す。



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しかし。



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届かない。



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黒川は最後に真之介を見た。



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「止めてくれ。」



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「私の間違いを。」



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そして。



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黒川は闇へ消えた。



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静寂。



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第二黒帳だけが残る。



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真琴が拾い上げる。



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しかし。



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ページが勝手に開く。



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最後のページ。



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そこには。



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まだ何も書かれていない。



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ただ一行だけ。



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> 『最後の記録者を待つ』





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その瞬間。



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真之介の右腕。



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『記』



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その文字が。



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二文字になった。



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『記録』



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激痛。



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真之介が膝をつく。



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咲が抱き支える。



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「真之介!」



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真之介は苦しそうに笑う。



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「まだ……。」



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「終われない。」



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その時。



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第一記録庫全体が揺れ始める。



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ゴゴゴゴ……



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壁に亀裂。



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天井が崩れ始める。



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零が叫ぶ。



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「崩壊する!」



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「全員、脱出しろ!」



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一行は出口へ走る。



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その背後で。



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巨大な黒い樹が完全に崩れ落ちた。



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無数の木札が空へ舞う。



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それは。



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黒い雪のように。



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亀の瀬一帯へ降り注いだ。



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翌朝。



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新聞各紙は奇妙な事件を報じる。



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奈良で集団失踪。


大阪で正体不明の怪異を目撃。


京都で「死者が歩いていた」という証言。


東京で原因不明の記憶喪失。




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誰も知らない。



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昨夜。



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二百年続いた封印が。



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完全に解かれたことを。



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そして。



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遠く離れた山奥。



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朽ちた古い神社。



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賽銭箱の前に。



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一人の老人が立っていた。



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その老人は。



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黒い木札を一枚拾う。



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静かに笑う。



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「ようやく。」



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「始まった。」



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老人の首には。



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見たことのない御守り。



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そこには。



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『黄泉津講』



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と書かれていた。



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老人は振り返る。



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その後ろには。



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黒い装束をまとった男女が十数人。



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誰も口を開かない。



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老人だけが静かに言う。



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「呪いは目覚めた。」



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「次は。」



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「我らの時代だ。」



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暗闇の中。



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無数の提灯に火が灯る。



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その光だけが。



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不気味に揺れていた。



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第十章「呪いの目覚め」 完



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第十一章


「呪われた時代」


舞台:1928年(昭和3年)


封印が解かれたことで、日本各地に怪異が出現し始めます。一方、新たな敵組織「黄泉津講」が本格的に動き出し、呪いを利用して国そのものを支配しようと暗躍します。真之介たちは全国へ広がる怪異を追うことになり、物語はさらに大きなスケールへと進んでいきます。

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