第八話「共闘」
第一記録庫・最深部。
---
静寂。
---
誰も動けなかった。
---
真之介の右腕。
---
黒い文字。
---
『記』
---
その一文字だけが。
---
ゆっくりと脈打っていた。
---
ドクン。
---
ドクン。
---
心臓と同じ速さで。
---
零が真之介の腕を掴む。
---
「見せろ。」
---
真之介は黙って右腕を差し出す。
---
零は険しい表情になる。
---
「最悪だ……。」
---
神崎が尋ねる。
---
「何が起きている?」
---
零は目を閉じた。
---
「これは"記名の呪い"だ。」
---
「名前を書き終えられた者は。」
---
「人ではなくなる。」
---
真之介が息をのむ。
---
「俺の名前が……?」
---
零は静かに頷く。
---
「少しずつ。」
---
「お前という存在が。」
---
「黒帳へ記録されている。」
---
---
その時だった。
---
闇の奥から。
---
何百もの足音。
---
カツ……
---
カツ……
---
カツ……
---
壁という壁から。
---
人影が現れる。
---
男。
---
女。
---
老人。
---
子ども。
---
全員。
---
顔がない。
---
そして胸には。
---
それぞれ黒い文字。
---
『未記録』
---
真琴が震える。
---
「こんな数……。」
---
神崎は札を構える。
---
「囲まれた。」
---
第九が静かに言う。
---
「彼らは。」
---
「名前を奪われた人々。」
---
「もう誰にも思い出されない。」
---
「だから。」
---
「新しい名前を探している。」
---
---
一体が真之介へ歩く。
---
「その名前……。」
---
「ください。」
---
さらに一体。
---
「私にください。」
---
また一体。
---
「私になって。」
---
何百もの声が重なる。
---
「名前をください。」
---
「名前をください。」
---
「名前をください。」
---
咲は耳を塞ぐ。
---
「やめて!」
---
---
怪異たちが一斉に襲いかかる。
---
真之介が刀を振るう。
---
しかし。
---
斬っても。
---
すぐに元へ戻る。
---
綾乃も応戦する。
---
だが数が多すぎる。
---
神崎が叫ぶ。
---
「普通の封印じゃ止まらない!」
---
---
その瞬間。
---
零が黒い刀を抜いた。
---
「なら。」
---
「藤富家の禁術を使う。」
---
真之介が驚く。
---
「禁術?」
---
零は苦笑した。
---
「二度と使わないと決めていた。」
---
「だが。」
---
「今は選んでいられない。」
---
零は刀を地面へ突き立てる。
---
自らの左手を切る。
---
血が刀身を伝う。
---
その血が。
---
床に巨大な陣を描いた。
---
『忘却封陣』
---
真琴が目を見開く。
---
「まさか!」
---
「その術は!」
---
零が叫ぶ。
---
「全員!」
---
「陣の中へ!」
---
真之介たちは飛び込む。
---
怪異も追ってくる。
---
その瞬間。
---
零は印を結んだ。
---
「消えろ!」
---
轟音。
---
白い光が爆発する。
---
怪異たちは。
---
次々と霧になり。
---
木札へ戻っていく。
---
しかし。
---
光が消えた時。
---
零は片膝をついていた。
---
大量の血。
---
咲が駆け寄る。
---
「零さん!」
---
零は笑う。
---
「代償だ。」
---
「この術は。」
---
「術者の記憶を削る。」
---
真之介は愕然とする。
---
「何を失った?」
---
零は考える。
---
しかし。
---
答えられない。
---
「……。」
---
「思い出せない。」
---
「何を忘れたのかも。」
---
沈黙。
---
その時。
---
黒川は静かに笑った。
---
「やはり使ったか。」
---
第二黒帳を開く。
---
新しいページ。
---
そこへ文字を書く。
---
『藤富零 記憶消失』
---
その瞬間。
---
零の瞳が揺れる。
---
真之介を見る。
---
「君は……。」
---
「誰だった?」
---
全員が凍りつく。
---
黒川は満足そうに本を閉じる。
---
「これが。」
---
「第二黒帳。」
---
「記録を書き換える力だ。」
---
そして。
---
闇の奥。
---
読めない名前の存在が。
---
静かに笑っていた。
---
第十章 第八話
「共闘」
終
---
次回 第九話「黒川の野望」 では、黒川の過去と思想、そして彼が「黒幕」に従うようになった理由が明らかになります。同時に、零が失った記憶が仲間たちの運命を大きく揺るがしていきます。




