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亀の瀬異聞録  作者: こうた
第十章「呪いの目覚め」

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第八話「共闘」

第一記録庫・最深部。



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静寂。



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誰も動けなかった。



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真之介の右腕。



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黒い文字。



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『記』



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その一文字だけが。



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ゆっくりと脈打っていた。



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ドクン。



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ドクン。



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心臓と同じ速さで。



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零が真之介の腕を掴む。



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「見せろ。」



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真之介は黙って右腕を差し出す。



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零は険しい表情になる。



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「最悪だ……。」



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神崎が尋ねる。



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「何が起きている?」



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零は目を閉じた。



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「これは"記名の呪い"だ。」



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「名前を書き終えられた者は。」



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「人ではなくなる。」



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真之介が息をのむ。



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「俺の名前が……?」



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零は静かに頷く。



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「少しずつ。」



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「お前という存在が。」



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「黒帳へ記録されている。」



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その時だった。



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闇の奥から。



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何百もの足音。



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カツ……



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カツ……



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カツ……



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壁という壁から。



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人影が現れる。



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男。



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女。



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老人。



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子ども。



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全員。



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顔がない。



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そして胸には。



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それぞれ黒い文字。



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『未記録』



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真琴が震える。



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「こんな数……。」



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神崎は札を構える。



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「囲まれた。」



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第九が静かに言う。



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「彼らは。」



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「名前を奪われた人々。」



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「もう誰にも思い出されない。」



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「だから。」



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「新しい名前を探している。」



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一体が真之介へ歩く。



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「その名前……。」



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「ください。」



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さらに一体。



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「私にください。」



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また一体。



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「私になって。」



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何百もの声が重なる。



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「名前をください。」



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「名前をください。」



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「名前をください。」



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咲は耳を塞ぐ。



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「やめて!」



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怪異たちが一斉に襲いかかる。



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真之介が刀を振るう。



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しかし。



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斬っても。



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すぐに元へ戻る。



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綾乃も応戦する。



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だが数が多すぎる。



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神崎が叫ぶ。



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「普通の封印じゃ止まらない!」



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その瞬間。



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零が黒い刀を抜いた。



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「なら。」



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「藤富家の禁術を使う。」



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真之介が驚く。



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「禁術?」



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零は苦笑した。



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「二度と使わないと決めていた。」



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「だが。」



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「今は選んでいられない。」



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零は刀を地面へ突き立てる。



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自らの左手を切る。



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血が刀身を伝う。



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その血が。



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床に巨大な陣を描いた。



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『忘却封陣』



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真琴が目を見開く。



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「まさか!」



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「その術は!」



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零が叫ぶ。



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「全員!」



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「陣の中へ!」



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真之介たちは飛び込む。



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怪異も追ってくる。



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その瞬間。



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零は印を結んだ。



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「消えろ!」



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轟音。



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白い光が爆発する。



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怪異たちは。



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次々と霧になり。



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木札へ戻っていく。



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しかし。



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光が消えた時。



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零は片膝をついていた。



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大量の血。



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咲が駆け寄る。



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「零さん!」



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零は笑う。



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「代償だ。」



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「この術は。」



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「術者の記憶を削る。」



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真之介は愕然とする。



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「何を失った?」



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零は考える。



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しかし。



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答えられない。



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「……。」



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「思い出せない。」



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「何を忘れたのかも。」



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沈黙。



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その時。



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黒川は静かに笑った。



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「やはり使ったか。」



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第二黒帳を開く。



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新しいページ。



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そこへ文字を書く。



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『藤富零 記憶消失』



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その瞬間。



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零の瞳が揺れる。



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真之介を見る。



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「君は……。」



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「誰だった?」



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全員が凍りつく。



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黒川は満足そうに本を閉じる。



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「これが。」



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「第二黒帳。」



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「記録を書き換える力だ。」



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そして。



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闇の奥。



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読めない名前の存在が。



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静かに笑っていた。



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第十章 第八話


「共闘」




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次回 第九話「黒川の野望」 では、黒川の過去と思想、そして彼が「黒幕」に従うようになった理由が明らかになります。同時に、零が失った記憶が仲間たちの運命を大きく揺るがしていきます。

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