(8)大学受験
私も山屋も、大学進学を希望していた。
私は理系、山屋は文系で、それぞれの高校で希望コース別のクラスに所属していた。
国公立大学入試は、共通一次試験と当時呼ばれていた主要五科目の試験が課され、試験課目が多くて勉強の手が回らないので、私も山屋も試験科目が少ない私立大学を志望していた。
高校受験のときと同様、二人とも受験マニアよろしく、大学と学部の入試難易度については詳しかった。
「私立文系では早稲田の政経学部が最難関かな」
「慶応の経済学部も引けをとらないんじゃない?」
「オレは早稲田の政経がいい。マスコミ関係は早稲田の政経出身者が多いらしいし」
「山屋はマスコミ希望か?」
「まだそうと決めたわけじゃないけど」
「早稲田の政経は難関だぞ。法学部や商学部、第一文学部はどう思う?」
「うーん、政経と比べるとちょっと見劣りがするよね」
「オレは理系だから、受験できる学部が少ないしな」
「純ちゃんは、早稲田と慶応の理工学部だったらどっちがいい?」
「慶応かな。昔は早稲田の方が好きだったけど、慶応の方がおしゃれじゃない?」
「でも、慶応の理工は日吉キャンパスだからね。港区の三田じゃないよ」
「まあ、そうだけど。早慶の理工学部は、物理が試験科目にあるんだよな。オレ、物理がぜんぜん駄目だから、たぶん早慶は受けないと思う」
高校受験のときと変わらず、二人で恥ずかしげもなく最難関私立の品定めをし、おまけに早稲田よりも慶応の方がおしゃれだからいいなどと抜かす始末であった。到底そのレベルに達していない者同士の上から目線の会話は、今から思えば恥ずかしい。
受験参考書や問題集についても詳しかった。また、合格体験記という本も売られていて、そういう本もよく読んだ。
「英語はでる単をしっかり覚えないと」
「でる熟も覚えた方がいいよ」
「大事なところはね。でる熟を全部覚えるのは大変だから」
「英標と英文解釈教室は長文読解のバイブルだって」
「そうだな。それもやらないとな」
「日本史は、山川の教科書さえしっかり頭に入れておけば早慶も大丈夫なんだって」
「日本史は参考書は使わなくて良いの?」
「必要ないらしい。その代わり、山川の教科書は囲み記事のような細かい箇所も含めてきちんと覚えておかなきゃ駄目らしい。こういうところからけっこう出題されるみたいなんだ」
高三になったある日、二人で予備校主催の全国模試を受けに行ったことがある。
ある大学の教室で受けたのだが、一科目めの英語の試験が終了すると、山屋はそのまま帰ってしまった。
私は彼を引き止めたが、山屋は、
「できばえが悪かった」
と言い、そのあとの国語と日本史の試験も自信がないとのことで、結局断念した。
私は山屋の気持ちは理解できたが、厳しい現実を知ることが大事だと思い、一応最後まで受験した。
後日、惨憺たる試験結果を見てショックを受けた。お互い、実力不足、勉強不足は明白だった。
高校受験のときの二の舞であった。
結局、肝心な受験勉強に注力せず、大学の難易度に詳しくなったり、合格体験記を熟読して参考書や問題集に詳しくなったりして、あたかも受験対応をした気分になって安堵していたに過ぎなかった。
高校三年生の冬、私と山屋は大学受験に臨んだ。
だが、二人とも現役時代は受験した大学すべて不合格であった。
お互い、大学受験の厚い壁に完膚なきまでに跳ね返されてしまったが、当然の結果だったと言えた。




