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女神という名の中間管理職が限界らしいので、代わりに俺が仕事を引き継ぐことになりました。~届かなかった想いの配送記録~  作者: はやかわ


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四通目 その音が繋ぐもの

 [Log #1432_04] World Observation Start

 World ID : 1432

 Correction Rate : 0.00008%

 Status : Stable

 — System Note —

 その想いは届いた。

 たとえどんな形になったとしても。


 §


 朝、身支度を済ませ食堂へ降りていく。

 まぁ身支度といっても服を着替えるくらいだが。


 食堂でマリアベルと落ち合い、共に朝食を済ませて宿を後にする。

 このあとは買い出しと、ギルドにちょっとした用事がある。


「ふわぁ……あ」


 ――悠くん、だらしなーい。

 

 街を歩きながらあくびをする。

 こっちにきてから寝る時間は早くなったと思うが、未だに早寝早起きの習慣は身につかない。


「あなたまた夜更かししたの? 全く……旅は体力使うんだから、早く寝なさいよ」


「いや、わかってはいるんですけど……長年の習慣というか……」


「随分乱れた生活をしてたみたいね? そんなんじゃ修道院でやっていけないわよ?」


「え、俺って修道院送りなんです……?」


 それは本当にやっていける気がしない。


「冗談よ」


 あからさまに安堵の息を吐く。


「あなたのことは、教皇様に判断してもらうわ」


「……教皇」


 そう言われてイメージするのは、白の法衣を纏った威厳のある老人。


「どういう判断を下すかはわからないけれど……ま、悪いことにはならないと思うわよ?」


 彼女がそういうなら一先ず安心しておこう。


「それよりあなた」


 そう言いながら彼女は頭を指さす。


「寝癖、すごいわよ?」


「へ?」


 慌てて手で抑える。


 ――悠くんかわいいー!


 この女神(ひと)は放っておくとして。


「なんで早く言ってくれないんですか!?」


「面白くて、つい」


 いや、部屋で直してこなかった俺も悪いけど。


「まぁ、そんなに見られてたわけでもないし、気にしなくていいんじゃないかしら? ちゃんと見たのは私くらいよ」


「……余計恥ずかしいですって」


 まぁ……彼女が楽しそうに笑ってるからいいか。

 そんな風に思ってしまった。


 §


「そういえば」


 先程のやり取りで気になったことが一つ。


「教皇様って、どんな方なんです?」


 あっちの世界の教皇様を勝手にイメージしているが、実際どうなんだろう。


「どんな方……そうね、法に厳格で自分にも他人にもとても厳しい方よ」


 つまり、彼女のような人ということだろうか。

 ……お腹が痛くなってきた。


 ――結構だらけてるところもあるよ?


「けれど、とても暖かくて尊敬できる人。 私は、あの人のようになりたい」


 そういう彼女の表情(かお)は、とても柔らかくて。

 見惚れてしまったのをごまかすように、慌てて言葉を探す。


「レ、レーヴェ、さんも十分厳しいと思いますけど」


「……そう?」


「自分にも、他人にも」


 そういうと、彼女は視線を落とす。


「まだまだよ、私は」


 その言葉は小さかったけど、強い意志を感じさせる。


「私はあの人に、追いつきたい」


 ――随分、お熱だねぇ。


 茶化すんじゃないよ。


「それより」


 女神に心の中でツッコミをいれていると不意に彼女が口を開く。


「あなた、私を呼ぶ時たまに不自然になるわよね?」


 そんなことはない……とは言えない。


「そ、そんなことはない……ですよ?」


「あるわよ。 そんな不自然にレーヴェさんなんて呼ばれるくらいなら、呼び捨てされた方がマシだわ」


「……善処、します」


 善処しなくても呼び捨てしそうではある。

 女神がけらけら笑ってるのが煩わしかった。


 ◇


 全く、この男は手が掛かるにも程がある。

 冗談とは言ったけれど、本当に修道院に入れてやろうか。

 そうしたら、少しは生活習慣もマシになるんじゃないだろうか。

 それよりも今はもっと気になることがある。


「あなた、私を呼ぶ時たまに不自然になるわよね?」


 呼び捨てるなら、呼び捨ててくれた方がこちらもいい。

 無理に敬称をつけるのは一体なんなんだ。

 まるで一線引かれているようで、気に入らない。

 ずっと気になってたから、呼び捨てろとはっきり言ってやった。

 さて、どんな反応をするのやら。


「……善処、します」


 全く、何を善処するのやら。


 §


 このあとはギルドへ聴き込みにいくことになっている。

 というのも、この街に来る途中に冒険者の青年から小包を預かったからだ。


 しかし、今思い返しても怪しいことだらけの青年だった――。




「あの、ルッキアの街へ行くなら……これを届けてもらえませんか」


 その突然の声に、悲鳴を上げなかった私を誰か褒めて欲しい。

 ……恐る恐る、振り向く。

 そこには、いつの間にか見知らぬ青年が立っていた。


 冒険者だろうか……。

 擦り切れた外套を羽織り、簡素な皮鎧にショートソードを身につけている。

 顔は……薄暗いせいかよく見えないが、やたら青白い肌だけは覚えている。


 しかし、この男は何処から来た?

 

 声を掛けられるまで気配の欠片も感じなかった。

 

 ……背筋を、冷たい汗が伝う。

 

 薄ら寒いものを感じ、差し出されている小包を見ると、その小包は冒険者を識別するためのタグで括られていた。


 こんなもの、受け取るべきではない。


 私の直感がそう告げる。

 第一、この青年は怪しすぎる。

 ここは森の奥深く、その割に軽装すぎるのだ。

 乾いた喉が張り付く。


「あー、えっと……」


 断るための文言を考える。


「わかりました。どちらまで?」


 そんな私の横で、安請け合いをする馬鹿がいた。

 

 悠だ。


「ちょっと!何勝手に引き受けてんのよ!」


「いやでも、届けるのは俺の仕事だし」


「だからって私に何の相談もないのはおかしいでしょう!?」


「けど、ルッキアの街はこのあといくでしょう?物のついでじゃないですか」


 あぁ、もう!この男はいつも勝手だ!

 私の気持ちも知らずに安請け合いばっかして!


 そうやって、言い合いをしている間に悠は小包を受け取っていたらしい。

 

 ……男は、いつの間にか居なくなっていた。


 足音も、気配も残さずに。

 小包を括った識別タグが、風もないのに揺れていた。



 

 ――今思い返しても、受け取るべきではなかった。

 結局届け先を告げる前に消えてしまったから、届け先は分からずじまいだし……。

 可能なのであれば捨ててしまいたいが、捨てたら捨てたで呪われそうなのが大変困る。

 

 なので仕方なく、本当に仕方なくギルドへ来ている。


「あんたが引き受けたんだから、あんたが責任持ちなさいよ」


 まぁ結局こいつの起こした問題は私の責任になるのだが。


「わかってますって」


 そう言いながら受付へ向かう。


「本日はどういったご用件でしょうか?」


「これの持ち主について知りたくて」


 そう言って小包ごと識別タグを差し出す。


「これを、どちらで?」


「バキアからここに来る途中、森の中で」


「少々お待ちください」


 そう言って奥から帳簿を持ってくる。


「……確かにこのタグの持ち主……ダリルさんは三日前、その森での討伐依頼を受けていますね」


 三日前?

 

 あんな軽装で、三日も森にいられるはずがない。

 あの男はダリルではないのか……?


「他にパーティメンバーはいなかったの?」


 つい口を出してしまう。


「同ランクの魔法士とパーティを組んでいたようです」


 ……それらしい人影は見当たらなかった。

 あの男も、魔法士という出で立ちではない。


「そのパーティメンバーは?」


「まだ戻ってきていませんね……」


 つまり、討伐依頼に失敗して消息を絶ったということ……?

 

 ……いや、そんな話でもなさそうだ。

 先程から私を警戒する視線と、下卑た目で見てくる輩がいる。


「そう、わかったわ。ありがとう」


 悠はまだ何か聞きたそうにしていた。

 

 けれど、この受付嬢よりもっと詳しく話を聞けそうな人物から話を聞こうではないか。


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