第47話 彼女は誘われる③
残金が心もとない私は、冒険者ギルドを選択しました。
昨日現物を持っていなかったので引き受けられなかったアイテム依頼で、現金を手に入れるために。
マンドラコラのカケラ10個とマンドラコラの根5個を提出し、無事報酬4250ギラーをゲット。
ふう。危なかった。
これで安心して行動出来ますね。
次の行き先は<青い鳥>です。ナマモノ売って、お弁当買わなきゃいけませんし。
店内に入ってみるとグレーテルさんの姿はなく、カウンター内にはムキムキお兄さんの姿が。
もしかして、今日も錬金術で何か作っているのでしょうか?
そんなことを考えつつ、昨日手に入れたゴートの肉を70ゴートで売りさばき、お弁当を購入。収支はプラス50ギラーです。
取引を終え、購入したものを背負い袋(大)にしまうべく、カウンターに置いて紐を緩めた瞬間――ズン! と、足下から軽い震動が。
な~んかデジャヴ。
「――にゅああああ!」
昨日とは違い、爆発音の代わりにグレーテルさんの悲鳴(奇声?)が響き、どたどたとせわしない足音が近づいてきます。
店番中のムキムキお兄さんが、顔を手で覆って大きく肩を落とし、肺の空気を全て絞り出したような深い溜め息を吐いた、次の瞬間。
蝶番が壊れそうな勢いで奥に続くドアが開き、ヨレヨレの格好のグレ-テルさん(半泣き)が飛び出してきました。
「兄さん! 手伝ってぇ!!」
「……今度は何があった?」
「モンスター召喚しちゃったー!!」
はい?
「このバカ!! 店にくんなよ! お客様がいるだろうが!」
「だって! 私ひとりじゃ無理だもん!!」
額に大きな青筋を浮かべるマッチョ兄に、グレーテルさんが涙混じりの声で訴えた刹那。
開け放たれたままのドアの向こうから、ウゾウゾと丸みを帯びた影が侵入してきました。
侵入生物の見た目は青虫――ただし、巨大化したと前置きが付きます。
だいたい体長は50センチ前後でしょうか?
それが1匹ではなく、続々とドアの奥から湧き出るように店内に侵入してきます。軽く10匹は超えているでしょう。
体をくの字に折り曲げては伸ばし、折り曲げては伸ばし――と、いう実にのったりしている移動方法なのですが、巨大青虫の通った後の床や壁に、ぬるぬるとしてそうな液体と思しき跡が。
うわぁ、キモい。
グレーテルさんが手に負えないと、店番中の兄という味方がいる店内に逃げてきた理由は分からなくもありません。
戦う
傍観する
店外に逃亡する
ふっと、選択肢が浮かび上がってきました。
どれを選んだところで、ルーシェリカさんの不利にはならないでしょう。これはグレーテルさんの引き起こした過失なのですから。
……うーむ。
ここで『戦う』以外を選んだ場合、しばらく<青い鳥>って休業になりそうな予感が。
グレーテルさんは魔法が使えるはずですが、逃げて来たってことはそんなにレベルが高くない、または広範囲有効な魔法が使えないってことでしょう。
お兄さんは見るからに近接攻撃型っぽいですし、一気に叩き潰すってことは無理っぽい。
撃退に時間がかかればかかるほど、店内に被害が及ぼされそう。
その場合、他の店に行けるようになるのかもしれませんが、ルーシェリカさんがこの店を選んで通っているのです。多分、他の店だと商品の質や品ぞろえが落ちたりするんでしょうね。
ここは、やっぱり『戦う』です!
『一時的に、グレーテルとニールがPTメンバーに入ります』
おお。
グレーテルさんと、ニールさんというらしいお兄さんがPTに?!
あ。
そうか。
あの2人からしてみると、ルーシェリカさんは巻き込まれた被害者ですから、スルー出来ないわけです。むしろ、風評被害を抑えるには肉の盾になってでも庇わなきゃいけない立場。
アレンさんみたいに、戦っているところをのんびり見ているだけってことは出来ないでしょう。
納得している私の目の前に、すっと兄妹のステータスが浮かび上がります。
グレーテル・リーズ(19)
レベル3
HP 25/25
MP 102/102
称号 万屋<青い鳥>店員
錬金術師
状態・健康
属性・水
所持金 なし
戦闘スキル 水魔法C
魔力共鳴A(MAX)
錬金術B
高速詠唱C
範囲攻撃C
緊急脱出S(MAX)
見切りB
短剣D
一般スキル 商人A
錬金術師B
針子A
鑑定A
目利きA
縫製A
調合B
アイテム知識A
錬金術知識B
スキルポイント 残り0P
装備 鋼鉄のナイフ+1
(攻撃力25%UP)
作業着+1
(防御力25%UP)
革の手袋+1
(防御力25%UP)
眼鏡+1
(魔法攻撃力25%UP)
ブーツ+1
(防御力25%UP)
持ち物 なし
ニール・リーズ(24)
レベル5
HP 186/186
MP ――
称号 冒険者ギルド所属鍛冶師(休職中)
万屋<青い鳥>店員
状態・病(小康)
属性・火
所持金 なし
戦闘スキル 格闘A
爪B
先制攻撃B
連続攻撃B
カウンターC
頑強B
剛腕C
緊急離脱D
一般スキル 鍛冶師B
商人C
鍛冶B
採取C
鑑定C(鉱物、武器防具のみB)
目利きC(鉱物、武器防具のみB)
鉱物知識B
スキルポイント 残り0P
装備 鋼鉄のナックル+1
(攻撃力25%UP)
布の服
エプロン
鉄板入りブーツ+1
(攻撃力25%UP)
所持品 なし
おや?
創造神からサブキャラ扱いされているはずのニールさんの方が、レベル的に強いぞ?
一方、グレーテルさんが近接まったくダメっぽいステータス。
もしかするとニールさん、冒険者ギルドで普通に仲間として雇える人材なのかもしれません。初期ロゼ(騎士見習い)と同レベルって。
まあ、状態が病=休養中のようですから、実際雇えるかどうか分かりませんが。
ていうか、グレーテルさんにとっても気になるスキルがありますよ。つんつん。
『魔力共鳴。
六大神より加護を受けたもののうち、10人に1人の確率で発生する先天性の体質スキル。スキルを所持しないものよりも魔法攻撃力がスキルランクに応じて加算され、強力である。
ただし魔法を行使したり、一定以上の数値を超す同属性の物質に接触することで共鳴現象を引き起こし、魔力が無作為に暴発する。
このスキルレベルが高ければ高いほど、魔法攻撃力・日常的に魔力が暴発する確率が上昇する。
錬金術のスキルランクを上げることで制御を覚え、暴発する確率を下げることが可能』
グレーテルさんの錬金術師としてのスキルランクが結構高い割に、2日続けて失敗する原因のいったんって、コレもありそうですよね。
「――加勢します」
ステータス画面を終了させると、ルーシェリカさんはリーズ兄妹にそう声をかけました。
この状況なら、範囲魔法が良さそうですね。じゃ、拘束効果があって消費MPが少ない<影縛り>でも。
巨大青虫の群れは数が多いだけで、割とあっさり倒せました。
手応え的に、ソードバニイ未満くらいでしょう。
『ルーシェリカ達はプチワーム39匹との戦いに勝利した
ルーシェリカは経験値を60手に入れた
グレーテルは経験値を19手に入れた
グレーテルは召喚Dを覚えた
ニールは経験値を20手に入れた
プチワームの殻を39個手に入れた
プチワームの粘糸を39個手に入れた
核石(大地)のカケラを19個手に入れた』
あらま、『召喚D』って。
これはもしや、私のツッコミ待ちですか? 創造神こと、無慈悲にして無垢なる混沌。
天の声なので、突っついて調査出来ないんですが。
「このたびはご協力いただき、大変ありがとうございます。先日に続いてのご迷惑、重ね重ね、申し訳ありません。今回のドロップアイテムはすべて、お客様に差し上げます――もし、よろしければ、今すぐ合成してランクUPいたしますが、どうなさいますか?」
戦闘終了後、半泣きのグレーテルさんから謝罪と提案をされました。
ほぼ同時に選択肢が、浮かび上がります。
合成しますか?
はい
いいえ
あー……
くれるのは嬉しいんですけど、こんなに大量のアイテムを貰ったところで、運ぶ手段ががが。
合成してランクUPってことは、ちょっとは質量、減りますよね?
そうじゃなくても、それだけ高くれるようになるでしょうから『はい』でいいでしょう。
「ええ。そうしてくれる」
「分かりました、お任せください。それと――」
カウンター周辺の床や壁、机や棚などは、プチワームの緑がかった粘液やら体液でべちゃべちゃのドロドロ。実に無残。
モンスター特有の死亡後徐々にドロップ品以外の体液などは自然に消えていく――という特性があっても、ここは商店なのです。
幸い、ルーシェリカさんの他にお客は入っていませんけど、いつ入って来てもおかしくはない状態。掃除しないで放置しておくわけにはいかないでしょう。
ニールさんは来客の危険性に気が付いたようで、グレーテルさん同様謝罪すると、出入口方向に歩いていきました。
「こちらのカウンターのモノは、お客様の所持品ですよね。新しいものと交換させてください。ご希望になるべく沿ったモノにいたします。どのようなモノがよろしいですか?」
ちなみに、グレーテルさんが飛び込んでくる直前、カウンターの上に置いていた背負い袋(大)、指先でも触りたくないぐらいドロドロです。
一緒に置いたお弁当は、包み代わりの紙袋がヨレヨレですので、おそらく中身もダメになっていることでしょう。さらば、お昼ご飯。
綺麗に消えるとわかっているとはいえ、こんな状態の背負い袋(大)を今まで通り愛用する気にはなれません。
ルーシェリカさんも新しく入れ物がほしいようで、うんうんと大きく頷いています。
「そうね。丈夫で、ソレよりも少し大きくて、長時間背負っていても疲れにくいモノがいいかしら」
冒険者御用達ギルド印のモノですから、とにかく丈夫に作られているんです。
けど、背負い袋(大)の名に恥じない、大きな袋に絞り口と肩紐が付いたといったシンプルなものでして。実はある程度中身が詰まっていると、重みで紐が肩に食い込むんで、ちょっと痛かったり。
ルーシェリカさんの希望を、真剣な顔でメモするグレーテルさん。
「……あの、合成する予定のドロップアイテム、材料に利用させてもらってもいいですか?」
「貴女が作るの?」
「はい。当店での服飾品は私が担当しています。おかしなモノは作らないとお約束しますよ」
ルーシェリカさんはちょっと考えた様子でしたが、了承しました。
そんな時、ニールさんが掃除用具を手に戻ってきます。
「数が多いので少々時間がかかりますから――兄さん、中にご案内してお茶でもご馳走して」
「ああ、分かった。お客さん、こっちへ」
ニールさんはカウンター奥にある、先刻グレーテルさんの出てきた方ではないドアを開け、ルーシェリカさんを招きます。
こちらのドアは居住空間にそのまま繋がっていて、数人用の木製のテーブルと4人分の椅子、かまどに大きな水瓶、その他様々な調理器具や食器の収納された棚が目に入ってくることから、厨房兼食堂のもよう。
「お客さん、武器は何を愛用してるんだ?」
ニールさんは、椅子の一つにルーシェリカさんを座らせると、カウンターに置いてあった籠をそのまま目の前に差し、ヤカンに水を入れてかまどに火を入れました。差し出された籠の中には、木の実らしきものが入ったパウンドケーキっぽい焼き菓子があります。
「投げナイフと鞭ですけど、それが何か?」
今回の戦闘中、どっちも使用しませんでした。壁役が2人いたので、魔法連発のみです。
「そうか。なら、短剣は扱えるということだな」
「ええ、まあ」
ニールさんはもう一度頷くと、ヤカンの様子を見に離れていきました。
話の流れとニールさんの職業的に、多分、新たな武器入手フラグだと思うのですが、言葉が足りないのではないかと。
それから、しばらく――1時間ほど経過した頃でしょうか。
両手に荷物を抱えたグレーテルさんが姿を現しました。
「お待たせしました、お客様」
グレーテルさんが来るなり、ニールさんは何処かに移動していきました。
淹れてくれたお茶と焼き菓子は美味しかったですけど、職人気質なのか寡黙なニールさんは持て成し役には向いていないと思います。
「こちら、ご希望のモノと合成したアイテムになります。お受け取りください。今度こちらにいらっしゃる時、合成したいアイテムがありましたら、どうぞご遠慮なく申し出てください。あと、こちらもどうぞ」
『ルーシェリカはワームスのリュック+1、ワームスの布地を3枚、プチワームパウダーを8個、小さな核石(大地)4個、お弁当を1個手に入れた』
テーブルの上にアイテムが並べられると、天の声が響き渡ります。
『物質合成は定められた数の同アイテム、もしくは決まった組み合わせの数種類のアイテムを錬金術によって、別のアイテムに変化させる技術です。いろいろな組み合わせを試してみましょう』
ドロップアイテムの数、中途半端でした。余りがないことから今回、グレーテルさんがオマケしてくれたんでしょう。
ルーシェリカさんは、おニューのリュックを熱心に触っています。
背負い袋(大)とは違い、すべすべした触感で、ポケットなどのちょっとした収納スペースが増えていますが、大きさ自体はさほど変わりありません。肩に触れる部分は負担を分散させるためでしょう。分厚く横幅も広がっていますが、こっちの方が全体的に軽くて柔らかいです。色は薄いベージュで、デザイン的にも機能的にも前より良い感じ。
使い心地が気になるのでしょう。背負ってみたり肩にかけてみたり布地をひっぱってみたりと、散々弄り回していました。
やや経って。
納得したように頷くと、ルーシェリカさんはアイテムをリュックにしまい込み、いそいそと背負います。
グレーテルさんはお店の入り口を出たところまで、見送りに来てくれました。
「ご利用ありがとうございます、またお越しください」




