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金と黒の王国2  作者: 朔夜
彼女は試行錯誤を繰り返す
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46/47

第46話 彼女は誘われる②

非常にお待たせして申し訳ありません。

 グレーテルさんによる、錬金術失敗爆音事件という予想外の事態はありましたが、私は日課ともいえる闇神殿参拝に出掛けました。

 自己の属性ではない神殿内に入るのが初めてだそうで、アレンさんは興味深そうに薄暗い闇神殿内を観察しています。


「――ようこそ、カーティスの加護を受けし子。バステの御力に属す子よ」


  祝福してもらう

  カーティスに祈りを捧げる

  寄進する

  神殿から出る


 セシルさんは私の期待通り、アレンさんの属性を一瞥だけで見事看破してくれました。

 バステってことは、アレンさんは風属性ですね。


 さてと。

 知りたいことも分かったことですし、日課をすませてしまいましょうか。さっそく『祝福』と『祈り』を順番に突っついて、ステータスの底上げ。


 そして――

 私は悩みました。

 そう。

 アレンさんがいる状態で500ギラーの寄進をするべきか、やめるべきかを。


 常識的に考えれば、避けるべきだと思います。

 ルーシェリカさんとアレンさんの間柄って、まだまだ知人レベルですし。

 しかも。

 アレンさんの先程の発言的に、セシルさんとは初対面っぽい。

 いくら暇していたからといえ、純粋ではないかもしれないけれど、一応善意から身を案じてついてきてくれたというのに、目の前で堂々と他の組織の見知らぬ人間に助力を求める――初日遭遇イベントにて、アレンさん自身が冒険者は基本数人でパーティ組んでいると発言していたので理解がある分、文句を口には出さないかもしれないですが、あんまり良い気分にはならないでしょうね。


 最初から選択出来ない状態であれば、迷わないどころか、考えにも浮かばずにすんだことでしょう。しかしながら、今日も今日とて寄進コマンドはしっかりくっきりと浮かんでいます。


 選びたいなら選んでみれば? どうなろうと結果は自己責任だけど。

 創造神が唆すような声が聞こえてくるかのよう。

 ぐぬぬぬ。

 なんという誘惑でしょう。


 しばらく考え込んだ私は、安全策――寄進を選択しないことにしました。

 一緒に居るのがロゼだったとしたら、戦力が多い方がいいというような言い分で、割とあっさり納得させることが出来たのではないかなと思いますが。

 今日ルーシェリカさんと一緒に居るのは幼馴染の友人ではなく、最近知り合ったばかりの知人なお偉いさんなのです。やめておく方が無難でしょう。


 誘惑を振り切った私は、気が変わらないうちにと即座に闇神殿を後にしました。

 そのまま王都を出て、討伐目的モンスターである黒ヤギさん達の生息地『ヴィア草原』を選択。


「ブラックゴートを倒す時、いくつか注意しなきゃなんねーことがある」


 特にモンスターと遭遇することなく、レイニードール街道を通り過ぎ、ターゲットを探して緑の絨毯のような草原を進んでいると、アレンさんが世間話ついでに解説してくれました。


「なるべく単独行動しているやつを探し出して狙え。基本的にブラックゴートは10匹前後の群れで固まって行動しているんだが、群れを相手取るのと段違いに仕留めやすい」


 わざわざ探してまでそうしないといけないということは、集団で群れている場合に相対すると、身の危険が跳ね上がるということでしょうか?

 私が考えたのと同じ感想をルーシェリカさんも持ったらしく、アレンさんに尋ねます。


「今の私では、群れを相手取るのは難しいということですか?」

「……ブラックゴートが厄介なのは、突進。それと、結束力の高さからなる群れの連携攻撃。要するに、ブラックゴートを一撃で仕留められる広範囲の魔法攻撃が出来るなら大丈夫だけど」


 アレンさんの眼差しは、無理だろ? と無言で語っていました。


 確かにそうです。

 闇属性魔法は制圧向け――ステータス異常付与(今までの結果を踏まえると、どうもステータス異常化は必中のもよう)の代わりに魔法攻撃力が残念な仕様でして。

 カットバニィならば、一撃で仕留められる自信はありますけど。

 1つとはいえ、討伐ランクが上のブラックゴートには遭遇したこともないですし、こればっかりは実際にやってみないことには分かりません。


「元々草食だから、こっちの方から攻撃ふっかけない限り、気性が穏やかっつーか、危険なモンスターじゃねぇ。けど、単独行動の奴をみつけても、攻撃すんのは周囲を確認してからにしろよー。うっかり群れているのの視界に入ったらマズい」


 ふむふむ。

 群れに敵意を持たれたら危険なんですね。注意しなきゃ。


「分かりました」


 そうルーシェリカさんが真面目に助言を受け取ってから、ほどなくして。

 広々とした草原でも目立つ、ふわもこな生物と遭遇しました。

 もきゅもきゅと、のんびり草を食んでいます。


「おー。運が良いな、ルーシェリカちゃん。単独行動してるやつって、そんなにいねぇってのに」


 アレンさんの意外そうなコメントからして、あれがターゲットで間違いないもよう。


 それにしても。

 ブラックゴートって、可愛いですね。

 体長は、1メートル前後。黒く艶やかな毛並みはアンゴラのようにふわっふわで、いかにも触り心地良さげ。角は緩やかな曲線を描いていて、攻撃力が高そうには見えないです。

 リアル山羊に似ては居ますが、デフォルメされたような感じで線が柔らかい印象――等身大のぬいぐるみじみた印象を受けますよ。


 えー?

 あれに攻撃するの?


「……なに、まごついてんだ? 早くしないと移動しちまうぞ?」

 

 私が抵抗感を覚えている影響か、それともルーシェリカさん本人も気が乗らないのか。

 攻撃しようとしないこちらに、不審そうなアレンさん。

 ちょっと、いやかなりラブリーとはいえ、まがりにも討伐対象なモンスターなのです。

 一瞬の油断が死につながる冒険者の世界で長く生きているアレンさんにとって、外見がどうであろうと躊躇わずにサクッと倒すべき対象であるのでしょう。


 仕方がありません。

 依頼を引き受けたからには倒さなくては。

 想像するだけで心が痛みますが、せめて苦しまないように全力を尽くしましょう。


 ……まずは仲間を呼ばせないように魔法で眠らせて。鞭でこちらに引き寄せて、ナイフで急所を裂きましょう。


「<――慈悲深き、カーティスに乞い願う――>」


 私の思考に従って、ルーシェリカさんは腰の鞭を利き手である右手に持ち、獲物に近づきながら唱えます。

 

「<――我が敵を、昏き夢の底に招かん!――>」


 ブラックゴートの周りを、一瞬にして紫がかった光る闇が取り囲みます。

 その場に闇が存在していたのは一瞬でしたが、闇魔法<招夢>はその威力を十分に発揮し、食事中のふわもこ生物に強烈な睡魔に襲わせ、その場に崩れ落としました。

 その直後に、ルーシェリカさんの振るった鞭がブラックゴートの体に巻き付き、草の絨毯の上を滑るようにして彼女の傍に引き寄せられていきます。


 地面を数メートル分、ずりずりと引きずられた衝撃で目を覚ましたようで。

 ルーシェリカさんがブラックゴートの首にナイフを押し当てたちょうどその瞬間、つぶらな黒い瞳と目が合います。

 生存本能からでしょう。ブラックゴートが、ヴェエエエ~! と、草原中に響き渡るような鳴き声を上げたのと。

 細身のナイフが、見た目を裏切らない柔らかな毛皮に覆われた獲物の首を切り裂き、青い血を噴き上がらせたのは、ほぼ同時でした。


 急所にナイフ一閃では仕留めきれなかったらしく、猛烈な勢いでブラックゴートが戒めから逃れようと暴れます。

 突進力を警戒されるだけあって、愛らしい見かけに反するもの凄い力。

 この調子で逃げられたり、鳴き声に反応した別の個体に死角から攻撃されたら厄介です。気は進まないけど早く仕留めなくては。


 私が、そう考えていたからでしょう。

 ルーシェリカさんは右手の鞭を強く握りしめて拘束したまま、何度もブラックゴートの首を切り裂きます。

 出血多量だったのか、ナイフによる急所攻撃でHPが0にいたったのか。

 ブラックゴートが息絶えたるまでに、さして時間はかかりませんでした。


 その遺体がホロホロ崩れるように消えていき、引き換えのようにその場に出現したアイテムを、ナイフを鞘に納めたルーシェリカさんが拾います。

 ブラックゴートのドロップ品は、ブロック状のお肉、バスケットボールほどの大きさに丸まった黒い毛、手のひらほどの長さの角でした。


『ルーシェリカはブラックゴート1匹との戦闘に勝利した。

 経験値を9手に入れた。

 ブラックゴートの角を1本手に入れた。

 ゴートの肉を1個手に入れた。

 ブラックゴートの毛玉を1個手に入れた』


 レアアイテム入手は喜ばしいことですが、この毛玉、結構なスペースをとりそうです。

 今はまだ大丈夫ですけど、数体倒したら背負い袋(大)がいっぱいになってしまうでしょう。その場合、アレンさんが持って運んでくれれば問題ないんですけど。

 ……バケツ持ってくれてますし、多分持ってくれますよね。うん。


 その後、単独行動しているブラックゴートを探したのですが。

 残念なことに大半が群れていて、1匹しか仕留めることはできませんでした。

 目的ではない、ヴィアフォックスというモンスターとも遭遇。三匹倒したこちらの方が、多いという展開に。


 ……ルーシェリカさんより高レベルであろうセシルさんが、広範囲魔法で群れごと倒してくれることを期待すべきでしょうか?


そんな他力本願なことを考えながら、王都へ戻り。

 他に特筆すべきことなく、その日一日は終わりを告げました。


 で。翌日16日。

 『倉庫』のマンドラコラのカケラとマンドラコラの根を背負い袋(大)に移した私は、『職場に行く』を選択。

 毎度のように同僚三人全員と関わるべく、上から順にこなします。

 ちょうど良さそうなものがないかと暗殺リストを覗きつつルーファスと世間話をかわし、ミレイに大歓迎を受けながら支持率と好感度をチェックして回復薬(小)をゲットし――最後のイリスを選択すると、変化が起こっていました。 


  イリスに賄賂工作を頼む

  イリスと世間話する


 あれ?

 見慣れない選択肢が出ていますよ。

 10万ギラーないと出てこないはずの『賄賂』が出てるってことは、昨日の段階で突破してました?

 そういえば、結構稼ぎましたからね。


 当然ながら、私は迷うことなく『賄賂』の方を突っつきました。


「イリス。ちょっと秘密裏に贈り物をしたいから、協力してほしいのだけど」

「それは個人的なものですか?」

「個人的なものだったら、自分で直接相手に渡すわ」

「……ですよね」


 仕事関係の話を振られると思っていなかったのでしょう。イリスは少し目を見張ってから、きゅっとホウキを握る手に力を込め、きりりと表情を引き締めます。


「では、メイド長。どの勢力に工作を仕掛けますか?」


  エドガー派

  ミハイル派

  シュダァ派

  中立派

  その他候補者派

  どの派閥にするか、イリスに任せる


 むう。

 結構選択肢ありますね。


 OPいわく、ご主人様の望みは『兄上』であるエドガー様を退場させ、レイニドールの王位に就くこと。ですから、単純に考えると工作先はエドガー様一択でしょう。

 ミハイル王子は年齢的な問題で、まだまだ関わっている政務の数が少ない印象ですし、シュダァ様は前提条件が整っていないので、王位継承騒動とは今のところ無関係です。

 でも。

 ご主人様の順番が明確に分からないうえ、ご生母である第一王妃様関連で問題を抱えているので、うっかり有力候補なエドガー様の勢力を削ると、ミハイル王子はもちろんのこと、今も選択肢に名前があがらない妙に影の薄い王弟である公爵、その他候補者に鞍替えする貴族とか出てきそうな予感が。


 ……うーん。

 背景を考えると、ミハイル王子のところは抗イネスタ的な色がかなり強い派閥で、イネスタ王妹を母に持つご主人様につくのは心理的な抵抗があるでしょうし。

 可能性がかなり低いのにシュダァ様を支持しているってことは、シュダァ様の崇拝者が多そうな派閥である気がします。

 無難なところで中立派か、その他候補にしましょうかね?

 ……いっそのこと、イリスに任せちゃってもいいかもしれません。本職というか、担当者なので勢力バランスに考慮してくれそうですし。


 うんうん。そうしましょう、そうしましょう。餅は餅屋ですよ!

 ではタッチ!


「送り先はイリス。あなたに任せるわ」

「私に? 分かりました、メイド長。ご期待に応えられるよう、善処します」


『ルーシェリカは100000ギラーを失った。

 イリスの賄賂工作が成功した。

 貴族支持率が5上がった』


 ……賄賂って、イベントでの支持率上昇と比べると効率悪いですね。

 上がらないないよりはマシですけど、これまで稼ぐまでの時間を考えちゃうと微妙に複雑。


 今日こそ、セシルさんを雇いに行きたいので、自室に戻ると『王都に向かう』を選択します。

 次なる選択肢――目的地が浮かび上がってきたところで、ふと、私は残金が幾らだったのか覚えていないということに気が付きました。

休日返上の連続講習期間が終わってほっとしたところで体調を崩し、治ってみたらパソコン周辺器具の調子が極悪。何度書き終わった46話が保存しようとして消えたことか……(泣

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