馬の鼻
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「でも、ホント。巫琴ちゃんといると、たまに緊張感を無くすわね」
「本当にそうだな」
「もぉーー。エミリさんもライムさんも、あたしのことバカにしてません?」
「いいじゃないか、巫琴。お前がいると、これからの辛いはずの魔王討伐の旅も楽しそうだ」
あっ、アーサー様。あたしの頭、撫でてくれた。ベタだけど嬉しー。
こういう楽しさって、前の世界にいたときは、あんまりなかったな……。
「さぁ、旅を続けるぞ」
♢
もうすぐ、次の村に着くよぉーー。久しぶりにベッドで眠れる。
おまけにその村には、温泉もあるみたいだしー。久しぶりのお風呂♪ お風呂♪ お風呂♪
「巫琴ちゃん。ずいぶんと嬉しそうね」
「そりゃーー。久しぶりのお風呂に入れますから」
「そうね」
「温泉に入るのは、もう何年振りかだな」
「エミリさんもライムさんも、お風呂は好きですか?」
「そうね。湯船に浸かるなんてことも、滅多にないものね」
「ワタシも、久しぶりに汗で汚れたカラダを洗い流したい」
はっ!? あたし、臭くない!? こうして、ピッタリとアーサー様にくっついてるけど!? もしそうだったら、臭いオンナだなんて思われたくないよー!
「大丈夫ですよ、巫琴さん。巫琴は、全然臭くありません」
「本当に? フレデリック」
「はい。ボクが保証します」
「でも、馬の嗅覚ってどぉなのぉーー。犬じゃないんだから」
「そんな!? 馬の嗅覚をバカにしないでください。少なくとも、人間よりは優れてるんですから!」
「ごめん、ごめん。そんなに怒らないで、フレデリック」
「……」
あっ、黙った。
「お前は、また後ろで馬としゃべってるのか?」
「えっ、えーとぉーー。どうでしょうか」
「さっきから、全部がまる聞こえだぞ」
「あのぉーー、ひょっとして。アーサー様も、馬の言葉がわかります?」
「そんなのわかるわけないだろ。お前の話し声は、まる聞こえだ」
「あっ、そっちでしたか」
なんだ、そっちかぁー。安心した。聞かれて、特に拙いような話はしてないけど、たまぁーに都合が悪いときもあるもんね。
「そういうときは、口に出さずに、心の中で話せばいいんですよ」
それはわかってるぅ。フレデリック。
「そうそう。その調子です」
わかった。これからもみんなには言えない、あたしの内緒話に付き合ってね。
「はい。もちろんです」




