表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

久しぶり、ラムネと淡い風



仕事が終わる頃には、外はすっかり暗くなっていた。


ビルの窓に映る自分の顔は、少しだけ疲れて見える。


スマートフォンを開く。


『さっきは、急にすみませんでした』

『でも、少し話せて嬉しかったです』


画面に表示されたそのメッセージを、もう一度読み返す。


ほんの少しだけ考えてから、返信を打った。


『こちらこそ、声かけてもらえて嬉しかったです』


送信したあと、なぜか少しだけ落ち着かない。


こんなふうに誰かとのやり取りを意識するのは、久しぶりだった。


『あの、もしよかったら』


すぐに、次のメッセージが届く。


『少しだけ、お話ししませんか?』


一瞬だけ迷ってから、短く返す。


『いいですよ』


気づけば、駅前のカフェに向かっていた。


夜の街は、昼とは違う顔をしている。


ガラス越しの灯りが、どこか柔らかくて。


店内に入ると、すぐに彼女の姿が目に入った。


「あ……」


目が合う。


彼女は少しだけ表情を緩めて、軽く頭を下げた。


「来てくれて、ありがとうございます」


「ううん、こちらこそ」


向かいの席に座る。


少しだけ、緊張する。


それでも、不思議と居心地は悪くなかった。


「なんだか、変ですね」


彼女が小さく笑う。


「今日、初めて会ったばかりなのに」

「こうして普通に話してるの」


「たしかに」


軽く頷く。


「でも、話しやすいとは思う」


無理に話題を探さなくてもいい。


沈黙も、そこまで気にならない。


「……私もです」


彼女は小さくそう言って、少しだけ笑った。


「甘いもの、好きですか?」


気づけば、そんなことを聞いていた。


「え、どうしてですか?」


「なんとなく」


自分でも理由はわからない。


「……好きです」


彼女は少し考えてから頷く。


「よく食べてた気がします」


「気がする?」


「はい。はっきりとは覚えてないんですけど」


少しだけ困ったように笑う。


「例えば、ラムネとか」


——一瞬だけ、何かが引っかかった。


でも、それが何なのかは思い出せない。


「……どうかしました?」


「いや、なんでもない」


気のせいだと思うことにする。


「あの」


彼女が少しだけ真剣な表情になる。


「また、こうして会ってもいいですか?」


その言葉に、少しだけ驚いた。


「……うん、もちろん」


自然と、そう答えていた。


理由はわからない。


ただ——


もう少し、この人と話していたいと思った。


店を出たあと、夜風に当たりながら歩く。


ふと、考える。


——どうして、あの人だったんだろう。


特別な理由なんて、思いつかない。


それでも。


「……また、会うんだろうな」


根拠のない感覚だけが、静かに残っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ