はじめまして、君はどこか懐かしい
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春の匂いは、どうしてこうも現実感がないんだろう。
朝の駅は、人で溢れているのに、どこか静かだった。
規則正しく流れていく足音と、機械的なアナウンス。
その中で、不意に視線が止まる。
——一人の女性が、そこにいた。
スーツ姿で、スマートフォンを見つめているだけ。
特別目立つわけでもない。
けれど。
なぜか、目が離せなかった。
見覚えがある、なんて言葉じゃ足りない。
もっと曖昧で、もっと確かな何か。
胸の奥が、じんわりと熱を持つ。
——知っている。
——でも、思い出せない。
気づけば、足が動いていた。
「あの」
声をかけた瞬間、自分でも少し驚いた。
こんなふうに、知らない人に話しかける性格じゃない。
彼女は顔を上げる。
「はい?」
その声を聞いた瞬間、確信に近い何かが胸を叩いた。
——やっぱり、知っている。
「ごめん、急に」
「ちょっと変なこと聞いてもいい?」
彼女は少しだけ警戒したように、それでも小さく頷いた。
「どこかで会ったこと、ない?」
ありきたりな言葉。
でも、それ以外にどう言えばいいのかわからなかった。
彼女は一瞬だけ考えて、ゆっくりと首を横に振る。
「……ない、と思います」
そう言って、少しだけ困ったように笑った。
——ああ。
その笑い方。
胸の奥が、強く締めつけられる。
「そっか」
「ごめん、引き止めて」
それ以上は、何も言えなかった。
当然だ。
本当に初対面なら、ただの不審者でしかない。
軽く頭を下げて、その場を離れようとする。
その時だった。
「……あの」
今度は、彼女が声をかけてきた。
振り返ると、少しだけ不思議そうな顔をしている。
「私も、なんですけど」
「はい?」
「会ったことは、ないと思うんですけど……」
彼女は、言葉を選ぶように少しだけ視線を落とした。
それから、ゆっくりとこちらを見る。
「なんだか、懐かしい感じがして」
——心臓が、大きく鳴った。
「……やっぱり、そう思う?」
思わず、そう返していた。
彼女は少しだけ驚いたあと、小さく笑う。
「変ですよね」
「初対面なのに」
初対面。
そのはずなのに。
頭の奥で、何かが引っかかる。
——夏。
——夕焼け。
——小さな公園。
断片だけが、浮かんでは消える。
「……また、会えますか」
気づけば、そんな言葉が口から出ていた。
理由なんて、説明できない。
ただ、このまま終わるのは、違うと思った。
彼女は少しだけ驚いて、それから困ったように笑う。
「えっと……」
数秒の沈黙。
それがやけに長く感じた。
「……いいですよ」
その一言で、胸の奥が軽くなる。
「ありがとうございます」
変に丁寧な言い方になってしまって、
おもしろくて笑ってしまった。
すると彼女も、つられるように少しだけ笑った。
連絡先を交換して、短く別れる。
電車に揺られながら、さっきのことを何度も思い返す。
懐かしい、という感覚。
あの笑い方。
そして——
消えかけた記憶の中で、誰かが言った。
『またね。絶対、また会おうね』
——ああ。
もしかして、俺たちは




