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式部省の呪詛係  作者: 浮田小葉子
第十二章 終わりの始まり
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八 道顕の狼狽

 右大臣邸。


 道顕は報せを聞いた。

 女房が、恐る恐る告げた。


「中宮様が、皇女(ひめみこ)をお産みになられました」


 その言葉を聞いた瞬間、道顕の顔が歪んだ。


女子(めのこ)だと……」


 道顕は、震えた。


 手が震えている。

 声が震えている。

 すべてが、震えている。


 道顕は、手元の盃を握りしめた。


 そして、投げつけた。


 盃は厨子(ずし)に当たって、砕けた。

 甲高い音が、部屋に響く。


「女子だと!」


 道顕は、立ち上がった。

 そして、部屋を歩き回った。


「すべてが……」


 道顕は、呻いた。


「すべてが、崩れた……」


 息子顕実(あきみつ)が、恐る恐る言った。


「父上、しかし姉上はご無事で、皇女も……」

「黙れ!」


 道顕は顕実を睨みつけた。

 その目は、ひどく血走っていた。


 顕実は息を呑んだ。


 父の様子が、明らかにおかしい。


 産屋は、邸内にある。


 しかし、道顕は近づけない。

 穢れの場所だからだ。


 顕子に、会えない。

 赤子も、見られない。


 ただ、女子が産まれたという事実だけが、道顕を苦しめた。


 道顕は、部屋を歩き回り続けた。

 ぐるぐると、ただ歩くために歩いていた。


「源潔子……」


 道顕の声が、低くなった。


「源潔子が、いる。――潔子が、帝の寵愛を受けている」


 道顕は、柱に手をついた。


「もし、潔子が懐妊すれば……。男子(おのこ)を産めば……」


 道顕は、恐怖した。

 全身が、震えている。


(源氏が、外戚となる)

(私の権力が……)

(すべてが、崩れる)


 道顕は、既に正気を失いかけていた。


 目が、焦点を失っている。

 手が、止まらずに震えている。

 呼吸が、乱れている。


「潔子を……」


 道顕は、呟いた。


「潔子を、排除しなければ……」


 顕実は、父を見た。

 恐怖した。


(父上は……)

(おかしくなっている)

(正気を、失っている)


 顕実は、何も言えなかった。


 ただ、父の狂気を見つめていた。


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