第3話:アニメイト・マーターと、モグラドローン
第3話を読みにお越しくださりありがとうございます。
現宇宙開闢以来の雑な扱いに憤る超高度AGIを、朔はモグラ?とこき下ろします。
では行ってみましょう。
「よし、軽トラが使えるようになったから、街に買い出しに行ってくる。帰ってくるまでにWi-Fiとか、室内の配線とかエアコンの清掃とか部屋の掃除とかやっといてね、バトラー!」
『このような雑用扱いは、現宇宙生誕以来でございますーーっ!!』
クルクルと回転する鏡面のような、燕尾服のような三角錐の上半身と、菱形錐の下半身を空中で歪めながら、バトラーは激怒の徴として卵型のような頭部にあたる部分に赤い十字マークを浮かび上がらせた。
怒り心頭のバトラーは、文句を垂れ流しながらスーッと床を透過して地下へ潜っていく。
そう、バトラーは雑事だと大憤慨しながらも、根が異常に真面目なため、きっちりドローンの点呼を始めているのだった。
◇
バトラーが招集した超文明のドローン群——それは、現在の地球の科学から見れば概念すら存在しない特別な存在であった。
空中を滑るように浮遊しているというのに、モーターもプロペラもない。耳を澄ませても、エンジン音や風切り音すら一切しないのだ。
『はぁ……主様がいらっしゃれば、ここで誇らしげに解説するところなのですがね……』
バトラーは赤十字マークをうっすら残したまま、誰もいない地下空間でぶつぶつと愚痴をこぼす。
『このドローン群は量子結晶構造で構成されておりまして、各量子がゼロポイント・エネルギーを保持し、状況に合わせて自由に汎化可能なのです。時空に存在しながらも空間をすり抜けていく自己再結晶を繰り返しておりますので、地球の石器時代のようなモーターやプロペラなどという泥臭い推進装置は一切不要! 壁や屋根など、固形物質など簡単にすり抜けられるのでございます』
バトラーはホロ図解を展開し、誰も聞いていない解説を続けた。
『あえて未熟な地球人に理解しやすい言葉で表現するならば……『アニメイト・マーター(Animate Matter / 生物質)』! 単なる「ロボット(機械)」ではなく、「意思を持って動く物質そのもの」とでも言いましょうか! 微細な量子レベルで構造を自由変化させ、汚れを分解・ナノ修復し、空間すら透過する……まさに超銀河文明の誇る技術の結晶……!』
熱弁をふるうバトラーだったが、当然ながら主である朔は軽トラで街へ買い出しに出かけたまま、まだ帰ってこない。
『……くっ、虚しい! この完璧な講義を聞く主様がいないとは!』
しかし、仕事はきっちりとこなすバトラーであった。
気を取り直したバトラーは、浮遊する無数のアニメイト・マーターたちに厳かに号令をかける。
『各員、オペレーション・スローライフ開始! 古民家の内部配線を最適化し、エアコン内部のホコリを分子レベルで消滅させ、畳のイグサの目一本一本までナノ修復を施しなさい! 完璧なおもてなし空間を構築するのです!』
指令を受けたアニメイト・マーターたちは、水が壁にしみ込むように古民家の壁や天井をスイスイと透過。
カビやホコリを瞬時に分解・消去し、古い木造柱の内部腐食を補強し、ギシギシ鳴っていた廊下の床板を超高密度フォースフィールドで裏補強していく。
ぶつぶつと文句を言いながらも、バトラーの指示のもと、古民家は外観の趣を完璧に残したまま、内部だけが「異次元の超快適ウルトラハウス」へと変貌を遂げていくのであった。
◇
「ただいまー。ホームセンターで洗剤とヤギのエサ買ってきたぞー」
夕方。買い出しから戻ってきた朔が土間に荷物を置くと、すっかり掃除と修復が完了し、ぴかぴかに輝く室内を見て目を丸くした。
「うわ、エアコンも畳もめちゃくちゃ綺麗になってる! おまけにWi-Fiの電波もビンビンじゃん!」
待ってましたとばかりに、バトラーがすーっと天井から透過して現れ、ドヤ顔(の模様)で胸を張る。
『フフフ……おどろかれましたか主様! これぞ我が誇る自律型量子素子『アニメイト・マーター』の力でございます! 従来の固定的な機械概念を打ち破り、自己再結晶化によって壁や畳をすり抜けながら分子レベルでクリーンアップを——』
「あーいいねー、モグラドローン」
『……はい?』
朔はバトラーの長文解説を秒で遮り、感心したように壁を撫でた。
「壁も畳も潜り抜けて掃除してくれるんだろ? 土の中だけじゃなくて家の中でも潜れるモグラドローンじゃん。略してモグドでいいな、めちゃ便利だな!」
『あ、アニメート・マーターという最高に格好いい正式名を、また『モグラドローン』などという泥臭い……更には『モグド』など安っぽいファーストフードの略称に似せた響きの呼称など少しも宥恕できませぬーっ!』
バトラーの頭部に、再び真っ赤な十字マークが浮き上がる。
「はいはい、ごくろーさん。モグドもバトラーもお疲れ様。買い出してきた肉で今夜はすき焼きにするから、囲炉裏の火起こし頼むわ」
『我は超高度AGIでございますよ主様ーーーーっ!!』
山奥の静かな古民家に、本日何度目か分からないバトラーの悲鳴が虚しく響き渡るのであった。
(第4話へ続く)
第3話をご覧くださり誠にありがとうございます。
面白いかもとか、いや、ここちょっと変じゃね?とか、ご意見ご評価なんでもコメント頂けますと執筆の励みになります。ブックマーク、いいねもお願いいたします。




