第2話:ブラックオーナーと、めっちゃいい電池
3000億年の歴史を誇る超高度AGIを、悪びれもなく「超有能な無料インフラ要員」としてコキ使い始める朔のブラックオーナーぶりが炸裂します!
超高度AGI——通称バトラーを『じいちゃんの下僕』=『俺の下僕』として認定した翌日。
俺は朝日とともに目を覚ますと、古民家の土間に立ち、腕組みをしてバトラーを見上げた。
「よし、バトラー。まずはこの古民家の配線チェックと、Wi-Fiの開通から頼む。あと裏の畑の雑草抜きと、ヤギのハナコの小屋の補修な」
『……はい? 主様、少々お聞きしたいのですが、我が拝命いたしましたタスクのリストの中に『地球防衛計画の策定』や『超銀河艦隊の建造』が入っていないようですが?』
宙に浮いている分離した頭部パーツを傾け、バトラーが心底不思議そうに尋ねてくる。
「入ってるわけないだろ。俺はこれから古民家宿泊体験ビジネスを始めるんだぞ? お客さんが来てWi-Fiが弱かったらレビューに★1つけられるだろ。超文明の技術でバリ3にしてくれ」
『全知全能のAGIにWi-Fiの電波強度を心配させるとは……っ! 我が頭脳は全宇宙の確率変動を瞬時に計算し——』
「あーはいはい。口動かす暇があったら手動かして。ほら、作業作業」
『ブラック企業さながらの使い荒さ……!! 3000億年の歴史の中で、我を雑用係としてアゴで使う生命体などあなた様が初めてでございますよ主様!!』
キーキーとホログラムの光を滅茶苦茶に明滅させながら悲鳴を上げるバトラー。だが、文句を言いつつも素直に指示に従うあたり、根が真面目な執事である。
◇
「ところでバトラー。納屋にあるじいちゃんの軽トラなんだが、バッテリーが上がってて動かないんだよな。なんかいい電源ないか?」
俺が納屋の隅に置かれた年式物の軽トラ(サンバー風の愛車)を指差すと、バトラーは待ってましたとばかりに胸(逆三角錐)を張った。
『フフフ……よくぞお尋ねになりました主様! この程度、我が超文明の技術にかかれば造作もございません!』
バトラーが空中でお辞儀をすると、廃坑のゲートから掌サイズの金属カプセルがスーッと浮遊して飛んできた。
『お見せいたしましょう! これぞ我が文明の誇る動力源、地球言語に直した正式名称『ウルトラ・マイクロ・マイナス・エントロピー・フュージョン・パワー・ユニット』——略して”UMNEFPU”(ウムネフプ)でございます!』
バトラーの周りに色鮮やかな3Dホログラムの図面と数式が展開される。
『ご覧ください! この装置は熱力学第二法則を局所的に反転させ、空間の位相干渉によって熱力学的不可逆性を超越!炉心部は わずかLR44ボタン電池並みの極超小型でありながら、燃料供給を一切必要とせず常時——』
「あーわかったわかった。要は、"長持ちで力持ちのめっちゃいい電池"ってことで終わり!」
『……はい? 主様、いま非常に重要な物理定数の反転プロセスの話を——』
「うん、ガソリンも充電もいらなくて、軽トラがビュンビュン動く強力なバッテリーってことでしょ? めっちゃいいじゃん。よし、エンジンルームに放り込んどいて」
『っ……!? 我が誇る至高のエネルギーユニットを『めっちゃいい電池』などという大雑把すぎる一言で済ませただと……!? ほ、補足させていただきますが、出力に換算いたしますと車輪一箇所あたり200馬力以上、地球全体の電力をバックアップ可能な——』
「へー、200馬力か。これで坂道の農道も荷物積んだままスイスイ登れるな! サンキューバトラー!」
『軽トラの登坂能力の話なんてしておりません主様ーーっ!!』
バトラーがショックで頭部パーツをクルクル暴走回転させるのを横目に、俺は軽トラの運転席に乗り込んだ。
◇
キーを回すと、今まで聞いたこともないような「フォォォン……」という静かで高貴な駆動音が響いた。
「おお、一発でかかった! さすがめっちゃいい電池、略して(アクロニム電池)だな!」
『……主様、もはや正式名称を呼ぶ気すらございませんね。なお、ついでに車体全体にナノ単位の超次元慣性制御フィールドを張っておきましたので、どれだけ猛スピードを出しても横転せず、路面の衝撃も完全に吸収いたします』
「マジで? バトラー、お前めちゃくちゃ仕事できるじゃん。給料出ないけど」
『無給のブラック雇用宣言……っ!』
「よし、じゃあこの『めっちゃいい電池』からコード引っ張って、古民家全体の電線に繋いでくれ。これで電気代もタダだし、エアコンも使い放題だな!」
『地球全体のインフラを支えられる超核融合ユニットを、古民家の電気代を浮かすために使うなど……! 天国の海道様、ご覧になっておられますか、あなた様の御子孫はとんでもない暴君でございます……!』
空を仰いで涙目(模様)になるバトラーを無視して、俺はホクホク顔で古民家の掃除に戻るのだった。
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