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第四十八話 妹の朗読は、誰かの婚約式を飾らず支えた

 メリッサに、初めて婚約式の司会朗読依頼が来た。


 相手は靴職人通りの職人夫婦の娘と、花市場の若い職人。貴族の婚約式ではない。だが、二人は王都十二鐘の新規則に従い、本人名義の小さな誓約式を望んでいた。


 メリッサは依頼書を読み、西礼拝堂へ相談に来た。


「婚約式って聞くと、まだ少し怖いの」


 エリアナは石板に書く。


『私もです』


 姉妹で同じ言葉を共有できるようになったことに、メリッサは少し笑った。


「でも、今回は誰かの声を借りない。私の仕事は、二人の名を正しく読むこと」


『それなら、できます』


 式当日、会場は花市場の広場だった。白い花ではなく、春の野花が飾られている。花嫁は緊張で手を震わせ、花婿は靴紐を何度も結び直していた。


 メリッサは朗読台に立ち、深呼吸した。


「本日の誓約は、本人同意、本人署名、補助詠唱なしで行います」


 声は明瞭だった。


 彼女は二人の名を読み、贈り物の目録を読み、最後に短い祝福文を読んだ。歌ではない。だが、言葉が二人の足元を支えている。


 エリアナは客席で聞いていた。


 かつて妹は、姉の祝歌で自分の婚約式を飾ろうとした。今日は、誰かの婚約式を自分の朗読で支えている。飾るためではなく、二人の名を間違えないために。


 式の後、花嫁がメリッサに言った。


「噛んでも読み直せばいいって聞いて、安心しました」


 メリッサは笑った。


「私も最初の式で噛みました。記録されています」


 その言葉に、周囲が温かく笑った。


 エリアナは胸が熱くなる。


 失敗が、恥ではなく次の人の安心になる。


 帰り道、メリッサは言った。


「お姉様。私、婚約式が嫌いなままじゃなくてよかった」


 エリアナは頷く。


『私も、祝歌が嫌いなままではありません』


 二人は花市場の小鐘の音を聞きながら歩いた。


 奪われたものを取り戻すとは、元通りにすることではない。


 新しい使い方で、もう一度自分のものにしていくことなのだと、エリアナは思った。

 メリッサはその式の後、自分の喉の手帳をエリアナに見せた。


 朗読時間、緊張、噛んだ回数、飲んだ水、休む日。以前の彼女なら、そんな細かな記録を面倒だと言っただろう。今は、項目ごとに丁寧な花の印をつけている。


「私、声が軽いって言われることがまだあるの。でも、軽いなら軽いなりに、聞き取りやすい速さがあるって先生が」


 エリアナは頷いた。


『私の声も、大きな式に向いているとばかり言われました。でも病床祈りには小さく使う必要がありました』


「声に向き不向きがあるのね。優劣じゃなくて」


『そうです』


 メリッサは嬉しそうに手帳へ書き足した。


『軽い声。目録向き。速すぎ注意』


 妹が自分の声を、姉との比較ではなく特徴として記録する。その一行を見て、エリアナは姉妹の傷がまた少しだけ形を変えたと感じた。

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