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第四十話 声名簿講堂の最初の鐘は、見習いたちが鳴らす

 休声基金と新規則のために、聖務院は小さな講堂を用意した。


 名は、声名簿講堂。


 大げさな建物ではない。古い倉庫を改装し、壁に吸音布を張り、机と水場と休憩室を備えただけだ。だが、エリアナには特別な場所に見えた。ここでは、歌う練習だけでなく、休む練習、断る練習、記録を書く練習が行われる。


 開講式の依頼書には、エリアナの発声一節とあった。


 彼女は少し考え、修正を入れた。


『開講の鐘は、見習いたちが鳴らす。私は記録確認のみ』


 セラフィナは即座に採用した。


「象徴として正しいです」


 開講式の日、ミレーヌを含む見習いたちが小さな鈴を持って並んだ。声名札の封印と同じ印をつけた鈴だ。花、鳥、星、鈴。ひとりひとり違う。


 エリアナは壇上に立ったが、歌わなかった。


 代わりに短く挨拶する。


「ここでは、鳴る日と休む日を、同じ名簿に書きます」


 それだけで、喉を休めるために筆談へ切り替えた。


 セラフィナが規則を読み上げる。


「本人名義。本人保管。発声上限。休声欄。代替手段。以上を、王都声名簿の基本とします」


 その後、見習いたちが一人ずつ鈴を鳴らした。


 大きな音ではない。けれど、講堂に澄んだ連なりが生まれる。誰か一人の声に頼らない、たくさんの小さな始まり。


 ミレーヌは自分の鈴を鳴らした後、エリアナに駆け寄った。


「休んだ日も、先生に見せていいですか」


 エリアナは石板に書く。


『もちろん。休んだ日の記録を見るための講堂です』


 ミレーヌは嬉しそうに頷いた。


 開講式には、王宮礼拝堂からも使者が来ていた。アレクシスの条件付き就任により、王宮でも休声規定の試験導入が始まる。その使者は最初、休声欄の多さに戸惑っていたが、見習いたちの鈴を聞いて静かになった。


「これまで、歌えた者だけを記録してきました」


 使者は言った。


「歌えなかった者は、いない者のように扱っていたのかもしれません」


 エリアナは石板に書く。


『いない者にしないための欄です』


 講堂の奥には、母セシリアの休声木札の写しが展示された。説明文には、祝鐘詠唱者であり、休声記録作成者であったことが書かれている。


 エリアナはその前で、しばらく立ち止まった。


 母の木札は、もう祈祷台の奥に隠されない。見習いたちが通るたびに、休む日の記録として目に入る。


 アレクシスが隣に来た。


「始まりましたね」


 エリアナは頷く。


『私一人の話ではなくなりました』


「それが制度になるということです」


 制度。


 少し冷たい言葉だと思っていた。だが今は違う。制度は、優しい人がいない日にも誰かを守るための鐘だ。


 その夜、エリアナは講堂の最初の名簿を確認した。


 一番目には、見習い全員の名。


 発声欄ではなく、鈴音欄。


 休声欄は、まだ空白だ。


 エリアナはその空白を見て、安心した。いつか誰かが休む日、その欄は失敗ではなく、正しい記録として埋まる。


 声名簿講堂の最初の鐘は、見習いたちが鳴らした。


 エリアナは、その音を聞くために、歌わないことを選んだ。

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