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【連載版】「君がいなくても困らない」と言うので、本当にいなくなってみました  作者: 鬱沢色素


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15/15

15・夜会を任されて

「ああ、その通りだ」


 聞き返すと、ルシアン殿下は首を縦に振った。


「来月、陛下が城に戻ってくるのは知っているな?」

「はい、もちろんですわ」


 他国との会議が長引き、長らく城を空けていた国王陛下。

 その陛下が、ようやくアルヴェリア王国に帰ってくるのだ。


 私が王城で働き始めた頃には、すでに陛下は不在だった。そのため、まだ一度も挨拶できておらず、帰ってこられる日を心待ちにしていた。


「それに合わせて、王城で夜会を開こうと考えている。無論、陛下の帰還を祝うだけではないがな。この機会に、国内の貴族たちとも広く交流を図るつもりだ」

「なるほど……」


 ありがちな話である。

 でも、私が夜会の指揮を執る?


 こういう大役はもっとベテラン……たとえば、テオドールさんのような方が務めるべきではないだろうか。

 なのに、私が指名されるとは……驚きである。


「君には、夜会の準備から当日の運営まで、全体を取り仕切ってほしい。無論、一人でやる必要はない。必要な人員は、こちらで用意しよう。城内の人間を使ってくれていい。可能か?」

「可能か可能じゃないかで言うと、可能なんですが……本当に私なんかがいいいんでしょうか? 陛下の帰還を祝う、大切な夜会ですよ?」

「ふっ、なにを言う」


 ルシアン殿下は表情を緩め、こう続ける。


「先日、君は商会長を説得し、王都と地方の格差問題が改善するための道筋を示した。このことは、巷で『才女の奇跡』として讃えられている」

「そもそも、『才女の奇跡』だと言い広めたのは、殿下たちではありませんか!?」

「俺は事実を述べたまでだ。君が王城で働き始めた当初は、快く思っていない連中もいたが、今は違う。君の実力は、誰もが認めるところとなった。夜会の代表を任せると言っても、反対する者はいないだろう」


 きっぱりと断言するルシアン殿下。


 殿下……本当に、私の能力を高く買ってくれているのよね。

 でも確かに、城のみんなの私を見る目が、劇的に変わっているのは実感していた。

 そのおかげ──いや、そのせいと言うべきだろうか、以前にも増して相談事や仕事が舞い込んできていた。


「あらためて言う──エレナ。どうか、君に来月の夜会の指揮を執ってほしい。分からないことがあれば、俺もいつでも相談に乗るから」


 ルシアン殿下は私の目を真っ直ぐ見つめて、そう問いかけてくる。


 ……正直に言うと、戸惑わないかと言えば嘘になる。

 だけど文官になったばかりの、しかも素性もろくに明かしていない私をルシアン殿下が期待してくれているのだ。

 その期待に応えたい。


 それに夜会の企画、運営ならレイモンドのところで何度も経験してきた。

 あの時は憂鬱な気分になりながら、こなしていたけど……ここではそうじゃない。

 私がこれまで培ってきた経験を活かせるのなら、こんなにやり甲斐を感じることはないわ。


 だから。


「……かしこまりました。その申し出、謹んでお受けいたします」


 そう頷くと、ルシアン殿下はほっと一息吐く。


「よかった……断られる可能性も考えていたからな」

「もし私が断っていたら、どうするおつもりだったんですか?」

「その時は、いつものようにテオドールにでもやってもらうつもりだった。だが、今回のことをテオドールにも相談したら、ノリ気だったぞ? 君なら安心して任せられると、太鼓判を押していた」


 テオドールさんが……ね。

 さっき話した時は、夜会のことなんておくびにも出さなかったのに。


 だけど実直で殿下への忠誠心も高く、真面目なテオドールさんにも評価してもらえていると思ったら、ますます嬉しくなってくる。


「では……私はそろそろ失礼しますね。なにせ、当日はどういう夜会にすればいいのか、今から考えることが山積みなんですから。陛下も他のみなさんにも、満足していただける夜会にしてみせます!」

「待ってくれ」


 話が終わり私が部屋から出て行こうとすると、ルシアン殿下に制止される。


「まだなにか?」

「ああ、もう一つだけ……。皆を満足させたいという君の考えは、立派だと思う。だが、全ての招待客を満足させるのは、そう簡単なことではない。人によって、好みも価値観も違うからな」

「それはおっしゃる通りです。ですが、最初から諦めていては、誰も満足させられないでしょう? もちろん、全員に喜んでいただけるとは限りませんが……私は、それくらいの意気込みで臨みたいんです」

「なるほど、君らしい考えだな」


 ルシアン殿下は小さく笑う。


「だが、その上で一つだけ、今回の夜会に条件を付けさせてほしい」


 条件? なにかしら。


 首をひねる私に、ルシアン殿下はこう告げた。


「たった一人──招待客の中にいる、ある一人の女の子だけは必ず満足させてくれ」


 彼の言ったことに、私は目を丸くするのであった。

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