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【連載版】「君がいなくても困らない」と言うので、本当にいなくなってみました  作者: 鬱沢色素


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11/14

11・地方からの村人

「──お願いします! どうか、うちの商品を買い取ってください!」


 街中に男性の声が響き渡った。


 私とルシアン殿下は思わず顔を見合わせる。


「なにかあったんでしょうか……?」

「どうやら、あっちの服屋で揉めているようだな。気になるし、話を聞きにいってもいいか?」

「ええ、もちろんですわ」


 一気に仕事モードに切り替わり、私はアイスのカップを出店の店主に捨ててもらってから、揉め事が起きている服屋へと向かう。


「だから、モノはいいんですって! このままじゃボク、田舎に帰れません! お願いします!」

「あんたの気持ちは分かる! だが、無理なものは無理なんだ! 諦めて帰ってくれ!」


 服屋の店先で、店主らしき男と十代中頃の青年らしき二人が言い争っている。


「すまない。なにがあったんだ?」


 ルシアン殿下は二人に近づき、後ろから声をかけた。


「揉めているだが、少々声が大きい。他の人たちも集まってきているし、どうか収めてほしい」


 店先の二人はハッとした表情で振り返る。

 店の周りにはいつの間にか人だかりが出来ていて、「なにがあったんだ?」と言わんばかりに好奇の視線を向けていた。


「す、すみません、つい……」

「まあまあ、そう気落ちしないでください。ここじゃあ人目がありますから、とりあえずお店の中で話し合いませんか?」


 私が青年を宥めながらそう提案すると、店主は小さく息を吐いてから「分かった」と言って、店の扉を開けた。


 私もルシアン殿下、そして言い争っていた二人とともに、店内へと入る。


「さて──あらためて聞かせてもらおうか」


 落ち着いたところで、ルシアン殿下は口を開く。

 店先の二人に話しかける前、目元に若干被るくらいに外套のフードを深く被ったためだろうか、彼が王太子だということに二人は気づいていない様子だった。


「一体、なにがあった? モノはいいやら、田舎から来たという言葉が聞こえてきたが……」

「ああ、実は……」


 店主が話を始める。


 なんでも店主と揉めていた青年は今日、地方の田舎からやってきたらしい。

 とはいえ、観光目的ではない。地元の田舎でみんなと作った、織物を携えてのことだった。


 なんとかして青年は織物を売り込みたい。そこで服屋に話をして、自分たちの織物を売り込もうとした。


 だが。


「こっちも商売でやっているんです。売れるかどうか分からないものを、買い取るわけにはいきません」

「で、ですが……モノはいいんですっ。きっと店先に並べてもられば、売れるはず……」

「確かに、織物の品質がいいのは認める。だがな、いくら良い品でも、知られていなければ客は手に取ってくれない。うちだって、売れ残りになるかもしれないものを抱えるわけにはいかないんだ」

「ああ……」


 田舎の青年が顔色を悪くする。


 ……事情は分かった。

 要は、青年は自分たちが作った織物を買い取ってもらいたい。

 しかし服屋の店主は、知名度もなく売れる保証もないものを、買い取るわけにはいかないと言っている。


 店主の言い分も分かる。

 しかしこの青年だって、相当の覚悟で王都に来たんだろう。簡単に引き下がるわけにはいかないはずだ。


「──これが、アルヴェリア王国の課題の一つだ」


 ルシアン殿下は頭痛を抑えるように額に手を当てて、困ったように息を吐く。


「地方には、良質な特産品が数多く存在している。だが良くも悪くも、王都は国の中心だ。金やもの、人が集まってくる。ゆえに地方の良いものを吸い上げる仕組みが、どうしても遅れているんだ」

「そうなんですね」

「ああ。もちろん王都と地方の格差は、俺たちもなんとかしたいと思っている。だが、民間人同士の取引である以上、王家が仕入れを強制することも出来ない。そんなことをすれば、キリがなくなるからな」


 王家と言えども、出来ることには限りあるみたいね。


 アルヴェリア王国は私の祖国と比べて、決して広い国ではない。

 しかし、国である以上、そこには王都以外に街や村などが点在している。それらを見捨てるわけにもいかないのだ。


「…………」


 一頻り話を聞いて、私は考える。


 ──要は本当に売れるかどうか分からないから、店主も足踏みしているということ。


 店主も商売でやっている。誰だって損はしたくない。


 だったら、お店が損をするリスクを最小限にして、地方の特産品を置く……それが出来れば、二人とも納得するんじゃないかしら?


「あ、あのー……先ほどから難しい話をしていますが、お二人は何者ですか?」


 考え込んでいると、店主が震えた声で尋ねてきた。


「先ほどから、民間人やら王家といった言葉が聞こえてきましたが……もしかして、お二人は王家に関係するかたなんじゃ──」

「詮索はしないでくれ。とにかく、一旦この件は持ち帰る。俺の方でなにか解決策を考え……」

「待ってください」


 ルシアン殿下が話を切り上げようとするが、私はそれを途中で遮って、一歩前に出た。


「この問題、私に任せてくれませんか?」


 そう言うと、ルシアン殿下はきょとんとして目を丸くしたのであった。

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