11・地方からの村人
「──お願いします! どうか、うちの商品を買い取ってください!」
街中に男性の声が響き渡った。
私とルシアン殿下は思わず顔を見合わせる。
「なにかあったんでしょうか……?」
「どうやら、あっちの服屋で揉めているようだな。気になるし、話を聞きにいってもいいか?」
「ええ、もちろんですわ」
一気に仕事モードに切り替わり、私はアイスのカップを出店の店主に捨ててもらってから、揉め事が起きている服屋へと向かう。
「だから、モノはいいんですって! このままじゃボク、田舎に帰れません! お願いします!」
「あんたの気持ちは分かる! だが、無理なものは無理なんだ! 諦めて帰ってくれ!」
服屋の店先で、店主らしき男と十代中頃の青年らしき二人が言い争っている。
「すまない。なにがあったんだ?」
ルシアン殿下は二人に近づき、後ろから声をかけた。
「揉めているだが、少々声が大きい。他の人たちも集まってきているし、どうか収めてほしい」
店先の二人はハッとした表情で振り返る。
店の周りにはいつの間にか人だかりが出来ていて、「なにがあったんだ?」と言わんばかりに好奇の視線を向けていた。
「す、すみません、つい……」
「まあまあ、そう気落ちしないでください。ここじゃあ人目がありますから、とりあえずお店の中で話し合いませんか?」
私が青年を宥めながらそう提案すると、店主は小さく息を吐いてから「分かった」と言って、店の扉を開けた。
私もルシアン殿下、そして言い争っていた二人とともに、店内へと入る。
「さて──あらためて聞かせてもらおうか」
落ち着いたところで、ルシアン殿下は口を開く。
店先の二人に話しかける前、目元に若干被るくらいに外套のフードを深く被ったためだろうか、彼が王太子だということに二人は気づいていない様子だった。
「一体、なにがあった? モノはいいやら、田舎から来たという言葉が聞こえてきたが……」
「ああ、実は……」
店主が話を始める。
なんでも店主と揉めていた青年は今日、地方の田舎からやってきたらしい。
とはいえ、観光目的ではない。地元の田舎でみんなと作った、織物を携えてのことだった。
なんとかして青年は織物を売り込みたい。そこで服屋に話をして、自分たちの織物を売り込もうとした。
だが。
「こっちも商売でやっているんです。売れるかどうか分からないものを、買い取るわけにはいきません」
「で、ですが……モノはいいんですっ。きっと店先に並べてもられば、売れるはず……」
「確かに、織物の品質がいいのは認める。だがな、いくら良い品でも、知られていなければ客は手に取ってくれない。うちだって、売れ残りになるかもしれないものを抱えるわけにはいかないんだ」
「ああ……」
田舎の青年が顔色を悪くする。
……事情は分かった。
要は、青年は自分たちが作った織物を買い取ってもらいたい。
しかし服屋の店主は、知名度もなく売れる保証もないものを、買い取るわけにはいかないと言っている。
店主の言い分も分かる。
しかしこの青年だって、相当の覚悟で王都に来たんだろう。簡単に引き下がるわけにはいかないはずだ。
「──これが、アルヴェリア王国の課題の一つだ」
ルシアン殿下は頭痛を抑えるように額に手を当てて、困ったように息を吐く。
「地方には、良質な特産品が数多く存在している。だが良くも悪くも、王都は国の中心だ。金やもの、人が集まってくる。ゆえに地方の良いものを吸い上げる仕組みが、どうしても遅れているんだ」
「そうなんですね」
「ああ。もちろん王都と地方の格差は、俺たちもなんとかしたいと思っている。だが、民間人同士の取引である以上、王家が仕入れを強制することも出来ない。そんなことをすれば、キリがなくなるからな」
王家と言えども、出来ることには限りあるみたいね。
アルヴェリア王国は私の祖国と比べて、決して広い国ではない。
しかし、国である以上、そこには王都以外に街や村などが点在している。それらを見捨てるわけにもいかないのだ。
「…………」
一頻り話を聞いて、私は考える。
──要は本当に売れるかどうか分からないから、店主も足踏みしているということ。
店主も商売でやっている。誰だって損はしたくない。
だったら、お店が損をするリスクを最小限にして、地方の特産品を置く……それが出来れば、二人とも納得するんじゃないかしら?
「あ、あのー……先ほどから難しい話をしていますが、お二人は何者ですか?」
考え込んでいると、店主が震えた声で尋ねてきた。
「先ほどから、民間人やら王家といった言葉が聞こえてきましたが……もしかして、お二人は王家に関係するかたなんじゃ──」
「詮索はしないでくれ。とにかく、一旦この件は持ち帰る。俺の方でなにか解決策を考え……」
「待ってください」
ルシアン殿下が話を切り上げようとするが、私はそれを途中で遮って、一歩前に出た。
「この問題、私に任せてくれませんか?」
そう言うと、ルシアン殿下はきょとんとして目を丸くしたのであった。
【作者からのお願い】
「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、
ブックマークや下記の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。
よろしくお願いいたします。




