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【連載版】「君がいなくても困らない」と言うので、本当にいなくなってみました  作者: 鬱沢色素


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10/14

10・デート? いえいえ、視察です

 翌日。

 私はルシアン殿下と街の視察に出かけるため、待ち合わせ場所の王都の正門に向かっていた。


「そういえば、今回の視察の目的って詳しく聞いていなかったわね……わざわざ私を同行させるのには、なにか理由があるのかしら?」


 私はそう首を傾げる。


 ちなみに……今日の私は文官の制服ではなく、持参した私服に身を包んでいる。

 これは、「明日はお互い、素性を隠して視察しよう」というルシアン殿下の申し出があったためだ。


 王太子が視察に来てるってバレたら、騒ぎになるかもしれないからね。

 だからルシアン殿下が素性を隠すのは納得できるけど……どうして私まで?


 色々と納得できないことはあったが、考えすぎても仕方がない。私は早足で正門まで向かう。


「来たか」


 辿り着くと、すでにルシアン殿下が立っていた。

 素性を隠すためか、今日のルシアン殿下は出会った頃と同じ、地味な外套を羽織っている。


 とはいえ、その体から溢れ出る高貴なオーラは隠しきれていないように思える。

 これで、本当に大丈夫かしら?


「すみません、殿下。待たせてしまいましたか?」

「気にするな、俺も来たばかりだ。そう言う君は……」


 顎に手を添え、じろじろと私の姿を観察するルシアン殿下。


「やはり、制服を身につけている君も素敵だが、今の素朴な格好も似合うな。美人はなにを着ても、似合うということか」

「……っ! お世辞が過ぎますわ、殿下」


 慌てて返事をする。


 こういう高貴な身分の方は、幼い頃から女性を褒めるのが癖になっているものだが……王太子から言われると、さすがの私も照れる。

 頬に熱が帯びていくのを感じた。


「お世辞ではないんだが……」


 少し釈然としない表情ながら、ルシアン殿下は外へと足を向ける。


「まあいい。視察を始めよう」

「はい」


 頷き、ルシアン殿下の後に続いた。




 街中──。

 王都に来たばかりの時も思ったけど、やはり祖国より活気付いているのが肌で感じ取れた。


 これも陛下──ならびにルシアン殿下が良き治世を敷いているためだろう、素直にそう思った。


「おい……あの二人」

「ああ、とんだ美男美女カップルだな」

「貴族の方かしら?」

「いや……貴族だったら、もっと上等な服を着ているだろう。にしても、平民とは思えないくらい、二人とも顔立ちが整っている」


 街を歩いていると、周りの人が私たちを見てひそひそと会話をする。

 ルシアン殿下は周囲の視線など気にしていないようだが、私はさっきからなんだか落ち着かない。


「それにしても、エレナ」


 そわそわしていると、ルシアン殿下がなにげなく私に話を振る。


「働き始めてから、まだ数日しか経っていないが……目覚ましい活躍ではないか。仕事を上手く進めるための、コツみたいなものはあるのか?」

「目覚ましい活躍だなんて……恐縮ですわ。そうですね……コツとは少し違うかもしれませんが、人の話をよく聞いて、覚えておくことにしています。なにげない会話の中でも、問題解決のヒントが含まれている場合が多々ありますので」

「なるほどな」


 合点がついたのか、ルシアン殿下は感心したように頷く。


 それにしても……先ほどからルシアン殿下は建物に入るわけでもなく、人に話を聞く話でもなく、ただただ街を歩いているだけだ。

 もちろん、街の様子を見て回るのも立派な視察だ。だけど、私と想像してたのとは、ちょっと違った。

 そう疑問に感じている時であった。


「お」


 不意にルシアン殿下が足を止める。

 その視線の先には──アイスの出店があった。


「美味しそうだな」

「そうですね。今日は少し蒸し暑いですし、見ているだけで涼しくなりそうです」

「君もそう思っていたか。……よし、食べようか。せっかくの視(・)察(・)だしな」

「ちょ、殿下!?」


 慌てて手を伸ばすが、ルシアン殿下は私の言葉を待とうともせず、そのまま出店の前で歩み寄り、店主に声をかける。


「アイスを二人分、お願いできるか?」

「あいよ! ありがとう。お客さん、味はなににする?」

「エレナはどうする?」

「そう……ですね」


 出店の前に飾られている見本を見ながら、熟考する。


「……ストロベリー味にしましょうか」

「分かった。だったら店主、彼女にはストロベリー味を。俺はバニラを」

「ありがとうございます──って、思わず答えてしまいましたが、どうしてここでアイスを? 視察は……」

「ん? 出店で出されている料理を試食するのも、立派な視察ではないか。エレナは変なことを言うな」


 楽しそうに笑いを零すルシアン殿下。


 ……出会った時から薄々思っていたけど、この人、かなりの悪戯好きだ。私が慌てているのを見て、悦に入っているらしい。


 その後、店主からカップに入ったアイスを渡される。お金を払おうとすると、「女性に払わせるわけにはいかない」とルシアン殿下に止められ、財布を引っ込めることになった。


 じっとカップの中のアイスを見つめながら、逡巡する。


「……食べないわけにもいかないわね、溶けるし。では遠慮せずに……」


 パクリ。

 アイスを一口すると、口の中に冷たい爽快感が駆け巡った。


「美味しいわ!」


 殿下の前だというのに、思わずそう声を上げてしまう。


 ストロベリーの甘酢っぱさが口いっぱいに広がり、すっと溶けていく。

 一気に蒸し暑さが吹き飛んだ。


「美味しそうに食べるな」

「す、すみません。つい」

「何故、謝る? 俺は美味しそうにものを食べる女性の方が好きだ。君は謝ることが多いな」


 ルシアン殿下もチョコレート味のアイスを食べながら、息を吐く。


 確かに……レイモンドが私の前でいつも不機嫌だったせいで、いつの間にか謝るのが癖になっているかもしれないわね。

 あいつの前では冷静な話し合いは出来ない。とりあえず、謝っておけばその場は収められたからだ。

 つくづくあいつと別れて正解だった。


 そういえば、レイモンドとこうして二人きりで出かけたことも数回しかなく……。


「あ」


 そこで気がつく。


「どうした?」

「……殿下。視察というのは建前ですね。本当は私を自然に休ませるために、街まで連れ出したといったところですか」

「バレたか」


 あっさりと白状するルシアン殿下。


 ──思い返せば、道中でルシアン殿下は視察らしい視察をしなかった。店に立ち寄ったと思えば、こうしてアイスまで買ってくれた。

 街の様子を調べるというより、私を楽しませようとしてくれていたのだろう。


 それらも全て「私を休ませるため」と思えば、納得がいく。


「このまま働き続けたら、君がそのうち倒れてしまうんじゃないかと心配になったんだ。君は優秀な文官だ。だからこそ、無理をしてほしくない。そこで、視察にかこつけて街へ連れ出したわけだが……不快だったか?」

「いえ──ありがとうございます」


 素直にお礼を言う。


 不快に思うだなんて、とんでもない。

 ルシアン殿下がたかが一介の文官相手に、そこまで真剣に向き合ってくれることが嬉しかった。

 おかげで仕事の疲れも吹き飛んだ気もするし、いい気分転換になった。


 ルシアン殿下に心から感謝だ。


「よし──種明かしも済んだところで、視(・)察(・)を再開しようか。まだまだ時間はある」


 ルシアン殿下もアイスを食べ終わり、出店を離れようとした時であった。



「──お願いします! どうか、うちの商品を買い取ってください!」



 男性の切羽詰まった声が、街中に響き渡ったのは。

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― 新着の感想 ―
たしか、殿下はバニラ味を頼んだはず。 注文と違うものを渡されたのか。 それとも、ダブルを頼んだ?
殿下のアイスクリームはバニラでは? チョコレート味になってますよ
楽しく読ませていただいております。 ルシアン殿下のアイス、注文はバニラだったのでは?チョコ味を食べてますが…。
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