釣りの想い出 五句
釣りの想い出、その景色を詠みました。
<1>
池失して
呆と遥かに
新幹線
【解説】
子供の頃の想い出。
ちょっと遠目のため池に足を延ばした、自転車で。
久しぶりに行ったら、埋め立てられていた。
遠くには建設中の新幹線の陸橋が見えた。
その下を、通り過ぎて来たのだけれど。
<2>
沢登り
魚籠を跳ねさす
昼行燈
【解説】
職場では目立つことはないが、静かに仕事を支えてくれる頼れる人がいる。
その人に誘われて渓流へ入った。
沢では別人のように軽やかで、魚籠を跳ねさせて笑っていた。
楽しかった夏の一日。
<3>
夏鯵を
追はずに友は
縁り覗く
【解説】
鯵釣りに行ってみたいと友が言う。その文月の望月の頃。
乗合いは観光船とは違うのだ。告げる、時間もその揺れ方も。
波低く運高くして朋の席、どれ程揺れるは知んぬ多少ぞ。
能面の友は船べり覗き込み、彼の衣手は露に濡れつつ。
空となり悟りて一尾、釣り上げた。彼の能面の口元も緩み。
めでたし、めでたし。
<4>
ゴンズイに
鳴かれて帰る
土用暮れ
【解説】
堤防で粘ったが、まるで釣れない。
帰ろうかと迷っていると、ゴンズイが一匹。
「もう帰れ」と鳴かれたようで、苦笑いしながら竿を畳んだ。
暮れていく中を歩いて帰った。
<5>
土用波
沈まぬ浮子に
気を鎮め
【解説】
浮子を見つめているつもりが、
いつの間にか自分の内側を見ている時間の方が長くなった。
それもまた暮らしに必要な静けさだと思う。
とはいえ、釣れないのが悔しくないわけではない。
読んでくださり、ありがとうございました。




