呪いについて②
俺と和政は顔を見合わせ、今聞いた言葉の意味を必死に頭の中で整理しようとした。
「“一番強い願いを歪んで叶える”……か……」
和政が眉を寄せ、小さく呟く。
「達也くん……郁美ちゃんって、元々あんな性格じゃなかったよね」
「ああ……」
「ちょっと吃音気味でさ。言葉に詰まりながら、おどおどしてて……」
和政は、昔の郁美を思い出すように目を細めた。
「弱気で、大人しい女の子だったはず……」
「あぁ……そうだ」
俺も静かに頷く。
郁美は、本来――
自分の意見を強く言えるようなタイプじゃなかった。
誰かに強く出ることなんてできない、どこか放っておけないような女の子だった。
なのに今の郁美は違う。
学校の空気すら支配し、人を脅し、孤立させ、自分の望む形へ周囲を捻じ曲げていく。
まるで別人だ。
「……そんな郁美ちゃんの“一番強い願い”って……何だったんだろう」
和政の問いに、俺はしばらく黙り込んだ。
そして――
ゆっくりと口を開く。
「……わからない」
「……」
「でも……もしかしたら……」
胸の奥に引っかかっていた違和感を、言葉へ変えていく。
「家族とか……大切な人との“繋がり”だったのかもしれない」
和政がハッとしたようにこちらを見る。
「郁美には、本当の父親がいなかった」
俺は静かに続けた。
「あの義父と、母親との三人暮らしだったんだ」
脳裏に浮かぶ。
怯えたように俯いていた郁美の姿。
誰かに愛されることに、飢えていたような目。
「だから……本当の家族ってものに、強く憧れてたんじゃないかって思う」
「……」
「それが、“歪んで叶う呪い”によって形を変えた結果……」
「今の郁美になったんじゃないか」
絶対に離さない。
絶対に失わない。
“本当の家族”を作ろうとしている、今の郁美。
「あくまで推測だけど……」
「……あり得る、かもね……。だとしたら、“二番目の願い”は……?」
和政は眉間に皺を寄せ、慎重に言葉を選ぶように続けた。
「弱気で、おどおどしてて、クラスでも浮きがちだった郁美ちゃんが、次に欲しがりそうなものって……“友達”じゃないかな。
ほら、文との戦いの時に言ってたでしょ?
『文ちゃんが、学校でできた初めての友達だ』って。
……きっとずっと、友達が欲しかったんだよ」
その瞬間、頭の中で散らばっていたピースが、音を立てて噛み合った。
――二番目の願いは、“裏返る”。
「“友達が欲しい”の裏返し……つまり、“友達なんていらない”」
「自分に必要なのは、“家族”だけ。
その家族を守るためなら、他人は全部、自分に都合よく動かすための駒でしかない……。
もしそういう風に性質そのものを書き換えられてるんだとしたら、今の郁美の行動にも説明がつく」




