↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獄門ループ ―家族が消えた日―  作者: ダダ太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

176/259

悲劇のヒロイン

桜だった。


体育の授業みたいな動きで、

誰にも声をかけられることなく、

黙々と作業をしている。


「……」


俺が何か言う前に、

桜がこちらに気づいた。


次の瞬間、

桜は木箱をその場に置いて、

こちらに向かって歩いてきた。


来る。


俺は思わず身構える。


郁美の指が腕に絡んでいる。

振りほどくタイミングもない。


「達也」


桜の声は、

思ったより落ち着いていた。


ただ、

俺の顔だけを見ていた。


郁美を視界に入れないようにしている、

というより――


入れる余裕がない、

という感じに見えた。


「ちょっと話せる?

二人で」


その言葉に、

郁美の指先がかすかに強くなった。


「あれ、桜ちゃん!」


郁美が俺の腕に絡んだまま、

桜に向かって首を傾けた。


声は明るい。

笑顔も完璧だった。


「どうしたの?

達也くんに用事?」


「……うん」


桜は郁美を見た。


一瞬だけ。


それから、

また俺に視線を戻した。


「達也、

少しだけでいいんだけど」


「えー、でもごめんね」


郁美が、

するりと俺の腕を両手で抱えた。


「今日、達也くん

私に付き合ってもらう約束してたんだよね」


「いや……

そんな約束は……」


「桜ちゃんのそれ、かわいいねー!」


そう言って、

唐突に桜の左手に巻かれた

ブレスレットを触る。


すると――


「きゃあ!!」


郁美が手を引っこめて、

その場でうずくまった。


よく見ると、

郁美の手のひらに

赤い筋が走っていて――


さらに桜の左手には、

歯を剥き出しにしたカッターが

握られていた。


異変を感じたクラスの連中が、

次々と集まってくる。


「どうしたの? 大丈夫?」


「え、血出てるじゃん!!」


「嘘ー、どうしたの!」


「大丈夫!

本当に大丈夫だから!


私がドジだっただけで――!!」


郁美が、

泣きそうな顔で叫んだ。


しかし、一度集まった野次馬は、

そんな簡単には引き下がるわけがなかった。


「ねえ、宮野さん。

その左手に持ってるの、何?」


一人の女子が、

桜の左手首を掴んで高く掲げた。


「ちが――!!

私は……!!」


カッターが、

蛍光灯の光を反射して

ぎらりと光った。


部屋が、

しんと静まり返った。


しばらくして、

どこからかヒソヒソ声が漏れ始めた。


「……やっぱり、

主役が自分じゃないから腹いせ?」


「クラス費盗んだ奴が

主役になれるわけないもんね」


「違う!!

みんな聞いて、これは――!」


「これは事故みたいなもので!

桜は何も――!」


俺が大声を上げると、

視線がいっせいにこちらに集まった。


「あんた彼氏なんでしょ?


だったらまずは、

松野さんの心配をするべきなんじゃないの?」


「いや……」


みんなの視線が痛い。


「い……くみ……

大丈夫か」


俺は郁美を見た。


郁美は手を押さえたまま、

潤んだ目でこちらを見上げていた。


それはもう、

悲劇のヒロインさながらだった。


「早く保健室に連れて行ってあげて。

後のことは、こっちでやるから」


俺と郁美は、

半ば強制的に

多目的室から追い出される。


どうすることもできないまま、

俺はまずは郁美を

保健室へと連れていくしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。