クラス費
「……」
俺は、何も言えなかった。
責められるわけがない。
これ以上、一之宮を巻き込めば――
今度こそ、
無関係な彼女まで
何が起こるかわからない。
(……もう、誰も頼れない)
胸の奥で、
重く冷たいものが沈んでいく。
味方はもう、どこにもいない。
完全に退路を断たれたような絶望感が、
鉛みたいに胃の底へ沈み込んでいった。
そして――
俺のスマートフォンは、
相変わらず郁美に握られたまま。
終わりの見えない、
“文化祭準備期間”が始まった。
放課後になっても、
俺の心はずっと重たいままだった。
――以前の郁美に戻ってほしい。
そして。
――桜と、
また普通に話したい。
頭の中にあるのは、
それだけだった。
両親を亡くした今、
心の拠り所はむしろ桜と郁美、
そして和政という、
獄門での記憶を共有する者たちに
限られていた。
他の誰かと連絡を取る手段もない。
――なら、直接行くしかない。
むしろ最初から、
そうするべきだったのかもしれない。
俺は最後の望みに縋るような気持ちで、
桜のクラスへ向かった。
(……頼む)
(郁美、いないでくれ……)
教室の扉をそっと覗き込む。
すると――
運良く、
郁美の姿はなかった。
どこかの委員会か、
文化祭の打ち合わせにでも
行っているのだろうか。
安堵しかけたが、
肝心の桜の姿も見当たらない。
代わりに、
中学時代から顔見知りの男子――木村が、
帰り支度をしているのが目に入った。
「木村、ちょっといいか」
「ん?
おう、達也じゃん。どうした?」
俺が廊下へ呼び出すと、
木村は不思議そうに首を傾げながら
ついてくる。
俺はまず、
反射的に周囲を確認した。
郁美はいない。
それを確かめてから、
声を潜める。
「あのさ……宮野。
桜って今どこにいるかわかる?」
その名前を出した瞬間だった。
木村の表情が、
サッと曇る。
そして彼もまた、
周囲を気にするように視線を巡らせると、
さらに小さな声で言った。
「……お前、
宮野さんと幼馴染だったよな」
「ああ」
「だったら、
悪いことは言わねえ」
木村はどこか気まずそうに眉を寄せた。
「今は……
あんまり関わらない方がいいぞ」
「……どういうことだよ」
俺は思わず木村に詰め寄った。
「何があったんだ?」
木村は困ったように目を逸らし、
ため息混じりに口を開く。
「いや……実はさ。
この前、クラス費がなくなった事件があったんだよ」
「クラス費……?」
「それで、その犯人が……
宮野なんじゃないかって噂になってて」
「はあ!?」
思わず声が大きくなる。
「桜がそんなことするわけないだろ!」
「俺だってそう思いてえよ」
木村も苦い顔で頷いた。
「でもさ……
宮野の机の中から、
集金袋の切れ端が見つかったらしいんだよ」




