朝
次の日。
ふと目を覚ますと、
郁美の寝顔がすぐ目の前にあった。
規則正しい寝息を立てるその顔は、
相変わらず息を呑むほど整っていて、
超美少女と呼ぶにふさわしい。
この異常な執着が、
ただの純粋な好意だったなら。
ずっとこのままならいいんだけどなあ、なんて。
叶うはずのない考えが頭をよぎる。
だが、腕に絡みつく彼女の
異常に強い力と、
昨日の屋上での狂気がフラッシュバックし、
背筋が粟立った。
俺は自分の微かな未練を押し殺し、
郁美を起こさないように、
そっと息を詰めながら布団を抜け出した。
どうやら郁美は朝に強くないらしく、
俺が身をよじって抜け出しても、
小さく寝返りを打っただけだった。
リビングに降りる。
テレビをつける気にはなれず、
静寂を紛らわせるために、
部屋の隅にある古いスピーカーから
静かなローファイの音楽を小さく流した。
ノイズ混じりの穏やかなビートだけが、
今の俺のささやかな精神安定剤だった。
壁掛け時計の針は、
朝の6時を指している。
水泳をやっていた影響で、
この時間には自然と目が覚める体になっていた。
……最近は、
全くプールに行けていないけれど。
大会はもう断念する旨を、
先日コーチに伝えたばかりだ。
両親が突然失踪したことを打ち明けると、
普段は鬼のように厳しいコーチも、
憑き物が落ちたように優しく俺を慮ってくれた。
本当は、高校卒業までは続けたかった。
でも、今は自分の日常を繋ぎ止めて生きていくだけで、
精一杯だった。
俺は冷蔵庫の残り物で軽く朝食を作り、
再び寝室へ郁美を起こしに向かう。




