ベッド
「ちょっと、明日の予定とか確認したいんだけど……」
「大丈夫。
明日のことは、ぜーんぶ私が教えてあげるから」
真っ直ぐな、
ハイライトの消えた黒い瞳で見つめられ、
俺はまたしても口をつぐむしかなかった。
そして、夜。
当然のように、郁美は帰らなかった。
「達也くんのパジャマ、ちょっと大きいね。
でも、達也くんの匂いがして……
すごく、落ち着く」
俺のサイズの合わないスウェットを着た郁美が、
俺のベッドに腰掛けている。
「俺はソファーで寝るから……」
そう言って押し入れから毛布を出そうとした俺の服の裾を、
郁美が強く掴んだ。
「ダメだよ。
一緒に寝ないと、風邪引いちゃう」
「いや、でも、さすがにそれは……」
「……私と一緒に寝るの、嫌なの?」
声のトーンが、スッと一段階下がった。
首筋に冷たい刃物を突きつけられたような錯覚。
部屋の空気が一気に重くなり、
呼吸が浅くなる。
「……嫌じゃないけど….」
「ふふっ、よかった」
狭いベッドに、二人で横になる。
郁美は俺の腕にすがりつき、
ぴったりと体を密着させてきた。
優しいシャンプーの香りが、
鼻腔をくすぐる。
客観的に見れば、
これ以上ないほど幸福な光景なのだろう。
「ずっと……ずっと一緒だからね、達也くん……」
耳元で囁かれるその声は、
甘く、そしてどこまでも重かった。
俺は暗闇の中で、
ただ天井を見つめることしかできなかった。
腕に絡みつく柔らかな感触が、
今はただの重い鎖にしか思えない。
明日になれば、また学校が始まる。
文化祭の準備も本格化するはずだ。
そういえば一之宮はどうなったんだろうか。
確認しようにも、俺のスマホは、
今も郁美の服のポケットの中にある。
どうしようもなくなった俺は、
ただ目を瞑り、
明日を待つしかなかった。




