ピリつく夕食
玄関のドアを開けると、
郁美は迷うことなく靴を脱ぎ、
俺の家へと上がり込んだ。
まるで、何度も通い慣れた
自分の家であるかのように。
「お邪魔しまーす。
ふふっ、達也くんの家の匂いだー。」
嬉しそうに部屋を見回す郁美。
だが、その目は
俺の部屋にあるものを
見極めているようにも見えた。
前回来た時からの
部屋の変化を。
それから郁美は何も言わず、
くるりと振り返る。
「達也くん、お腹空いたでしょ?
夕ご飯、作ってあげるね」
俺の返事も待たず、
郁美はキッチンに立ち、
冷蔵庫を開ける。
慣れた様子で、
手際よく調理を始めた。
トントン、トントンと、
リズミカルな包丁の音が部屋に響く。
本来なら、
女の子が手料理を振る舞ってくれるという、
夢のようなシチュエーションのはずだ。
なのに、聞こえてくるその音が、
俺には真綿で首を絞められる
カウントダウンのように思えてならなかった。
出された料理は、
相変わらず異常なほど完璧だった。
味付けから盛り付けまで、
すべてが俺の好みに
ドンピシャで合わされている。
「美味しい?
ふふっ、よかったぁ」
頬杖をつき、
ニコニコと笑いながら
俺が食べるのを見つめる郁美。
だが、食事を終え、
俺がふとポケットのスマホに
手を伸ばそうとした瞬間――。
スッ、と。
郁美の手が伸びてきて、
俺のスマホを
あっさりと抜き取った。
「あ……」
「ご飯の後は、
二人っきりの時間、だよね?」
画面を見ることすら許されない。
郁美はそのままスマホを、
自分のカーディガンのポケットへと
深くしまい込んだ。




